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満月の夜~白い階段で祝福された~

一樹は、何やら朝からソワソワしていた。

「今日は出かけるから準備してね。多分寒いと思うから、羽織るの持って行ってね。」

「えっ?なんで?
こんなに暑いのに。どこ行くつもりなん?北の国か?」

9月とはいえ、まだ夏の暑さがじんわりと残っている。

一樹は
「魔法瓶も2つ!
風よけのシートも!」

ことりは首をかしげた。

そして、車に乗りこみ、

ドライブデートだー!

と心の中ではしゃぐ私の横で、
一樹は、何度も時計を確認している。

その日は快晴。

綺麗な景色に、広い湖、そして空気がおいしい。

ことりは、助手席の窓を開け、髪の毛をなびかせながら、ドライブを満喫していた。

そして、コンビニに寄ると

「ことりちゃん、魔法瓶出して!」

「えっ?」

「すみませーん。お湯もらっていいですかー?」

と、ポットのお湯を、その魔法瓶に入れ始めた。


「ほんまに、この人はわからん。」

そして行き着いたのは、
たくさんのゴンドラがある、箱館山という山の麓。

ことりは目をキラキラと輝かせて、言った。

「わぁー!綺麗!
なぁなぁ、あれ乗りたーい!」

一樹はひと言

「今から乗るよ。」

そのゴンドラに乗り、山の頂上についた。

お花が一面に広がり、最高の眺めだ。

腰の痛い二人は、ゆっくりと歩きながら、奥へと進んでいった。


そこで2人の目に飛び込んできたのは

空に浮かんで見える、白い階段。

📸 白い階段で祝福された日


そこには写真を撮るために、行列が出来ていた。

なんの迷いもなく、並んだ。

ことりは、自分たちの前に並んでいた、若いカップルの写真を撮りはじめた。

「もう少し右に。
お花も入れますね。」

と、アングルを考えるのは、ことりのいつもの癖だ。

そして、私たちの時は、
そのカップルが撮ってくれたのだ。


歳をとるにつれ、高い所が怖くなったことりは、一樹の腕につかまりながら、
一段一段と登っていく。

みんなに見られながら、恥ずかしさで、顔がニヤけた。

目の前には綺麗な湖。澄み渡った青空。

感動。

心が洗われる。

同じように若いカップルが

「こっち見て、肩組んでくださ~い。」

パシャ!

