08.ハヤトの素材探し|ひも木を求めて
朝の森は、まだ少しひんやりしていた。
ハヤトは小さなリュックを背負い、ひとりで森の奥へ歩いていく。
「今日は絶対、いい“ひも木”を見つけるんだ」
ひも木──
細くてしなやかな木の皮が取れる木。
乾かすと強い紐になるから、森では昔から道具づくりや編み物に使われてきた。アツコが数日前、ぽつりと呟いたことを思い出す。
“ひも木の上質な皮、しばらく手に入ってないのよねぇ…”
それを聞いたとき、ハヤトの胸は小さくふくらんだ。森の仕立て屋の役に立てるなら、それだけで十分わくわくする。
湿った土の匂いと、葉の裏に残る夜露のきらめき。その全部を、胸いっぱいに吸い込んだ。
しばらく歩くと、小さな川に出た。
森の奥へ行く道は、その向こうに続いている。
大人なら一歩でまたげそうな幅。でもハヤトには、ちょっと遠い。
ハヤトは川面を覗き込み、水の流れを見つめた。

きらきら光る水の中を、小さな葉がくるくる回って流れていく。
「うーん……」
少し考えてから辺りを見渡すと、太くて丈夫そうな枝を見つけた。
川面にぐっと突き立てる。
左右にゆすってみる。
「いける!」
勢いをつけて体を前へ運ぶ。
ぴょん。
小さな体がふわりと川を越え、向こう岸の土に軽く着地した。
「よしっ」
◆
森の奥は、いつもより少し空気が重い。
木々の影が濃くなり、湿った匂いが強くなる。
やがて、湿気を多く含んだ木が育つ、
小さな“くぼみ”のような場所に出た。
「…あった」
ハヤトはすぐに見つけた。
幹の表面に薄く剥がれかけた木の皮。硬そうに見えて、触ると驚くほどしなやか。
手でそっとつまんでみると、指先に吸いつくような柔らかさがある。
「これなら、すごくいいひもになる」
木の皮を採るときは、幹を傷つけないよう “朝のやわらかい時間” を狙う。
これは、ハヤトが森の中でひとつずつ覚えてきた、小さな暮らしの知恵だ。
そっと皮に触れると、指に吸いつくような柔らかさが返ってくる。その“合図”を感じて、必要な分だけ慎重に摘み取る。

採れた皮はくるりと丸まり、手のひらにすっぽり収まった。大切にリュックへしまうと、胸の奥がふっとあたたかくなる。
「アツコさん、喜んでくれるといいな」
小さな探検家のリュックに、また一つ、誰かを助ける道具が追加された。

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