ポジティブシンキングを気軽に勧めないでほしい
「ポジティブに考えた方がいいよ」って、そんな簡単に人に言える言葉ではない気がしてきた。
ポジティブシンキングって前向きで、そりゃ聞こえはいいけれど、これができるのは一部の天才か修行を積んだ熟練者のみだ。
僕は基本的にネガティヴである。
周りの人が小声で話していると僕のことかなと思ってしまうし、褒められると裏があると勘ぐる。
ドリンクバーでは自分だけ席を立つことができない。僕がいない間に何を言われてるかわからないから。
だいたい最悪を想定して動いている。車の運転中に後続車がいれば「煽られるんだろうなぁ」と思うし、コンビニに行けば買いたいものが売り切れてるんだろうなぁと思っている。仕事でやり残したことがあれば、次の日にどちゃくそに言われるんだろうなとも思って身構えている。
そのくらいに、ネガティヴなのだ。
そんな僕に、もしくは僕のような人に、「ポジティブに考えましょう」なんてアドバイスするのは、無責任だと思っていただきたい。
そもそもに毎日ネガティヴに生きることが遺伝子レベルで組み込まれているような僕たちに、「ポジティブに」って言ったって、「はいそうですか」と簡単に切り替えられる話じゃない。
まるで自分の生き方を根本から塗り替えるような、それは人が丸ごと変わるかのような大変な作業なのだ。
ある日のこと、長く愛用していたメガネが壊れて、お店に持ってきた方がいた。
それは僕の働いているお店で直せる範疇を越えていて、福井県鯖江市にある修理専門の会社に依頼をしなければならないものだった。
期間は約2週間ほど。
その方は来週行く旅行へ持って行きたかったらしいが、それは物理的に叶わないことになった。
僕ならば、ここでテンションが下がる。せっかくの旅行を2軍のメガネで行くという事実に、僕のネガティヴは敏感だ。
けれどその方は違った。
「旅行から帰ったときの楽しみができた!」
そう切り替えて、「楽しみにしとく!」とウキウキ気分でお店を後にする。
その切り替えスピードが僕には信じられない。
別の日には、お店に来る最中に縁石に車をぶつけてしまい、フロントバンパーがべっこりと凹んだ状態でお店にやってきた方がいた。
聞くと、ぶつけたのはここに来る直前のこと。
つまりは、ぶつけたてほやほやだ。
「ぶつけたんよ〜!メガネ買う前に車屋さんに電話していい?」そう明るく言い放つ。
それはもちろんいいけれど、今日買う予定のメガネはどうするのだろう。
「レッカー呼ぶのに駐車場お借りしていい?」
それはもちろんいいけれど。
「ありがとう〜!じゃあメガネください!」
それももちろんいいけれど、車が凹んだのにメンタルが凹んでないのは無敵すぎる。
ポジティブシンキングとは、こういう人たちのことをいう気がする。
これは生まれ持っての才能か、もしくは長きにわたる辛い修行の末にようやく身につけられる、一種の悟りの境地のようなものだ。
「ポジティブに考えましょう」
こんな一言でさらっと切り替えられるような話ではない。
それでも僕たちにポジティブを押し付けるのは、「辛い修行の道を歩み始めなさい」と言っているようなものだ。
それを選ぶのも一つの選択肢かもしれないけれど、そんな軽い気持ちで人に修行の道を歩ませるのですかと、僕はそこに疑問を呈したい。
それに、ネガティヴだって必ずしも悪くはない。
ネガティヴとはリスク回避だ。あらゆる可能性を考えて最悪に備える。それがネガティヴだ。
ポジティブだってもちろん悪くはないけれど、ポジティブだけが正解ではない。
確かにときどき、そちらの世界が羨ましくもあるけれど。
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