二十歳のバカ
二十歳ぐらいの時だったと思う。
学校の食堂で、鬼のようなデカイ顔をしたKと言う友人が、ミートソースをフォークで遊びながら、深刻な顔でつぶやいた。
「手術をしに故郷へ帰らなければならなくなった」
思いっきりシリアスな表情で言ったようだが、ピラフを食べたり濃い緑のメロンソーダを飲んだりしながら、僕を含めた友人たちは「あんで?」などとのん気に返事をした。
「少しは心配するということを知らないのか、お前たちは?」
他人の不幸は、これでもかというほど笑い話にするKに同情するほど僕らは優しくない。
シリアスに言えば言うほど、胡散臭いということを僕らは知っていたからだ。
そして病名を聞いて、「?」となった。
正確にその病気の実態をほとんどが知らなかったからだ。
そのうちひとりが、
「ヘルニアって脱腸だろ?脱腸っていったら、腸が金○に落っこってでかくなる奴だ」
と言い、
「それはめでたいではないか!」
という鬼のKにとって思いもよらない話の展開になって行った。
この後の話は下に徹した話なので、これ以上は書かないほうが良いと思う。
正確に病気の内容を聞き、Kの希望も聞かされた。
彼はどうも、よくTVドラマ(それも昔の)であった、駅まで見送りに来た友人たちが、別れを惜しみ電車を追う・・・それを味わってみたいと言うのだ。
そんなバカな話に、二十歳の僕らは乗る。
理由はバカなことが好きだから、それ以外ない。
Kが帰郷する前日、「お別れ徹夜マージャンの会」を開き、餞別を上げるのではなく奪い取ってから、早朝の上野駅へ向かった。
始発であった。
ホームには、季節外れの帰郷、僕らのほかはパラパラ。
電車がホームに乗り、僕らもムードに乗った。
なにしろ徹夜明け、恥かしいという感情が欠落している。
「どうしても行くのか?」
乗りやすいEが、うつむきながら語りかける。
「ああ・・・」
Kが繊細さのかけらもない顔で、『北の国から』の純のような台詞を言う。
「戻って来いよ」
Kの故郷は茨城である。
「こんなことで負けんじゃねえぞ」
脱腸に勝ち負けはない。
発車のベルが鳴る。
ついにKの望んでいた、シチュエーションだ。
ドアが閉まり、Kが窓に手を着く。
走り出す「特急ひたち」。
ゆっくりと追いかける僕ら。
だんだんスピードが上がる「特急ひたち」。
手を振りながら、「帰って来いよ!」叫ぶ。
もうこうなると、完全にドラマの中に入っている。
結局ホームの端まで走ってしまった。
「なんかいい・・・やってみるもんだ」
誰か忘れたがつぶやいた。
やがてKは当たり前のように帰ってきた。
学校では、いつのまにか病名が「脱腸」から「脱肛(痔)」になっていた。
下の話の方が伝わったようだ。
「ようK、痔だったんだって?」
「え?」
Kはひとりひとりに「脱腸」の説明をした。
その中にやはり「脱腸って、金○に・・・」
という間違った知識を持っているやつがいた。
そういう知識を持った人間は得てしておしゃべりだ。
いつのまにか、
「Kは大きくなった金○を削る手術をしたらしい」
どんな病気なのかわからない噂が飛び交っていた。
僕らはピラフや、思いっきり濃い緑のメロンソーダを飲みながら、ヘルニアのことを説明しているKを眺めた。
その姿はまるで赤鬼だ。
紘野涼のフリーハンド紹介
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