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【秘密の花園の誘惑】

僕は介護施設の統括責任者をしている。うちの入居施設には、宿直室が二つあって、一つは女性用もう一つは男性用だ。だけど、ここ数年は女性スタッフだけで夜を紡いでいる夜勤をしているため、男性用の宿直室は埃をかぶった物置と化している。女性用の宿直室は、もちろん男子禁制であり、言うなれば禁断の聖域である。そこには、たとえ統括責任者の僕であっても、その扉をくぐることは許されない。清掃も整頓も、すべて女性スタッフたちの手によるものだ。女性用宿直室には施設が開設する前に、足を踏み入れたきり、オープンしてからはその香りすら知らない、秘密の花園だった。

そんなある日、その禁断の聖域に足を踏み入れる瞬間が訪れたのだ。
それは、静かな夕暮れのことだった。数人の女性スタッフが、宿直室の前でひそひそと囁き合っていた。彼女たちの声には、かすかな困惑が感じられた。耳を傾けると、どうやら宿直室の換気扇から埃の匂いが漂うようで、掃除したくても、彼女たちの手では届かず困っている様子だった。
「僕がやろうか?」
その自然な声に、自分でも少し驚いた。頭で考える前に口からこぼれていた。責任者として、彼女たちの悩みを放置するわけにはいかない。僕の身長なら、脚立の上で腕を伸ばせば、換気扇の掃除くらいわけはないだろう。彼女たちの顔がパッと明るくなった。「本当ですか!ありがとうございます!」 その笑顔は、まるでつぼみが花を咲かせたように鮮やかで、僕の胸をときめかせた。

宿直室の扉を開ける。開設してから初めて踏み込むその空間は、まさに女性だけの聖域で、息をのむほど整然としていた。部屋の空気にはフローラルな残り香が漂い、かすかに甘く、それでいてどこか誘うような匂いが僕の鼻腔をくすぐる。埃臭さなど感じられないほど、部屋は清らかで、どこか神聖な気配さえ漂っていた。
「あそこです」
スタッフの一人が、換気扇を指さす。その声には、どこか信頼と期待が混じっている。脚立を換気扇の下に設置して、僕はゆっくりと登った。換気扇に近づくと、確かに埃の匂いが鼻をついた。傘を外すと、プロペラに絡みついた埃が、まるで時間を閉じ込めたかのように厚く堆積していた。これは、簡単な仕事ではなさそうだ。
「少し時間がかかりそうだから、あとは僕がやっておくよ」
僕の言葉に、彼女たちは軽く頷き、部屋を後にした。扉が閉まる音が、静かな部屋に響く。ひとり残された僕は、黙々と埃と向き合う。A型の血が騒いだのか、埃を半端に残すことが耐えられなかった。プロペラの隅々まで、まるで過去の記憶を拭い去るように、丁寧に、執拗に掃除を続けた。

ふと脚立の上から視線を落とした瞬間だった。宿直室のベッドの枕元に、黄色い何かが視界に入った。
ハンドタオルだ。それは紛れもないハンドタオルだった。柔らかそうな布地が、夕暮れの光に照らされて、かすかに輝いているように見えた。どこからどう見てもハンドタオルに違いなかったが、この禁断の聖域にいることの重みが、僕の心を奇妙に揺さぶった。
「本当に、ハンドタオル、なのか……?」
頭の片隅で、そんな囁きが響く。明らかにハンドタオルなのに、なぜかその存在が、僕の理性を試すように妖しく誘う。この聖域にあって、それはただの布ではないのかもしれない。秘密の花園に隠された、知られてはいけない何か。僕の心臓は、理由もなく高鳴った。
足音を殺し、まるで罪を犯すように、そっと脚立を降りる。ベッドに近づくたび、胸の鼓動が速まる。枕元の”それ”を、右手でそっと持ち上げた。指先に触れる柔らかな感触。
ハンドタオルだった。鮮やかな黄色が眩しいハンドタオル。僕の想像は、やはりただの幻想だったのだ。
「そうか……そうだよな」
僕は小さく呟いて、安堵とも落胆とも言える気持ちで、タオルを元の場所に戻した。その瞬間、扉が開いて女性スタッフの声が響いた。
「終わりましたー?」
その明るい声に、僕はハッと我に返る。
「うん、今終わったよ。匂いもなくなったと思うよ」
彼女は笑顔で換気扇を確認し「本当だ!ありがとうございます!」と弾む声で応えた。だが、僕の胸には、さっきの秘密の葛藤がまだ燻っている。ハンドタオルのことを、なぜか口にできなかった。
部屋を出る。扉に鍵をかけるガチャリという音が、まるで僕の心にも鍵をかけるように響いた。
あの黄色いハンドタオル。あの瞬間だけの、秘密の花園での誘惑。それは、僕だけの記憶として、胸の奥にそっとしまわれた。

この小さな秘め事は、これを読んだあなたの心の片隅にだけに、そっと留めておいてほしい。

僕とあなたとの秘密にしてほしい。


なんのはなしですか


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コニシ木の子さんが書かれたこちらのエッセイがあまりに素敵過ぎて、触発されて昔書いた記事を大幅にリライトしました。

コニシさん、よろしければご査収ください。


#なんのはなしですか
#男子禁制ってなんかエロいね

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