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サイケデロス・サーガ 第7話 「居心地が悪い」【創作大賞2026|ライトノベル|ファンタジー小説】

深夜。
修行が終わり、アインとツヴァイに別れを告げる。
帰り際、ツヴァイに耳元で言われた。
ツヴァイの声色が、さっきまでの軽口とは違っていた。
「イサム忠告さね。」

「忠告?なんだよ!」

「ユウは良い男さね」

「口説きか。そういう事は本人に直接言えよ」

「ははっ!それもいいさね!でもそうじゃないさね。」

「なら俺にだけ伝える意味はなんなんだ?」

「あの子危ういさね」

「危ういって子供じゃないんだ」

「堕ちやすいよ」

「おちる?」

「そうさね、この街ではユウみたいな純粋は堕ちやすく染まりやすい毒の街さね」

「毒って薬物とかじゃないだろう?」

「忠告はしたさね、よく視ててあげるさね」

疲れで頭が回らず、言葉の意味を深く考える余裕がなかった。
俺は首を傾げなら相槌をした。

ツヴァイは俺の肩をポンポンと叩いて家の奥へ消えて行った。
その横でアインはドアの前で小さく手を振る。
妙に可愛いらしい仕草に少しだけ疲れが和らいだ。

俺達はボロボロになりながらもアクアの家を出る。

**********************

アクアの家を歩いて5分、家まで残り半分の距離。

「体がいてぇ」と声が漏れる。
普段から体を動かしている俺でも、あんなに激しく動かせば体のあちこちが痛い。

「お…俺も限界だ」
ユウの足が生まれたての小鹿のようにプルプル震えて
そのまま地面に尻もちついた。歩くのが辛そうだ。

俺は手を差し出し、ユウの手を掴んだ。
ゴツ。

「お前この手、竹刀だこか」

「ちげーよ、これは……ゲームだこだよ」
ユウはバツが悪そうに答える。

俺とユウは子供の頃から一緒に剣道をやり、
ユウに至っては負けなしで神童と呼ばれる程の天才少年だった。
しかし家庭の事情で、中学卒業と同時にユウは剣道を辞めた。

それから竹刀は触ってないと思っていたが、この手を触れば分かる。
誰にも言わずに、ずっと振っていたんだろう。
こいつはそういうところが昔から変わらない事に、俺は自然と笑みがこぼれた。

俺は刑事になってからも、月に一度は竹刀を振る。
そんな俺の手よりも、ユウの手の方がゴツゴツとした竹刀だこである。
しかし、ここでユウの努力をわざわざ追求する事でもないだろう。

俺達はふらふらになりながら家に着く。
ユウとカジは着替えをしそのままベッドに飛び込んだ。

俺はタバコを手にとり外に出た。
すっかり辺りは暗く、星が綺麗に出ている。

星を見ているとある事に気付く。
元居た世界でも見た事ある星座がいくつかある。
星座に詳しい訳じゃないが、明るく光る星が八つあり、砂時計の形。
あれは間違いなくオリオン座だ。
ここは元居た世界とは全然違い亜人やモンスターがいる世界。
そして超能力や魔法の類もある異世界。
なのにこの元居た地球と同じオリオン座は偶然なのか?

この世界の空に、地球と同じ星座がある。
それは偶然というには、あまりにも出来すぎていた。

俺はタバコをふかしながら考えるが、答えは出なかった。

それよりも、この世界でどうするか一度整理して考えよう。
集中して考えろ。
生きる事は大前提として、これからの身の振り方はあの王様次第。
この世界は闘いができ、戦闘力が主に評価されるだろうから能力がない俺は不利だな。
しかしユウとカジは能力が使えるから、この点ではやりようはありそうだな。
もしも王が危害を加えてくるような事がある時に、二人を連れ逃げる事も考えよう。
その為に情報収集は急務だろう。
街の人に近くの国の情勢について聞くのも良いだろう。
夜風が少し冷たくて、頭の熱を静かに冷ましてくれた。

