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怪談マンスリーコンテスト3月結果発表【お題:馬に纏わる怖い話】

2026年3月のマンスリーコンテストのお題は「馬に纏わる怖い話」
たくさんのご応募ありがとうございした。発表が遅くなりましたことをお詫び申し上げます。

結果発表

最恐賞 
「白馬」砂地伴太
佳作 
「抱擁」あんのくるみ
「シマウマのステーキ」那石嶺
「残り火」司翆々稟

最恐賞全文

「白馬」砂地伴太

 
名村さんの曽祖父は、日露戦争に軍馬の世話係として出兵した人物である。
 春先の満州で十数頭の軍馬を連れて行軍していた際、曽祖父には欠かせない日課があった。それは、馬の体に泥でこねた炭を塗ることだ。明るい鹿毛や白い斑のある馬は遠くから目立つため、敵の目を欺くために体を黒く染める必要があったのである。
 雪解けの泥にまみれる過酷な行軍の最中、曽祖父は毎朝欠かさず馬の体を拭き、首筋を撫でて静かに声をかけた。馬たちもそれに応えるように鼻を鳴らし、彼に寄り添った。長い道程の中で、曽祖父は兵たち以上に馬と心を通わせていた。
 だがある朝、曽祖父は光景を疑った。繋いでいた馬たちの毛色が、一晩ですべて真っ白に変化していたのだ。黒毛も鹿毛も、どの馬もが眩しいほどの白馬に変わっていたのである。
 隊内は騒然となった。これでは敵の標的になると上官は激昂し、事情を聴く間もなく曽祖父を殴りつけた。「貴様のせいだ」と罵倒し、倒れた彼の襟を掴んで何度も拳を振るったという。
 さらに上官は非情な命令を下した。
「こんな目立つ馬は使えん。全頭射殺しろ」
 曽祖父は涙ながらに「どうかそれだけはやめてください」と懇願した。苦楽を共にしてきた馬たちを、自らの手で撃つことなど到底できなかった。
その時、地面の底から響くような地鳴りが起こった。付近の山の万年雪が崩れ、猛烈な勢いで雪崩が押し寄せたのである。一瞬にして周囲は白銀の世界へと変わり、兵たちは腰まで雪に埋まって身動きが取れなくなった。
 直後、すぐ近くを敵の大部隊が通り過ぎた。近代的な重装備を備えた敵軍に見つかれば、小部隊である彼らはひとたまりもなかっただろう。しかし、敵は彼らに気づかなかった。激しい雪煙と、雪に同化した白い馬たちが、隊の姿を完全に隠してしまったからである。馬たちは敵が去るまで、一声も鳴かずにじっと耐えていたという。
 やがて雪煙が収まると、馬たちは体についた雪を激しく振るい落とした。すると不思議なことに、その毛色は元の鹿毛や黒毛に戻っていた。さっきまで激昂していた上官も、何が起きたのか理解できず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
 以来、名村家には「馬肉を食べるべからず」という家訓が代々厳しく伝えられている。
「馬にもらった命なんですよ、僕たちは」
 名村さんはそう言って、穏やかに微笑んだ。

総評

投稿瞬殺怪談の募集を挟み、通常開催は久しぶりとなりました怪談マンスリーコンテスト。3月のお題は、午年にちなみ「馬に纏わる怖い話」。
今回は奇しくも戦中の話が比較的多く集まり、最恐賞、佳作の中にもそうした時代背景の話が複数入賞いたしました。
最恐賞「白馬」は日露戦争下の満州での奇譚。怖さより不思議に寄った話ですが、素直に読ませる力が文にあり、ひとつの物語(物語に実話を否定する意図はございません)を味わい波に乗る満足感を評価いたしました。風景が目に浮かぶような描写や人馬の感情の息遣いも良かったと思います。
佳作1作目「抱擁」も太平洋戦争下の体験談。偶然と言い切ることもできなくはない話ではありますが、何らかの念や情、見えざる力がそこに働いたとしか思えない予兆と符合がしんみりとした怪の余韻を残す作品でした。
2作目「シマウマのステーキ」は前2作と打って変わって、情とは一線を画す不気味さ、不穏さを感じさせる記憶奇譚。いまヒットしている蛙坂須美さんの「こどもの頃のこわい話きみのわるい話」にも通じる幼少期の奇妙な記憶に纏わる話ですが、事象を安易に怪異とはせず記憶の掛け違いが起きた可能性や因子を冷静に見つめる視点を提示し、それでいてやっぱり何か腑に落ちないすわりの悪さを小さな恐怖の種として胸に押し込む力があったと思います。
3作目「残り火」は馬の心に宿る怨み、憎しみといった陰の情念を感じさせる作品。やや残酷な描写も怪談として迫力があり、荒涼寂寞とした結びに、何とも言えぬ恐怖とやるせなさを感じました。

