🍳06.お嬢様は冷蔵庫の中身に恐怖する
カレンは再び冷蔵庫の前で立ち尽くしていた。
「……やらかしましたわ」
扉を開けた先には、しなびたきゅうり、使いきれずに半分残った肉。一部は干からびて化石のようになってしまっている。更に奥には、いつ入れたのか思い出せない、謎の容器。
「せっかくお惣菜をやめましたのに……
なんてもったいないことを……」
一部はちゃんと使ったし、作り置きにも挑戦してみた。だけど、数日経つと、どれも少しずつ忘れられていく。
『また明日』が積もり積もって、気付けば2週間経っていた。容器は恐ろしすぎて開ける勇気が出ない。
「……いえ。まだ判断は早いですわ」
カレンは扉を閉めた。
3秒後。
再び開けた。
「やっぱりありますわね」
その時、思い出す。
“困ったら、呼んでくださいね”
テキパキの声。
“判断できなくなったら、構造です”
シレットの声。
呼ぶのは負けか、それとも甘えか。
少しの間冷蔵庫の前で頭をひねる。
「そんなことを言っても、いつまでも腐らせるよりマシですわ!」
◆
「お嬢様、この冷蔵庫、2種類の問題が混在していますね」
「2種類……ですの?」
後ろからシレットが覗き込む。
「使い切れない問題と、迷子問題」
「一人暮らしで難しいのは、買うことよりも
“使い切ること”なんです。
特にお肉や魚はいたみやすいですから。買った日に小分け冷凍しておけば防げましたね」
「冷凍……」
「寿命を伸ばし、未来の自分に渡す、ということです」
カレンは小さく唇を噛んだ。
「……知りませんでしたわ」
「知らなかっただけです。問題ありません」
◆
次に、テキパキは冷蔵庫の奥から干からびた“何か”を取り出した。
「お嬢様、構造を決めずに適当に詰め込むと、高確率でこうなります」
「冷蔵庫に……構造がありますの?」
「はい。例えば一番上。背の低い私には見えません」
「確かに……。見えなければなかったことになりますわね」
テキパキは奥から正体不明の容器を取り出しながら続ける。
「そう。だからどこに入れるかより、どこなら目に入るかだけ決めてください」
シレットが補足する。
「よく使うもの、期限が短いものが一軍です」
◆
数分後。庫内の配置を変えた冷蔵庫は、同じ大きさなのに、さっきよりも広く見えた。
「まあっ!見やすいですわ」
シレットが言う。
「それが“判断できる冷蔵庫”です」
「……次は、腐らせないようにしなきゃ、ですわね」
テキパキが笑いながら問いかける。
「では、次にお肉を買ったら?」
カレンは胸を張る。
「使う分だけ残して、あとはラップで小分け冷凍ですわ!」
「「完璧です」」
二人の声がリンクした。
🧺 テキパキ&シレットの一言メモ

テキパキ
「使うものは手前、使わないものは奥。それだけでも変わりますよ」
「引き出しできるトレーも便利ですよ。奥が見えやすくなりますから」
シレット
「一軍は一等地に」
「場所さえ決まれば忘れにくい」
数日後、買い物から帰ってきたカレンは再び冷蔵庫の前に立った。
「ええと……すぐ使うものは、手前でしたわね」
小さな肉の容器を一番前に置く。
「卵は目の高さがいいですわ。毎日使いますもの」
最後に味噌を手に取り、少し考える。
「味噌は多分……長持ちしますわよね?
一番上でも大丈夫ですわ」
整った冷蔵庫を見てカレンは小さく微笑む。
「……わたくしの暮らしに、また一つ味方が増えましたわね」
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