「ふぅ脳みそ使った」煙を吐き出すと同時に言葉が漏れた。
俺はタバコの火を消しそのまま家に戻る。

明日になれば、また何かが動く。
そんな予感だけを胸に、横になりゆっくりと目を閉じた。

**********************

チュンチュンと鳥の鳴き声が耳に届き、自然と目が覚めた。

若い頃はいくらでも寝れたのに、歳を取るとこうして勝手に目が覚める。
とはいえ、筋肉痛が翌日に来ているあたり、まだ体は若いってことだろう。

「みんな、おはよう」

ゆっくり体を起こしながら声をかけると、
ユウがベッドの上で大きく伸びをした。

「今日はのんびりしようぜ。さすがに体ガッチガチだわ」

「俺も腕がパンパンっす……でも良い夢は見れたっすわ〜」
カジはにやけながら言った。内容は聞かないでおこう。

二人とも、昨日の修行の反動がモロに出ている。
能力を使っている分、俺より消耗が激しいのかもしれない。

王様もそろそろ戻ってくるだろうし、情報収集がてら一度休むのは悪くない。

「二人とも辛そうだな。よし、今日は休みにして美味いもんでも食べに行こうぜ」

ユウは頬をかきながら立ち上がる。

「流石に今日は食堂とかでちゃんとした飯が食いたいな」

「確かに、体ボロボロのカジに作らせるのも悪いしな」

「俺は別に大丈夫っすよ」

「別に外で食べたっていいだろう、ただ……」

「ただ……?」

俺はお金の袋の中身を見ながら答える。
「金は余ってるけど……土地勘がないんだよな」

ユウは手の平に拳をポンと叩きながら言う
「そういう事か、それならアクアの家に行って、あの二人に聞きに行こうぜ」

カジがニヤニヤしながら大きく首を縦に振りながら言う。
「ツヴァイちゃんの谷間見れるなら眼福っすわ」

「……お前は本当にブレねぇな」
俺は苦笑しながらも頷く。

「まぁ昨日の修行の礼もしたいし、俺も聞きたいことがある。」

「なら、決まりだな。まずは着替えようぜ」ユウはベッドから立ち上がりなら言う。

「その前に汗臭いから朝の水風呂入ってから行こう」

朝の光を浴びながら、俺たちは再びアクアの家へ向かう為に準備をする。

**********************

疲労からか、体がすんなり動かなく準備に時間がかかりようやく家を出る事ができた。
アクアの家まで歩いて数分。

今日も街の人達は朝から活発に働いていた。天気はよく雲一つない快晴である。
不思議な気分だ、空や匂いは元いた世界と全く同じなのに
亜人や中世の街並みは元居た世界とは全然違う。
異世界にしては元の世界と類似している点が多すぎる。
それが逆に、胸の奥に小さな違和感を残した。

ファンタジー、ライトノベルやゲームなど色々触れてきたが異世界と言えば月が二つあったり、ステータスアイコンが出てきたりと行ったお決まりのはない。
…まぁそれは当然か、夢ではない。
これは痛みはあるリアルなのだから、この非日常の光景にも早く慣れていかないといけない。

アクアの家の前に着き、入口には誰も立っていない。
「寝てるんだろうか?」

「とりあえずドア叩いてみようぜ」
ユウはドンドンとドアを二回叩く。

……しかし、返事はない。

「留守か…」

「結構いい時間だろ今」ユウが首を傾げる。

俺は腕時計を見る。俺が身に着けていた自動巻きの腕時計だ。
この世界には時計がない。
だから俺の腕時計だけが、元の世界と俺を繋ぐ唯一の証拠だった
こっちの世界に来て始めての迎えた朝の時に、自分なりに感覚で時計を合わせている。

俺は時計を見ながら
「時間的にはお昼前だし、お店やっているかもしれないから食べれるお店を探しに行ってみよう」

アクアの家を出て露店が並ぶお店へ向かう事にする。
三人で歩いていると、背後から俺たちを呼ぶ声がした。

振り向くと、鎧をまとった大柄な男、いや狼頭の亜人が歩いてくる。
その歩き方だけで分かる。こいつは戦い慣れている。
灰色の毛並みに鋭い黄色い瞳。
しかし、その表情は柔らかく笑っていた。

