🧹03. 洗い物はテトリスで崩す|メイ
─双子式・シンクリセット─
シンクの前で、メイは完全に止まっていた。
鍋、フライパン、コップ、
スプーン、箸、皿、皿、皿…。
重なり合って、行き場を失った食器たちが、
まるで詰んだパズルみたいに山になる。
もはや、どこから手をつけていいのか分からない。

「あー……無理」
思わず、そう呟いた瞬間だった。
背後から、テキパキとシレットの声。
「メイさん、積みましたねー」
「詰んでます」
メイは肩を落とす。
「いや、やろうとは思ってたんだよ。
気付いたらこうなってただけで……」
テキパキは、ふふっと笑った。
「メイさん、知ってます?家事ってね、視点を変えると急にうまく回りだしたりするんですよ」
「え?」
「これは洗い物ではありません。テトリスです」
メイはきょとんとして、首をかしげた。
「まずはこれ。コップだけ」
テキパキがシンクの端へコップを並べる。
メイも同じように一つずつ洗って、伏せていく。
「あ……置きやすい」
「でしょう?同じ形は並べやすい。
並べやすいものから消す。それがテトリス洗いです」
次に指されたのは、平皿。
「まずは小さなサイズから。カゴには手前から奥へ」
メイは小さな皿から順に洗い流し、
言われたまま、手前から奥へと立てていく。
「……減るの早っ。……なんで?」
さっきまで山だったシンクに、
確実に“空き”が生まれていた。
「次は小物です」
箸にスプーン、フォーク。洗い流してカゴへ。
最後に残るのは鍋とフライパン。
メイは顔をしかめる。
「ラスボスですね」とシレット。
「ここまで来たら、もう勝ちですよ」とテキパキ。
鍋を持ち上げる。
「もうカゴに“入らない”と思うと止まります。
だったら、作業台でもコンロでもいいんです」
「え?それでいいの?」
「はい。乾いてから片づければいいだけですから」
メイは笑った。
「めっちゃ楽じゃん」
テキパキは胸を張る。
「いいんです。完璧にやるより、止まらないことの方が大事ですから」
「いいね!テトリス式」
シレットが静かに言う。
「家事はゲームです。攻略は、小分けに」
■ そもそも“ラスボスを作らない”工夫
「もっと楽にする方法もありますよ」
テキパキは使い捨てペーパーを手に取る。
「洗う前に、敵を弱らせておくんです」
「……敵?」
シレットが、静かに補足する。
「油。最大の敵は、最初から油です」
テキパキは、皿を持ち上げさっと一拭き。
「食後は油を軽く拭ってからシンクへ。
これだけで、難易度は下がります」
シレットはフライパンを持ち上げた。
「これも同じ」
手を拭いたあとのキッチンペーパーは、
すぐには捨てない。
少し端によけておく。
「使う頃には水分は飛んでいます。
そのペーパーでフライパンの油を
サッと吸わせてから捨てるんです。」
「敵のHPが、半分以下になります」
メイは目を丸くした。
「え、そんなことで?」
「ええ。そんなこと、です」
テキパキは、シンクの皿へさっと水をかける。
「浸すほどでなくても、固着させないだけで十分です」
「はい。これでラスボスも雑魚です」
メイは思わず吹き出す。
「……洗う前から勝負ついてるじゃん」
■ 戦いは“始まる前が”勝負
テキパキはシンクを整える。
「あとは、そうですね。シンクにお皿を置くときに、大きさをざっくり揃えておくと楽です」
「なんで?」
シレットが言う。
「洗うときに迷わないから。選択の負荷を減らす」
テキパキはうなずいた。
「すぐに同じ種類から洗えます。
“終わっていく感覚”が早いんです」
シレットが静かに言う。
「戦いは、始まる前が一番大事」
「どれも簡単だし、私にもできそう」
「はじめから、完璧にやろうとしなくて大丈夫です。これならできそう、というものからやってみてください」
メイは満足そうに笑う。
最後に二人は声を重ねる。
「準備が九割です」
#双子の小さな家事レッスン
🔜次回:洗濯はぷよぷよ
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