 全体の傾向として、戦時下の話が多かったことを先に挙げましたが、競馬関連の怪談、落馬事故に纏わる話も非常に多く、できる限り検索して事実確認はいたしましたが、今はもう存在しない地方競馬場などそもそも記録されている案件だけがすべてとは言えませんので、実話かどうかについては明らかな誤り以外は問うておりません。
 また、たとえ実話であっても、場所や体験者を明確にすることが許されないことの方が多いですが、山や川といった自然、公的な史跡などある程度具体を出しても問題がなさそうな場所、話の内容が比較的「良い話、不思議な話」に分類される場合は、出していただいたほうが実話性を担保できる場合もありますので、一考してみてください。
 一口に馬と言っても、生きている馬から置き物の馬、オシラサマや絵馬、馬頭観音など信仰に纏わる領域、馬がつく人名、虫など実にさまざまな話が集まり、大変読み応えがありました。面白いお話の反面、文章表現の面でもったいなく感じる作品も多く、思わず惜しい!という言葉が漏れることも。助詞の使い方、同じ言葉を何度も使っていないかを再チェックするだけでも仕上がりが違います。接続詞も本当にその「そして」は必要なのか。そうした点ももう一度練り直してみると、全体がシュッとして美しくなります。
 祖母や祖父の若い頃の話の場合、冒頭で、「Aさんの祖母(祖父)が若いころに体験した話」としてしまうと、回想場面(再現ドラマ的な書き方)でもずっと主語が祖母や祖父のままになってしまい、他の登場人物は若いのに違和感が出てしまうことも。「Aさんの祖母(祖父)、〇〇さんが若いころに体験した話」としておけば、それ以降、〇〇さんを主語にできるので違和感がなくなります。ちょっとしたことですが、そんなところも参考にしていただけますと幸いです。

選考過程

★最終選考対象

「白馬」砂地伴太
「繋がれたポニー」やまの恵多
「シマウマのステーキ」那石嶺
「残り火」司翆々稟
「草原の影」吉田六
「栗毛に宿る光」天堂朱雀
「抱擁」あんのくるみ

★二次選考通過 

「白馬」砂地伴太
「ボシタ祭り」相良つつじ
「可愛い子」碧絃
「繋がれたポニー」やまの恵多
「馬面」 天神山
「シマウマのステーキ」 那石嶺
「馬双紋」 むぃ
「残り火」司翆々稟
「ベッドメリー」藤野夏楓
「白馬を探して」墓場少年
「草原の影」吉田六
「栗毛に宿る光」天堂朱雀
「似ている」烏丸浩輔
「名前を知っている馬」優月心菜
「未知の匂い」月の砂漠
「抱擁」あんのくるみ
「話す馬」瑞雲閣華千代
「馬車引きの妻」薊桜蓮

★一次選考通過

「白馬」砂地伴太
「浜野矩随」 むぃ
「馬運車」御家時
「ボシタ祭り」 相良つつじ
「祟りの真相」 天神山
「可愛い子」 碧絃
「繋がれたポニー」やまの恵多
「あおかげ」 那石嶺
「馬面」 天神山
「相乗りの指先」 ちみ
「南洋の馬」 零
「シマウマのステーキ」那石嶺
「馬双紋」 むぃ
「主を乗せて」雪鳴月彦
「午年の影」藤村式
「残り火」司翆々稟
「ベッドメリー」藤野夏楓
「アイジ」黒野洋司
「かぶるもの」住依為信
「落馬」御家時
「同乗者」こっぺぱん
「帰宅困難者」後藤それのち
「白馬を探して」墓場少年
「草原の影」吉田六
「栗毛に宿る光」天堂朱雀
「似ている」烏丸浩輔
「裏書き」ゴンゾウ
「21番目の馬」鬼志仁
「名前を知っている馬」優月心菜
「未知の匂い」月の砂漠
「抱擁」あんのくるみ
「話す馬」瑞雲閣華千代
「馬車引きの妻」薊桜蓮

次回の怪談マンスリーコンテストについて

5月募集回より、編集部以外に「投稿瞬殺怪談」の特別審査員を務められた松村進吉先生にも投稿作を読んでいただき、総評(感想)をいただきます。受賞、選外にこだわらず応募作全体から、良かったところ、作品ブラッシュアップのポイントなどをいただく予定です。どうおぞお楽しみに。