「おや、見ない顔だな。お前たちが、シュラ王が言っていた迷い森に居た人間だな?」
低くもよく通る声。

「あのカエル、人望あるんだな」
ユウがボソリと呟く。

「ユウさん、兵士の前でそんな事言っちゃダメっすよ」
カジがユウの肩を掴み、慌てて止める。

「別にいいさ、でも王の前で言うなよ。首が飛ぶぜ」
と狼男が大笑いしながら話す。

俺は腕を組みながら考える。
この男の圧は城に居た兵とは、レベルの次元が違う。
着ている鎧も傷が沢山入ってるが、高価な鎧と言うのが目に見えて分かる。
つまり一般兵ではなく、特別な兵。
特別な兵なら鎧に傷は入らないから前線で闘う特別な兵だろうか。

それにシュラ王が言ってたと、この男は言った。
つまりシュラ王から直接言葉を貰える近い存在。
側近、もしくはそれ以上の人かもしれない。

今は情報収集もしたいから、この男から聞ける事は聞こう。
考えをまとめ、ユウとカジの肩を軽く叩く。
情報は力だ。
今は聞けることを聞いておくべきだ。
俺はその男へと歩み寄った。

「ええ、先日来たばかりです。
あの……すみません、食堂を探してるんですが」。

「お、そうか!俺も今からご飯だから案内してやるよ。」

「一緒していいんですか」

「ここで会ったのも何かの縁さ、俺はラゼム。
ここじゃちょっと名の知れた兵士でね」
ラゼムは照れくさそうに鼻をこすった。
そしてその大きな手を差し出してきた。

握ると分かる岩のような硬さ、そして人情味ある温かさ。
長年刑事をやってきて、悪い人間と良い人間の区別はつく。
この亜人は悪い人じゃないだろう。

俺は手を出し挨拶する
「イサムです。こっちはユウとカジ」

「よろしくな!腹減ってるんだろ?
なら早く行こうぜ。俺も腹ペコだし食べながら話そうか!」

こうして俺達は、戦士ラゼムと共に、賑やかな食堂へ向かうことになった。

**********************

食堂
焼き立てのパンの香りと、煮込み肉の湯気が立ちこめる。

ラゼムはジョッキを一口あおると、肘をつきながら口を開いた。
「お前達はこの国の事、あの王を見て悪い国って思ってないか?」

「正直にいえば…ええ、それに俺たちがいた所とは全然違う所だったので」
イサム達もジョッキに口をつける。味はビールに近いアルコールだが、ぬるい。

「まぁ王は少し乱暴だけど、でもこの国は他の国に比べても良い所はたくさんある」

俺はジョッキを置きながら答える。
「それはここに住んでいる人を見れば分かります。
恐怖政治ならば街の人が笑顔でいれるはずがありません」

「うむ、じゃあせっかくだし少し昔話をしをしよう」
ラゼムは目をキラキラさせながら言う。話し好き?いや語るのが好きなタイプだ。

「お、歴史の授業か?」
ユウがパンをかじりながら笑った。

頭の中でこの世界について改めて考える。
建物などを見る限り、文明レベルは俺たちのいた世界の中世後期。
亜人兵士達の装備を見ると、主力は剣や弓、そして能力や魔法なんだろう。
しかしこの世界に来た時、俺たちを襲ったあの異形の怪物は何だ?

