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5 とうもろこしごはんの魔法┃子どもが食べるようになるまで

連載「子どもが食べるようになるまで」
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白いごはんだけの時期を抜けて

娘は相変わらず、白いごはんしか食べません。おかずには目もくれず、混ぜごはんもすぐに口を閉ざします。それでも私は、毎日少しずつ、気持ちを整えながら、娘の食事に向き合っていました。

あの日も、いつもと変わらない朝でした。

その朝は、ほんの少しだけ早く目が覚めて、キッチンに立ちながらふと思ったのです。

そうだ、とうもろこしごはんにしてみよう。

特別な意味があったわけではありません。ただ前日に買ったとうもろこしが冷蔵庫にあって、「久しぶりに食べたいな」と思っただけのことでした。

皮をむいて、粒をやさしくはずしていく。粒のひとつひとつがつやつやとして、手に取るだけで新鮮さが伝わってきました。
「まあ、食べなかったら私が食べるし」
そんな軽い気持ちで、お米と一緒に炊飯器にセットしました。塩をひとつまみ加えて、スイッチを押して……

湯気が立ちのぼる炊きあがりは、いつもの白いごはんに黄色い粒がまじった、やさしい色合い。キッチンいっぱいに広がるとうもろこしの甘い香りに、私自身がちょっとわくわくしていたのを覚えています。

娘の席にとうもろこしごはんをよそいながら、心のなかでは「今日もきっと、見た目でアウトだろうな」と、半分あきらめる気持ちもありました。
うっすら色がついている。粒が混ざっている。たったそれだけのことで、何度も口に入れてもらえなかったからです。

それでも、今日も、スプーンにひとくち分をのせて、「あーん」と差し出してみます。

娘はじっとごはんを見つめて、それから――
迷うことなく、ぱくり。

「……食べた?」

驚きで私のほうが固まってしまいました。
娘はもぐもぐと咀嚼し、のみこんで、次のひとくちを見つめています。その表情は真剣で、でもどこかうれしそうにも見えて。胸の奥がふわっとあたたかくなるのを感じました。

「おいしい?」と聞くと、小さくうなずくように見つめ返してきます。
うれしくて、「すごいね」「食べられたね」と、何度も声をかけてしまいました。

その日、娘は、白いごはんではなく、とうもろこしごはんを、自分の意志でしっかりと食べてくれたのです。
それは、小さな、でも確かな一歩でした。

もちろん、そのあとすぐに何でも食べられるようになったわけではありません。
おかずに顔をそむける日も、ひとくちも食べずに終わる日も、まだまだありました。

けれど、とうもろこしごはんを食べてくれたあの朝のことは、私の中で「希望の記憶」として、静かに残りました。
たったひとくちのこと。でも、そのひとくちが、心をこんなにも軽くしてくれるなんて。
「昨日は食べた」という事実があるだけで、今日が少しやさしくなる。そんな感覚を味わいました。

それから私は、「食べなかった日」よりも、「食べられた日」を思い出すようになりました。
娘は娘のペースで、ちゃんと前に進んでいる。
そう信じて、そばにいようと思ったのです。

何も変わらない、いつもの食卓。
でも、とうもろこしごはんがあったその朝だけは、たしかに特別な時間でした。

とうもろこしごはんが教えてくれたのは、「好き」がひとつ増えるよろこびと、それを静かに見守る「まなざし」の育て方だったのかもしれません。

*

次回は、とうもろこしごはんのあとに試してみた、かぼちゃごはんの話を書いてみたいと思います。
食べてくれるかな、ってちょっとだけ期待したけれど……さて、どうだったでしょうか。


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