色んなポーズで撮ってくれた。

その時だった。

その場に並んでいた、たくさんの人達から、拍手がわき上がったのだ。


私達2人は、世間一般の形にきれいに収まるような、堂々と言える仲ではないのかもしれない。どこかで少し後ろめたさを抱えながら生きていた。でも、そこで初めて……

祝福してもらってる気がして、嬉しかった。
それもこんなにたくさんの方々に。

「皆さん、ありがとうございます。」

ことりと一樹は顔を見合せ、涙ぐんだのである。


感動のまま、階段を降りようとした時、ことりは怖さのあまり、足が出ない。


「一樹、ちょっと待ってー!」


一樹は一段下から手を差し伸べ、
まるで映画のシーンのように、ロマンチックなイメージを勝手に思い浮かべた。

下からは

「頑張れー!
気をつけてー!
ゆっくりねー!」

と応援してもらい、何とか降りる事ができた。

「これからも仲良くね。」

「お2人を見ていたら、微笑ましくなったよ。ありがとう。」

そして、撮って頂いたカップルにお礼を言うと

「僕たちもお2人のように、いつまでも仲の良い夫婦になります。」

と言ってくれた。

2人にとって、

結婚式のようなひとときを過ごさせてもらい、感謝と感動で胸がいっぱいになった。


だって

私たちの前までは、みんな、それぞれが撮影し、声をあげる事はなかったからだ。



そして少し、辺りはうっすらと暗くなり、

真っ赤な夕日が輝いていた。

次に向かった先から、

チリチリチリン

と、静かで涼しげな音が聞こえてきた。

そこには、たくさんのガラスの風鈴が並び、風に吹かれて、賑やかな音色を奏でていた。

夏らしい小道を抜けると、色とりどりのカーテンが風に揺れている。

その先には、琵琶湖が大パノラマのように広がっていた。

視界の半分が湖、半分が空。

遮るものは何もない。

ことりは、こんな絶景を愛する人と見られる幸せに、思わず涙をこぼした。

一樹は、そんなことりの肩をそっと抱き寄せた。



そして、場所を確保し、レジャーシートを敷き、眺めていたら

少し肌寒くなってきた。

ことりは

「あっ!だからか!」

「うん、そうや。」

一樹のいう通り、長袖を持ってきて良かった。

段々と後ろの太陽が沈むと、

前の湖から、月がゆっくりと顔を出した。

その時、一樹が言った。

「今日は、中秋の名月やで。
だから連れてきたかったんや。」

「えええ!そんなん知らんかったぁ」

びっくりして、また感動。

やたらと時計を気にしていたのは、

『月の出』の時間だったようだ。

スマホで調べてみると

【中秋の名月と満月が重なる日】らしい。

次に重なるのは
2030年と書かれていた。

それを知った、一樹とことりは、見つめあって

「奇跡やな」

「うん。宇宙まで祝福してくれてるね」

『出逢う運命やね。』

二人で声をそろえた。


水面にうつる月明かりがぼんやりと光る。

真正面から大きな月が
赤さを増しながら、ゆっくりと登っていく。

ことりはテンションがあがり、必死にカメラにおさめていた。

そのとき、

一樹は、何やらゴソゴソとしていた。

小さな折りたたみの机を取り出し

静かに組み立てている。

魔法瓶と、ブリットコーヒー。

そして、ベアのマグカップ。

それにお湯が注がれ、コーヒーの良い香りが風に乗って流れてくる。

山の頂上。

流石に風が冷たくて、身体が震える。

2人でそのコーヒーをひと口、ふた口と、飲みながら、ぺたりと身体を寄せ合った。

綺麗な月を眺めながら

「なぁなぁ。手出して。」

「何するん?」

「いいから、いいから。」

と、ことりは嬉しそうにに言った。

一樹は照れながら

恥ずかしそうに手を出した。


そして、ことりのいう通りに動かし、

ハートの形を作り、

その中にお月様をうつした。


📷 お月様を、つかまえた。


ことりは

「お月様つかまえたー!」

とはしゃいでいる。

一樹はそんなことりが、愛おしくてたまらない。

「ほんまにまん丸やな」

「凄いよなぁ。こんな月見たの初めて。」

と会話が進む中


一樹が

「ことりちゃん、お腹すいたやろ?」

と言って

次は

栗きんとんを出してきた。

中秋の名月。

秋の綺麗な月を見ながら、栗などを食べるという風習があるらしい。

さっきのコーヒーを飲み終えたカップを、軽く濯ぎ、

今度は玉露のティーパックを、チャプチャプとカップのお湯に、揺らしている。


そして、小さな机には

栗きんとん

うなぎパイ

ペアカップ

そして、ススキが飾られた。


ことりは

「ちょっと待って。
こんなんいつ準備したんよ。
もう……。どこまで私を感動させたら気が済むんよ。」

と、目を丸くして言った。

一樹はいつもの、

「知らーん。」と言って、口笛を吹くような、

とぼけた顔をして、サプライズをしてくれた。

その、とぼけた顔を見るのも、またことりの幸せであった。

「一樹。ありがとう。ほんまにあなた素敵な人やな。
最高の彼氏や。」


「ことりちゃんは、今まで1人で子供を育てて、人の為に頑張ってきたやん?

それをずっと、月は見守ってきたんやと思う。

今日は、月からのご褒美ちゃうか。」

と、熱く語った。

ことりは、滂沱のごとく涙が溢れて止まらなかった。


「なんで、こんな私のために、ここまでしてくれるの?

今まで、こんなに尽くしてくれる人いてなかった。」


一樹は言った。

「好きやからに決まってるやん。
俺にとって、ことりちゃんは大切な人やから。」


そして、綺麗なライトアップに包まれながら

ゴンドラに乗って、降りて行く。

📷 夜景より、あなたの歌に泣いた。


琵琶湖一面にうつった月明かりと、キラキラと散りばめられた星空。静かに燈がともる、街の夜景。そのどれよりも美しかったのは、私の隣で、一樹がそっと歌い始めた歌声だった。

ことりは、カラオケアプリで一樹の大ファンになり、

三年間、毎日毎日、その歌声を聴き続けてきた。

その憧れの一樹様が、今、私のすぐ隣で、大好きな歌を優しく歌ってくれている。

好きという言葉だけでは足りないほどの想いが、その歌声から伝わってきた。


もぅ夢のような時間。

ことりは、一樹の腕に
しがみつきながら
声を出して泣いていた。

2人の原点ともいうべき、
素敵な1日だった。

📷 あの日の月明かりは、今も忘れられない。



満月と重なった特別な日。

次に中秋の名月と満月が重なるのは2030年。

その日もまた、ふたりで同じ月を見上げていたい。

そう願いながら、私たちは静かに空を見上げた。


【他の作品もよろしければ🥰🌸】
(感動シリーズをまとめてみました💞)

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