「話しの前に一つ聞きたいのですが……いいですか?」

「遠慮なんていらない、なんでも聞いてくれ」

「実は俺たちは太くて長い異形な姿の怪物に襲われてる所を、この国の人達に助けられました。」

「襲われたって、モンスターの事だろ?」

「モンスター?」

「ああ、街の外にはたくさんの動物がいる。人を襲う動物を俺達はモンスターと呼ぶ。」

「なるほど、理解しました。」

「そしてモンスターが街に入ってこないように、俺たち兵士が守ってるってわけさ」
ラゼムはニヤリと笑う。

人を襲う動物。
モンスターが人を襲うって、まるでRPGのゲームみたいだ。

「そういえばアクアが言っていたな、魔族を束ねた魔王。
モンスターってその魔族と関係あるのか?」ユウはおつまみをかじりながら会話に入る。

「モンスターと魔族の違い?さてはお前たち…」
ラゼムが飲んでいた酒の手を止める

まずい、俺はテーブルの下からラゼムにバレないようにユウの肘を叩く。

「さてはお前達、相当田舎から来たんだろう」
どうやら心配し過ぎのようだ。ラゼムはワハハと豪快に笑っている。

「ええ、俺達が居た国ではモンスターは居てもあまり襲ってくる事はないので、魔族の事も本で読んだ程度しか分からなくて」

「まずモンスターと魔族は別モンだな。
そうだな、モンスターは見た目が異形で、その上知性がねぇ。ただ暴れるだけの化け物の事だ」

ラゼムは飲み干したジョッキを揺らし、店員を呼びながら話を続ける。

「魔族がいてモンスターもいる。それもまるでRPGの世界だよな」
ユウが肩肘をつきながらカジの肩を叩きながら呟く。

カジは黙ってスープを啜りながら耳を傾ける。

RPG。ユウは俺と同じ事を思っていたらしい。
俺も気になる事を聞いてみる。
「ちなみにモンスターと魔族の違いってなんですか?俺達が居た国の本では魔族もモンスターも似たような表現に書かれているんですよ」

「ん?魔族がモンスターみたいに異形かどうかの話か?」

「ええ、俺達は魔族もモンスターも似てるものと思ってます」

「そもそも魔族は人型だな、例えば羽や角があったりするのもいる。まあ俺たち亜人に近い姿だ」

イサムは手帳を取り出し、興味深そうにペンを走らせながら質問した。
「凄い話しですね俺達の国では魔族はおとぎ話みたいなものなので

「人間の国は広いが、魔族を知らない田舎の国があるんだな。まぁそれは平和になったって証拠だろう。」

「ちなみに魔族と人間と亜人の関係はいいんですか?」

「なるほど、そこから説明が必要なんだな。
そもそもこの土地は、モンスター以外では元々人間だけが住んでいたんだ。」

「つまり途中からは人間だけの土地ではなくなったと?」

「ああ、約千年前、海の向こうで竜族と魔族が大きな戦争をしてな。
それで魔族を率いてた魔王が撃たれた事で、魔族たちが海を越えてこっちに押し寄せてきたのさ」

「今度は魔王と竜族って。スケール大きすぎて俺はもう頭に入らねぇ。イサム頼んだ」
ユウは頭をかき、お酒を勢いよく飲む。

「その中でも魔王直属の五人の幹部が率いる一万人の軍が、人間の土地を次々と襲った。
この戦争は人魔大戦争と呼ばれて五年も続いたんだ」

ユウはパンを置き、目を丸くする。
「五年?そりゃもう国がどうとかじゃねぇだろうよ」

「ああ。俺も歴史で聞いた話しだから細かくはしらないが
人間の人口は半分までに減り、いくつもの人間の国が滅びかけたんだ。」

俺はメモ帳に走り書きする。
「魔族恐るべしって事ですね。一万人の軍だけで、国をいくつも滅ぼしかける戦闘力。
つまり魔族は人間より優れているって事ですね?」

「ハッハッハ!イサムは頭がいいんだな。その通りだ」
ラゼムは笑いながら話しを続けてくれた。
「まぁここまで聞いて人間側が絶望的に感じるだろう?」

「まさか人間側が逆転するんですか?」

「そう、その逆転のまさかだ。絶望の中で現れたんだ銀髪の女勇者がな。
そいつは魔族軍最強と呼ばれた幹部の一人を、たった一人で討ち取ったんだ」

「勇者マジぱねぇっす。なんならその子絶対エッチなボディした勇者に間違いないっす。」
カジは鼻の下を伸ばしながら言う。

「どうだろうな、本とかでは銀髪の美女なんて風に書かれてたりもするらしいからな」

「俺の女の子センサーがビンビンに反応してるっす!間違いなくエッチぃ勇者っす!」

「お前はブレないな」
俺は少し笑いながらカジの頭を掴み収める。

「楽しそうでいいじゃないか、仲間は大事だぞ」
ラゼムは関心した眼で俺達を見る。

続きが気になるから俺はカジを抑え
「いえ、それよりもこんなに楽しい歴史の話し続きが気になりますよ。」

「ああ!続きだけどなぁ、魔族達はそこで士気を失い、西の土地へ退いたんだよ」

「そこまで士気を失う。つまりやられた魔族軍の幹部がキーマンだったんですね。」

ラゼムはジョッキを置き、少し声を落とす。
「ここからが大事な部分だ。
その女勇者は生き残った人間を束ねた。
そして聖なる王女で聖王と呼ばれるようになる。
今でもある人間の国で一番大きい国『聖王国』を建国したってわけさ」

