認知症の人は「さっき言ったじゃない」とは言わない
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ちゃんと話を覚えていたいけど…
「さっき言ったじゃない!」
「もう忘れたの?」
自分が言ったことを相手が忘れていたとき、このような不満がつい口から出てしまう。
人は、自分が話したことはよく覚えている。
一方で、聞いた側は覚えていないことがある。
その差が、「さっき言ったじゃない」という言葉になる。
これはお互いの知識量や理解度にも影響する。
特に高齢者は、記憶力や理解力が低下しやすい。
そこで多少込み入った話になると、理解しきれないことも多い。
その結果、話を最後まで聞いたのに忘れてしまう状態になる。
そして、家族などから冒頭のような言葉を言われてしまう。
自分が言ったことを相手が忘れていたとき、つい感情的になってしまう。
その気持ちはよく分かる。
しかし、相手は好きで忘れてしまったわけではない。
ちゃんと話を聞いて理解したくても、体や脳が追い付いていないこともあるのだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
認知症ケアとしての関わり方
認知症では短期記憶が保ちにくくなる。
数分前の出来事も残りにくい。
自分が話したことさえ忘れてしまうこともある。
だから、「さっき言ったじゃない」と責めても意味がない。
そもそも、怒ったり不満を言ったところで思い出すわけでもないし、自分で言ったことすら忘れてしまう。
知識量や理解力も含めて、認知症の方とはコミュニケーションの前提が違うと思ったほうがいい。
だからと言って、何も分からない・何もできないという意味ではない。
ただ、認知症に合った関わり方をしたほうが良い、というだけの話である。
それは認知症だけではない。
相手に合ったコミュニケーションをするというのは、人間関係における基本である。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
認知症の人は「忘れること」を否定しない
グループホームで働いていて、一つ気づいたことがある。
「さっき言ったじゃない」
この言葉は、介護する側はよく口にする。
それは、自分の親や利用者とのコミュニケーションがうまくいかないことへの憤りと思われる。
しかし、介護を受ける側から聞くことはほとんどない。
最初は偶然かと思っていた。
でも違った。
その理由は、自分が言ったことを覚えていないからだ。
だから、相手が覚えていなくても不満も湧かない。落胆することもない。
これは結構すごい話だと思う。
認知症として記憶力の低下によって、他人に感情的になるという場面が少なくなっていることを意味するからだ。
多くの人は、自分の思いを理解してほしいと思っている。
でも、理解されないと腹が立つ。
忘れられると悲しくなる。
「伝えた」という記憶があるからこそ苦しむ。
そう考えると、「自分が言ったことを覚えていない」ということにより、私たちが普段抱えやすい苦しみから、少し解放されているのかもしれない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「失う」だけでは語れない生き様
私たちは、「忘れること」を悪いことだと思っている。
もちろん、大切な人の名前や出来事を忘れてしまうことは、とてもつらい。
目の前にいる相手が思い出してほしいと訴えているのに、それに応えられないのは苦しい。
一方で、「忘れること」には「相手に理解されない苦しみ」まで一緒に手放している側面もあるのかもしれない。
相手の話をちゃんと覚えていて、知識があって理解ができることは良いことだ。しかし、それだけがすべてではない。
そこには「失うもの」だけでは語れない人間の姿がある。
介護現場にいて、そんなことを考えさせられた。
ここまで読んでいただき、感謝します。
途中で読むのをやめた方へも、感謝します。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【作品紹介】
自分を追い詰めずに介護で働く
「もっと頑張らなきゃ」を手放すヒント
・介護は「自分が頑張ればいい」
・うまくいかないのは、自分の頑張りが足りていないから
・頑張っているのに、なぜか報われない
そんな思いを抱えながら働く介護職は少なくありません。
この本は、心と体を崩さずに介護を続ける考え方を紹介しております。
以下のAmazonの商品ページで内容や試し読みをご確認いただけます。
