【プロンプト・オブ・ハピネス】⑦
第三十章 Maja(マヤ)のもう一つの顔
食事が終わると、マヤは「見たいものがあるでしょ?」とでも言うように、私を自室の奥に位置する、彼女の秘密基地のようなパソコンルームへと案内した。足を踏み入れると、部屋全体を埋め尽くす複数のモニターと、中心に鎮座する高性能なワークステーションが、異様な存在感を放っていた。
「ここでは主にホワイトハッカーとして、ブラックハッカーからの攻撃を監視し、システムを守る役割をしているの」
マヤはそう言って、画面に映し出された複雑なコードを指差しながら説明を始めた。その口調は、カフェで出会った時の柔らかな印象とは異なり、プロフェッショナルな響きを帯びていた。
「最近は、ロシアのウクライナへの侵攻後、スウェーデンも北大西洋条約機構に加盟する方向に進んでいるから、ロシアからのハッキングが増えてきているの」
彼女は続けた。その言葉には、ただの技術的な説明以上の、緊迫感が込められているようだった。 「父親が経営するIT会社のセキュリティ部門も、その対策に当たっているわ。もちろん、会社での監視は続けているけど、この部屋でも24時間監視しているの。異常があれば、私のスマートフォンにメッセージが届いて、すぐに対応が迫られることもある」
その説明を聞きながら、私はマヤの技術が本当にすごいのだと改めて実感した。ロシアのハッカーたちにとって、彼女はまさに手ごわい存在なのだろう。彼女の視線が、モニターから私へと向けられた。
「海斗なら大丈夫。教えるね」
彼女のその一言は、私の好奇心を猛烈に刺激した。私は迷わず頷いた。それからというもの、私たちは時間があるたびにこの部屋にこもり、ホワイトハッキングの仕事に没頭した。マヤの教え方は分かりやすく、私はすぐにこの新しい世界に引き込まれていった。
第三十一章 カフェで働く
1週間が過ぎ、いよいよマヤのお母さんが経営するカフェで働く初日を迎えた。朝食をとりながら、私はマヤに言った。 「マヤ、今日からお義母さんのカフェで働くんだ」
マヤは私のカップにコーヒーのおかわりを注ぎながら答えた。 「そうね、今日からだったわね。私も時々手伝っているのよ」 その言葉に、少しだけ心が軽くなる。
「店長ってどんな人なの?」 私が尋ねると、マヤは微笑んで言った。 「30歳くらいの美しい女性よ。優しいし、仕事も丁寧に教えてくれるから安心してね。頑張ってね、私も応援しているわ」
彼女の言葉に心強さを感じながら、私たちは朝食を済ませた。 「車で送ろうか?」 マヤが提案してくれたが、私は既にインターネットで注文していた自転車が届いていたので、断った。 「大丈夫、自転車で行くから」 スウェーデンに来て初めて、マヤと別行動をとることになった。彼女は、歌の練習と勉強をすると言っていた。
カフェに着くと、店長とスタッフに自己紹介をした。店のユニフォームに着替え、仕事の準備を整える。店長は優しく、仕事の手順を一つ一つ、丁寧に教えてくれた。お客さんがカウンターで注文し、注文した商品をカウンターで受け取る。飲んだり食べたりしたものは、自分で返却口に戻すシステムだ。時折、店内の様子を見回し、美化に努める。コーヒーはマシンでボタンを押せば、カップに自動的に注がれる。会計はほとんどがキャッシュレスで行われるため、現金を扱うことはほとんどない。
この1週間、私はマヤと勉強のためにスウェーデン語で会話をしてきた。日本でビザを待つ間、徹底的にスウェーデン語の勉強に励んだ成果が、このカフェでスタッフやお客さんとの日常会話でのスムーズなコミュニケーションとなって表れた。初めての仕事に臨んだ初日から、大きなミスもなく、店長に教えてもらった手順を丁寧にこなすことができた。店長は私の仕事ぶりに驚き、その飲み込みの早さに感心していた。
仕事が終わり、マヤに今日は何を食べたいか連絡すると、彼女は「海斗のパスタがとっても美味しいから、パスタが食べたい」と答えた。帰り道、自転車に乗ってスーパーマーケットに立ち寄り、パスタの材料を買い、家に戻った。
第三十二章 再びMaja(マヤ)の家族と
それから1週間後、私の仕事ぶりを見に、マヤのお母さんがカフェにやって来た。彼女は私の働く姿をしばらく見ていた後、感心したように言った。 「もうベテランスタッフみたいに働いてるじゃない」
そして、私に声をかけた。 「マヤと一緒に、今度の日曜日に食事をしに来てくれないかしら?」 そう言い残して、彼女は店を後にした。
次の休みの日、私たちはマヤの実家へと向かった。 「今日は楽しい一日だったね」 私が言うと、マヤは微笑みながら頷いた。
両親と姉2人も揃い、ランチを食べながら楽しい時間を過ごした。食卓で、お母さんが私の働きぶりについて、感心した様子で褒めてくれた。その間、マヤは私の顔を見て微笑んでいて、とても嬉しそうだった。
食事が一段落した頃、お父さんが私に目を向けた。 「マヤのホワイトハッカーの仕事、手伝っているんだってね」 そう言って、感謝の意を示してくれた。 「本当にありがとう。これからは給料を払わなきゃいけないな」 お父さんのその言葉に、私は驚きと喜びを感じた。
マヤの教え方も非常に上手だったため、私はコツを掴むのが早く、今では様々なシステムへのハッキングをこなせるようになっていた。そして、私が掴んだ情報がマヤを通じてお父さんに報告されたらしく、それが非常に重要な情報だったという話だった。
帰りの車の中で、私は興奮気味に語り始めた。 「マヤのお父さんに褒められたこともあって、俺、どんどんハッキングの世界にのめり込んでいくよ」 私が笑顔で語りかけると、マヤも笑顔で応じた。 「そうだね、お父さんに褒められたら、やる気もアップしちゃうよね」
「マヤとコンビを組んで、慎重に難しいハッキングもこなしていくのが楽しいんだ」 私は続けた。マヤの手を取りながら、私は改めて言葉にした。 「私たちは恋人同士であり、カフェのバイト仲間であり、そしてハッキングの世界では相棒だね」
マヤは私の言葉に、満面の笑みで答えた。 「はい、二人の関係は、ますます色濃い関係になっていくね」
つづく
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