「へー、じゃあ戦争はそこで終わりなのか?」
ユウの顔が少し赤い、酔っているのが分かる。

「いや、まだ続きがあるぜ。
聖王が残った魔族軍を討とうと人を集めたんだ。しかも当時の魔族軍の何十倍もの兵力だ。
そんな兵力を見かねたのか、それとも最強の幹部が敗れたからなのか、魔族軍の幹部四人が聖王の前に現れて提案をしに来るんだ」

「提案ってことは、やはり魔族には人並みに知性はあるんですね」

「だから魔族はモンスターとは違うって言ってるだろう。
普通に人間と話せる。それで魔族は聖王に、歴史的提案をするんだ。」

「歴史的提案ですか?」

「ああ、まず魔族は聖王に今の西の地をよこす代わりに人間には手を出さないと申し出たんだ」

俺は腕を組みながら答える。
「交渉。ですが随分と魔族側に都合のいい和睦ですね。」

「そうか?当時は5年も続いて人口も半分まで減らされてるんだ。お互い疲弊してたから、妥当な和睦だったと俺は思うぜ」

「なげぇ~これでやっとめでたし…だよなっ」
ユウはニヤッとしながら酒瓶を飲み干す。

ラゼムは人差し指上げ横に振る
「歴史的提案はそれだけで終わらない、聖王は本当に聖人でな。
魔族のことも考えてその条件を呑んだ上で、更に条件を付けたんだ。」

俺は黙って頷いて話しを聞く。

「和睦ではなく、友好を築いていこうってな」

「優しい提案ですね、まるで聖王と言うより、本に出てくる慈悲の聖女みたいですね」

「まぁ昔話しだから、話しに尾ひれついてるかもしれないが
聖王が友好の証として、人間と魔族の領土の真ん中に街を建てようと提案して、
できたのが『人魔街(じんまがい)』さ」

人魔街(じんまがい)。
言葉の通り、人と魔族の街って事だろう。
「もしかしてこの街のことですか?」

「惜しいけど違うぜ。まぁ話は最後まで聞けよ」
ラゼムは笑いながら話しを続けてくれた。

「まず西の地を与えられた四人の魔族幹部は、
それぞれ東西南北を分け合い、各々が街を作って生活を始めた。
そして次第に『四魔大貴族(しまだいきぞく)』と呼ばれるようになった」

