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🍳06.お嬢様は冷蔵庫の中身に恐怖する

カレンは再び冷蔵庫の前で立ち尽くしていた。

「……やらかしましたわ」

扉を開けた先には、しなびたきゅうり、使いきれずに半分残った肉。一部は干からびて化石のようになってしまっている。更に奥には、いつ入れたのか思い出せない、謎の容器。

「せっかくお惣菜をやめましたのに……
なんてもったいないことを……」

一部はちゃんと使ったし、作り置きにも挑戦してみた。だけど、数日経つと、どれも少しずつ忘れられていく。

『また明日』が積もり積もって、気付けば2週間経っていた。容器は恐ろしすぎて開ける勇気が出ない。

「……いえ。まだ判断は早いですわ」

カレンは扉を閉めた。

3秒後。
再び開けた。

「やっぱりありますわね」

その時、思い出す。
“困ったら、呼んでくださいね”
テキパキの声。

“判断できなくなったら、構造です”
シレットの声。

呼ぶのは負けか、それとも甘えか。
少しの間冷蔵庫の前で頭をひねる。

「そんなことを言っても、いつまでも腐らせるよりマシですわ!」



「お嬢様、この冷蔵庫、2種類の問題が混在していますね」

「2種類……ですの?」

後ろからシレットが覗き込む。
「使い切れない問題と、迷子問題」

「一人暮らしで難しいのは、買うことよりも
“使い切ること”なんです。
特にお肉や魚はいたみやすいですから。買った日に小分け冷凍しておけば防げましたね」

「冷凍……」

「寿命を伸ばし、未来の自分に渡す、ということです」

カレンは小さく唇を噛んだ。

「……知りませんでしたわ」

「知らなかっただけです。問題ありません」



次に、テキパキは冷蔵庫の奥から干からびた“何か”を取り出した。

「お嬢様、構造を決めずに適当に詰め込むと、高確率でこうなります」

「冷蔵庫に……構造がありますの?」

「はい。例えば一番上。背の低い私には見えません」

「確かに……。見えなければなかったことになりますわね」

テキパキは奥から正体不明の容器を取り出しながら続ける。 

「そう。だからどこに入れるかより、どこなら目に入るかだけ決めてください」

シレットが補足する。

「よく使うもの、期限が短いものが一軍です」



数分後。庫内の配置を変えた冷蔵庫は、同じ大きさなのに、さっきよりも広く見えた。

「まあっ!見やすいですわ」

シレットが言う。
「それが“判断できる冷蔵庫”です」

「……次は、腐らせないようにしなきゃ、ですわね」

テキパキが笑いながら問いかける。
「では、次にお肉を買ったら?」

カレンは胸を張る。
「使う分だけ残して、あとはラップで小分け冷凍ですわ!」

「「完璧です」」

二人の声がリンクした。


🧺 テキパキ&シレットの一言メモ

テキパキ
「使うものは手前、使わないものは奥。それだけでも変わりますよ」
「引き出しできるトレーも便利ですよ。奥が見えやすくなりますから」

シレット
「一軍は一等地に」
「場所さえ決まれば忘れにくい」


数日後、買い物から帰ってきたカレンは再び冷蔵庫の前に立った。

「ええと……すぐ使うものは、手前でしたわね」

小さな肉の容器を一番前に置く。

「卵は目の高さがいいですわ。毎日使いますもの」

最後に味噌を手に取り、少し考える。

「味噌は多分……長持ちしますわよね?
一番上でも大丈夫ですわ」

整った冷蔵庫を見てカレンは小さく微笑む。

「……わたくしの暮らしに、また一つ味方が増えましたわね」



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