面白い話は本当に学習を助けるのか あらためて『Keep it Coherent』を読んで考えたこと
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Keep it Coherent: A Meta-Analysis of the Seductive Details Effect
Sundararajan, N. & Adesope, O. (2020)
Educational Psychology Review, 32, 707–734.
「Seductive Details Effect(魅力的だが本質と関係の薄い情報効果)」とは
授業では、「生徒の興味を引こう」と考えることがよくある。
面白い雑談をしたり、関連する動画を見せたり、興味深いエピソードを紹介したりすることは、多くの教師が経験しているであろう。私自身も若い頃は、「まず興味をもたせることが大切だ」と考えていた。
しかし、最近あらためて読んだ認知心理学のメタ分析 Keep it Coherent: A Meta-Analysis of the Seductive Details Effect は、その考え方を改めて見直すきっかけになった。
この研究では、「学習内容とは直接関係しない魅力的な情報(Seductive Details)」は、学習者の理解を促進するどころか、かえって妨げる場合があることが示されている。
理由は単純である。
学習者の注意は限られているからだ。
面白い話に意識が向けば、本来理解すべき内容から注意がそれてしまいます。その結果、文章全体の意味のつながりを構築することが難しくなる。
論文のタイトルにある Keep it Coherent は、「学習内容の一貫性を保つこと」の重要性を表している。
この考え方は、私が普段の授業で心掛けていることとも重なる。
例えば、私は速読や速聴の活動では、本文と直接関係のない周辺情報をほとんど話なさい。
「この国では……」「実は作者は……」といった知識は興味深いものだが、英文を読み進めながら学習者自身が内容を予測し、意味を組み立てていく過程を妨げる可能性があるからだ。
もちろん、章が続いている教材であれば、前回の内容を簡単に振り返る。しかし、それは新しい内容を先回りして説明するためではない。
あくまでも、これまでの内容を思い出し、学習者自身が「この続きはどうなるのだろう」と予測できる状態を整えるためである。
オーラルイントロやスモールトークでも同じことを意識している。
授業の導入だからといって、何でも自由に話すわけではない。
これから読む英文や扱うテーマにつながる話題を選び、学習者の認知を自然に本文へ向けていくことを大切にしているからである。
つまり、「興味を引くこと」ではなく、「学習内容へ注意を向けること」が目的なのでだと考えている。
振り返ってみると、私が行っている Picture Describing や段階的要約、音読、Q&A、発表などの活動も、すべて同じ内容を異なる形で再構成する活動である。
新しい情報を次々に加えるのではなく、一つの内容を繰り返し見つめ直し、自分の言葉で表現し直すことで理解を深められるように支援したい。
私は以前から、「自分の言葉だと実感できる。音(声)だと実感できる英語力」を育てたいと考えてきた。
そのためには、教材に余分な情報を付け足すことよりも、学習者が一つの内容をじっくり味わい、自分の中で意味を再構成する時間の方が大切なのではないかと思う。
「面白い授業」を目指すことは決して悪いことではない。
しかし、本当に目指すべきなのは、「面白い授業」ではなく、「英語で聞いてみたい、読んでみたい、離してみたい、書いてみたい」と思える授業なのかもしれない。
今回の論文は、あらためてそのことを認知心理学の立場から改めて教えてくれた。
自分の言葉だと実感できる、自分の音(声)だと実感できる授業づくりに向けて取り組んでいきたい。