「お、出た。なんかボスキャラ感あるワードだな」
ユウがニヤリとする。

「だがな、人魔街が出来てから数年で聖王が突然姿を消したんだ」

「消えた?……殺されたとか?」

「今でも色々な憶測や噂話しはたくさんあるが、真意は分からない。」

「でも、それなら何が問題なんですか?」

「急に頭が居なくなったから人間の国がゴタゴタしたんだ。」

「なるほど、聖王がいなくなり統制がとれなくなった……つまり……」

俺は少し考える。

聖王が消えただけで国が機能しなくなるのは、政治構造としては弱すぎる。
本当に問題だったのは統制ではなく…権力の方だろう。

「つまり……権力の問題ですか。
例えば、今の王は聖王の血筋じゃないとか?」

ラゼムはゆっくりと答えた。
「いや、聖王の親族が現れ王位を継いだと表向きはされているが、ただこれも本当かどうか分からない。」

「なるほど……でも、そんな大事な事が曖昧なんですか?」

「昔話で知ってるだけだから真意は知らないが、聖王は孤児だった文献がいくつも見つかってて有名な話なんだ。」

俺は顎に手を当てる。
「……つまり、混乱している国を早期にまとめるために親族という形で権力を継承させる必要があった……という事ですね。」

「理解が早いな。そういう事だ。」

「ではその初代聖王が姿を消したから、すぐに戦争になったりしたんですか?」

「いや違う。それから教会が出来て、聖王国と教会は小さい内戦を始めて国が二つに分かれるんだ。」

「教会ですか?その教会は何を祈る教会なんです?神様?」

「聖王の遺物を管理し、聖王を祀る教会だ。
今でも残ってるし、人間の国の中では一番の権力があるんじゃないか?」

「なるほど……それで、その後何か問題は起こるんですか?」

「問題と言えば、数百年間は人間と魔族の間に争いはなかった。
人魔街では人間と魔族の子が生まれて、それが亜人と呼ばれるようになったんだ。」

「なるほど!亜人は魔族と人間のハーフなんですね。」

ラゼムは頭を縦に振り、声を少し落とす。

「んで、今から約五百年ぐらい前、四魔大貴族同士で争いが起きた。
人魔街も巻き込まれ、聖王国にも被害が及んだ。」

「なら、それが引き金で戦争にでも?」

「戦争とまではいかなかったが、聖王国は五百年続いた魔族との平和条約を解除したんだ。
板挟みになった人魔街の長が、亜人をまとめて亜人王国として独立したってわけよ。」

「独立?ならそれが引き金になり三国での争いに?」

ラゼムが首を振る。

「いや、小競り合いはあっても大きな戦争はせず、睨み合いが続いた。
それでも亜人王国は争わない立場を貫いたんだ。人数が圧倒的に少なすぎるからな。」

「闘っても戦争にすらならないから、中立をとったんですね。」

「ああ。元々和平のために作られた街だから、争いが嫌いだったんだろう。」

「気持ち分かります。俺がリーダーだったとしても同じ決断をすると思います。」

「いやいや、そこは闘わないとだろう」
ユウは串を口に咥えながらジャブをしている。

「まぁ亜人王国が三国と対等になれたのも百年ぐらい前だ。
力は付いても、戦争はしないスタンスだったのさ。」

「なるほど。なら一つ気になるのは、このシュラド国は亜人王国じゃないなら何の国なんですか?」

ラゼムはニヤリとし、ジョッキを飲み干す。

「今から五十年ぐらい前だ。亜人王国のやり方に反発したカエルの亜人将軍…つまりシュラ王だ。」

「ええ!あのカエル将軍だったのかよ!?」
ユウは驚きながら答える。

俺はユウの口を手で抑える。
「すみません…悪気はないんです。」

「いいって事よ。でもカエルの兵士達の前では言うなよ。
あいつら、王に対して絶対的な忠誠を誓ってて、陰口ですら許さないからな。」

「しかし反発した後どうなったんですか?」

「まぁそれを説明する前に、先にシュラ王について話すが。
シュラ王は亜人王国で忌子(いみこ)として生まれたんだ。」

「いみこですか?」

「亜人王国では、指が多かったり、足が悪かったり、普通じゃない人を忌子として扱い迫害しているのさ。」

「腐ってやがるぜ」
ユウは怒りを込めて言葉を吐く。

「それでシュラ王は指の本数が多い奇形の忌子として迫害され続けた。
でもその腕一つで忌子をまとめ、自分の部隊を育て、王国の将軍まで昇りつめたんだ。」

「ではラゼムさんもその頃から王の下についていたのですか?」

「五十年以上前だ。俺は五十三で、その時はまだ生まれてない。
その時シュラ王の右腕として支えていたのは俺の父だ。」

ラゼムは追加で来た酒を飲み、話を続ける。

「シュラ王は王国にいる忌子を集め、王国を出るんだ。
それで亜人領の北に国を作ったのがここ『シュラド王国』だ。」

「歴史があるんですね。シュラ王の見え方が変わりました。」

「昔はすごい真っ直ぐだった。だが今はな……」

ラゼムは少し遠目で語る。

俺は急いで話題を変える。

「そしたら今の人間と亜人と魔族の関係は悪いんですか?」

「いや、今仲が悪いのはシュラド王国と聖王国だ。
魔族に関しては数年前、長く争っていた四魔大貴族達を一人の男が壊滅させた。」

「壊滅?そんな事したら均衡が崩れてしまうのでは?」

「いや、すぐにまとめあげたんだよ。えらく強いみたいで、今では魔王と呼ばれてるそうだ。」

**********************

ラゼムの話しをまとめるとこうだ
1000年前、この地は元々人間しか居なかった。
海の向こうで、龍種との戦争に負けた魔族がこの地に来た。
人間と魔族は人魔大戦争と言う争いを5年続けたが、聖王がその戦争を終わらせた。
人間と魔族の友好の街が人魔街。
そこに生まれた人魔の子が亜人で、後に亜人王国となった。
シュラ王は、忌子で元は亜人王国の将軍。
この国は忌子が集まってできた国。

