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なぜ、ドコモはつながらないのか? ーー他社の「なんちゃって5G」が正解だったパケ詰まりの真因

ターミナル駅のスタバで冷や汗をかいた日

​ターミナル駅の喧騒を抜け、少しだけ一息つこうと立ち寄ったスターバックスでのこと。

いつものように抹茶ティーラテを頼み、レジ前でスマートフォンの画面を開く。

しかし、決済用のQRコードがいつまで経っても表示されない。

​画面の右上を見れば、アンテナピクトはしっかりと4本立っている。

背後からは、次に並ぶ客の無言のプレッシャーがじりじりと伝わってくる。

コーヒーの香りが漂う心地よい空間が、一瞬にして冷や汗をかくような焦燥の場に変わってしまった。

​結局、Wi-Fiに切り替えて事なきを得たが、あの時のなんとも言えない気まずさは今でも忘れられない。

ここ数年、ドコモ回線を使っている人なら、多かれ少なかれ似たような経験をしているはずだ。

駅の改札前、イベント会場、あるいは地下の飲食店。電波は十分にあるはずなのに、データが全く降ってこない。

​世間が『パケ詰まり』と呼ぶこの現象は、私たちの日常的なUX(ユーザー体験)を確実に削り取ってきた。

日本の通信インフラの絶対王者であったはずのドコモに、一体何が起きていたのか。


​王者のプライドと『瞬速5G』の誤算

​あのパケ詰まりの裏側には、単なる設備投資のサボタージュではなく、極めて高度で複雑な『技術的な不運』と『経営陣のプライド』が絡み合っている。

​事の発端は、5Gエリアの展開戦略だった。

ドコモは、5Gの本来の力である『圧倒的な超高速・大容量通信』を提供することに徹底的にこだわった。

彼らはこれを『瞬速5G』と呼び、3.7GHz帯などの5G専用周波数(Sub6)を主軸にエリアを構築しようとした。技術者としての高潔な理想主義だ。

​しかし、このSub6という電波は直進性が非常に強く、障害物があると急激に減衰する。

さらに衛星通信との電波干渉を防ぐため、出力の制限まで余儀なくされた。

​結果として、ドコモの5Gエリアは面ではなく極小の『点』の集合体になった。

UXの致命傷は、この『点』の境界(エッジ)で起きた。

ユーザーが5Gエリアの端に差し掛かったとき、スマホは微弱になった5Gの電波をギリギリまで掴もうと粘ってしまう。

​電波環境が急変しているのに、スムーズに4Gへと切り替わらない。

スマホと基地局の間でデータの迷子と再送要求が無限に繰り返されるパニック状態。

アンテナは立っているのに通信が完全にフリーズする。これがいわゆる『パケ詰まり』の最悪の挙動だ。

​他社の『なんちゃって5G』が勝者となった皮肉

​一方で、競合のKDDIやソフトバンクは全く異なるアプローチをとった。

彼らは既存の4G用の電波を5G方式に転用する、いわゆる『なんちゃって5G』を積極的に推進したのだ。

​低周波数帯を使ったこの手法は、ピーク時の通信速度こそ4Gと大差ない。技術的なロマンには欠ける。

しかし、この戦略は都市の真ん中で圧倒的な威力を発揮した。

​彼らのネットワークは、電波が遠くまで届く低周波数帯で『面』のエリアを構築している。

そのため、ドコモのようにエリアのエッジで通信が宙に浮くような切り替えの失敗が起こりにくい。

​スマホ単体での利用を冷静に考えてみてほしい。

数ギガバイトのデータを数秒でダウンロードするようなオーバースペックな速度が、日常のどこで必要なのだろうか。

私たちが本当に求めているのは、スタバのレジ前で決済アプリが1秒で立ち上がることだ。

​KDDIとソフトバンクは『速度の絶対値』を捨て、『5Gのアイコンが消えずに繋がり続けること』を最優先にした。

結果として彼らはパケ詰まりを回避し、快適なUXを維持することに成功した。

​ドコモの技術陣は、カタログスペックという理想空間を追い求めた。

ライバルたちは、ユーザーの泥臭い現実の体験に寄り添った。

インフラ設計におけるこのスタンスの差が、ここ数年の明暗をくっきりと分けたと言っていい。

​3Gという足枷が外れる2026年、反撃の狼煙

​「やはりドコモはダメになったのか」

そう結論づけるのは簡単だ。しかし、インフラの歴史を追ってきた私としては、むしろここからが面白いフェーズだと考えている。

数日後、2026年3月31日を境に、ゲームのルールが根本から変わるからだ。

​国内で最後まで粘り強く提供されてきた3Gサービス『FOMA』が、ついに完全停波を迎える。

これは単に古いガラケーが使えなくなるという話ではない。

ドコモがこれまで3Gのために占有していた『プラチナバンド(800MHz帯)』を含む広大な周波数が、ついに4Gや5Gのデータ通信用に解放されるのだ。

​他社はとうの昔に3Gを終わらせていた。

つまりドコモはこれまで、貴重な電波帯域を古いシステムに割き続けるという巨大なハンデキャップを背負ったまま、都市部の異常なトラフィック増と戦ってきたことになる。

​この足枷が外れる意味は計り知れない。

障害物を回り込み、地下やビルの奥深くまで届くプラチナバンドがデータ通信の太い土管として機能し始めれば、物理的な回線容量の枯渇は一気に解消へ向かうはずだ。

​王者の技術力が、ついに現実とリンクする

​インフラの基礎体力が回復した上で、ドコモが本来持っていた『過剰なまでの技術力』がいよいよ牙を剥く。

​2026年度初頭から始まる、標準的なスマホと人工衛星の直接通信。

これが実現すれば、日本のあらゆる場所から『圏外』という概念が消滅する。

さらに、一つのネットワークを仮想的に切り分けて特定の用途に占有させる『5Gスライシング』の商用化。

数万人が集まるフェス会場や災害時でも、絶対に途切れない通信レーンを作り出すことができる。

​これまで『理想主義すぎる』と揶揄されたドコモの先進的なスペック追求が、プラチナバンド解放という泥臭い土台の上で、初めて現実の社会インフラとして完璧に機能し始める。

​レジ前でQRコードが開かずに冷や汗をかいたあの日々も、振り返れば次世代ネットワークへ脱皮するための強烈な成長痛だったのかもしれない。

インフラの当たり前をもう一度定義し直す。

2026年、王者の真の反撃を、私は一人のユーザーとして期待を持って見届けたいと思う。

​最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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