#実話怪談 「似ている」
「当時のわたしは小学五年生でした」
川口由紀さんはそう言って話をはじめた。
その日、幼馴染のE子さんと下校していた川口さんは、学校の裏手にある細い坂道をくだっていた。坂道は雑木林に沿ってのびており、途中に石積みの古い井戸がある。地元では鏡井戸とよばれているが、名前の由来は定かではない。
坂道は学校指定の通学路ではなく、普段はあまり足を向けない場所だ。しかし、その日は近道をしようとしてそこを通った。
ふたりはほどなくして鏡井戸のところに差しかかった。すると、七十がらみであろう老婆が、石積みの上にぽつんと座っている。背中に担いだ籠を揺らしながら、なぜかこちらをじっと見つめている。
その様子がなんとも言えず気味悪くて、川口さんは「早よ行こ」とE子さんを促した。そうして早足で通り過ぎようとしたときだった。老婆がすうっと手をあげ、E子さんを指差して言った。
「馬から落ちたのは何人や?」
E子さんは歩を止めずに、前を見つめたまま答えた。
「ふたり落ちました」
川口さんは驚いてE子さんを見たが、足を止めることはなかった。むしろ足を早めて、老婆から逃げるようにして坂道をくだった。やがて、いつもの通学路に出たところで、川口さんはE子さんに尋ねた。
「なんでふたりって言うたん?」
すると、E子さん自身もよくわからないという。ただ、そのときはふたりという気がしたそうだ。
気味が悪かったこともあり、その話はそれっきりになった。
そうして時は流れ、川口さんたちは成人した。
E子さんは二十代前半で地元の男性と結婚した。しかし、続けて二度の流産を経験し、その後まもなく離婚した。理由は夫の浮気だった。
川口さんはE子さんの精神状態を案じた。流産と離婚にショックを受けているに違いない。ところが、E子さんはこともなげに川口さんに告げた。
「流産しといてよかったわ。子供がおったら、再婚するのむずかしいやろうし」
続けて消え入るような声でこう呟いた。
「馬からふたり落ちました……」
「え?」
川口さんはE子さんの言葉を繰り返すように尋ねた。
「馬からふたり……?」
すると、E子さんはきょとんとした顔で、そんなこと言っていないと否定した。空耳だったのだろうか。
さらに時が流れて現在――。
川口さんもE子さんも今は四十代半ばだ。
「子供の頃に一度だけ見た顔です。だから思い違いかもしれません。でも、やっぱりE子の顔……似ていると思います」
川口さんは言葉を慎重に選ぶようにそう言った。
どうして似ているのかはさっぱりわからない。しかし、大人になったE子さんの顔は、鏡井戸に座っていた老婆によく似ているそうだ。
頭を白髪にして、顔の皺を増やせば、そっくりになるという。
川口さんはそこになにか、たちの悪さのようなものを感じている。
あとがき的なやつ
前回の記事でも書きましたが、最近noteを放ったらかしすぎでした。なので、怪談話を投稿してみました。
怪談マンスリーコンテストというものがありまして、その応募作品にちょっと加筆修正したものです。ちなみに、コンテストのテーマは馬でした。そして、みごとに落選しています(悔しい!)。
ところで、コンテストの結果発表ページで、ぼくの名前が烏丸浩輔になってます。
正しくは烏目浩輔です。よく烏丸って間違えられるんですよね。あと鳥目浩輔もよくあります。笑
賞をとっていたら、さすがに修正をお願いするのですが、先述したとおりに落選しています(悔しい!!)。
それに、竹書房の担当の方って、めっちゃ忙しそうなんですよね。だから、落選者の名前間違いなんて些細なことですから、そのままでもいいかなと思っています。
ええ、そうです。落選者ごときの名前間違いなんて、とるにたらない些細なことです(悔しい!!!)。
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