ユウが肩をすくめる。
「……大河ドラマよりも長ぇ年表だったな」

「しかしそうなると、気になるのは魔族側の新しくなった魔王ですね。
統率始めたのが最近であるなら戦争が起きる可能性もあるんですよね?」

「それもそうだな。魔族達は本当に大人しくなった。
新しい魔王が魔族をまとめたおかげで、昔みたいにはぐれ魔族が街に流れてくることがなくなった。
だから奴隷区では魔族の子を捕まえて売ることができなくなり、王の商売はここ数年で一気に傾いた。」

「子供を捕まえるんですか?」

「俺達ラゼム隊は奴隷制度そのものに反対なんだ。
兵士の中でも珍しい反奴隷派でね。」

「そうだったんですね。
俺達は奴隷制度のない国から来たので……正直、聞くだけで胸がざわつきます。」

「俺も奴隷は嫌だね。ただ、この国が大きく発展したのも宰相が居ての事さ。
ただ指をくわえて見てるだけなんて嫌だろ?
だから俺達は奴隷区の警備をしながら、奴隷区の人達が少しでも良く暮らせるように裏で色々動いてる。」

ラゼムの動きは止まり、物事を考え少しの溜めをつくり口を開く
「いや……動いてはいるが、本当のところは何も救えていない。悔しいがな」

ユウは立ち上がりラゼムに向かい
「ラゼムのおっさん!俺は感動したぞ……あんた、男だよ!
奴隷の連中も、絶対あんたに心預けてるって!」

ユウ、酔っているな。
しかし昔からこいつは正義感があり、こうやって真っ直ぐに生きる男だ。
だから俺もカジもずっと仲良くできているのだろう。

ラゼムは小さく笑う。
「そんな綺麗な物じゃない。でもこれからこの国でやって行くんだらか
お前ら、すぐにこの国の裏側を知ることになるさ」

ラゼムが立ち上がり、手を軽く振り店員を呼ぶ。
「今日は俺のおごりだ。客人に払わせるわけにはいかねぇ」

会計を済ませ外に出る。
すっかり夕暮れで人が少なくなってきている。
俺達はお店を出て食堂をあとにする。

石畳の通りを歩きながら、ラゼムはふと真顔になった。

「父の代からシュラ王に尽くしてきたが、
宰相が来てからは……色々とトラブルが絶えなくなった」
その声音には、先ほどまでの快活さはなかった。

イサムが視線を向けると、ラゼムは苦く笑った。
「お前たちが来たのがこんな大変な時期で申し訳ないが、
悪いようにならないように俺も裏から出来る事はさせてもらうから安心して働いてくれ」

ユウが口をへの字に曲げる。
「悪政って事だろ、やっぱりそういうタイプか、あのカエル。」

「ユウさん、話しを聞く限り、王様って言うよりかは、宰相の方に問題があるって事ですよ」
カジがふらふら歩くユウを支える。

「そういえば、明日王が帰還する日だ。
だからお前らにも仕事が割り振られるだろう。」

「話しを聞いてると変な仕事振られなきゃいいですけど」

「心配するな、変な事をさせないようにするから大船に乗ったつもりでいるんだな。」

「元より国を出た身で行く当てないので、頑張らせて頂きますよ。」

ラゼムは振り返り、どこか意味ありげに言った。
「まぁ少しずつ慣れて行けばいいさ、明日になれば、嫌でもこの国の仕組みが少しでも見えてくるさ」

ラゼムは手を上げ
「じゃあ俺は宿舎に戻る。明日俺の隊から使いを出すから今日はゆっくり休めよ。」

俺達はお辞儀をしラゼムを見送った。

俺は周囲の街並みに目を向けた。
この国はどこか杜撰(ずさん)だ。
そう感じざるを得ない理由が、目に見えていた。

奴隷の区があり、街の外周には、モンスターと呼ばれる魔物の侵入を防ぐ城壁など存在せず、
代わりに木製の簡素な柵が延々と続き、その脇に数人の兵士が間隔をあけて立っているだけ。
兵力も設備も最低限……これで本当に国として成り立っているのか?

そんな疑問を胸に抱えたまま、俺は空を見ながらタバコに火を付ける。
この空は綺麗に見えるのに……この街、構造、そして居心地が最悪だ。

続く


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