4.25%しか売れないSpaceXが、1兆ドルを失った
7月16日、SpaceXの株が131.11ドルで引けた。6月12日の公開価格135ドルを下回っている。天井からは1兆ドル(約162兆円)が消えた。
上場の日に書いたのは、審判は8月に来る、という話だった。その8月は、まだ来ていない。
■ 上場の日に書いたこと
6月12日、上場に合わせてこう書いた(マスクは初日の品薄まで設計した -- 史上最大IPOの審判は8月に先送りされている)。
「今回売り出されるのは発行済み株式の4.25%だけで、残る95.75%は売却禁止(ロックアップ)の縛りの中にある。」
「つまり品薄は偶然ではない。固定価格・低フロート・配分削減・インデックス買いの4点で、初日に売り手が現れない構造があらかじめ組んである。」
そして審判の日付を、こう置いた。
「スペースXは品薄で初日が守られているぶん、審判の日付が後ろにずらしてある。最初の試験は8月、初の公開決算とフロート1.6倍の解禁が同時に来る。」
「それまでの値動きは、設計された品薄の中の値段である。」
■ 設計は、初日には効いた
135ドルは150ドルで寄り、初日を160.95ドルで終えた。19%高い。6月16日には日中225.64ドルを付けて211.39ドルで引けた。終値ベースではこれが天井で、公開価格から57%高い。上場3営業日目に、時価総額でAmazonを抜いて全米5位になった。
設計は、そのとおりに働いた。値段が上がったのではない。売りが無い場所で、値段が付いただけだ。
■ 支えの弾が尽きた
引受はゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーら。8,330万株を追加で買い、調達額が857億ドル(約14兆円)に膨らんだと伝わったのが6月15日だ。株価を支えるための弾を、そこで使い切っている。天井は、6月16日だった。
設計が効くのは初日だけだ。弾が尽きれば、設計は消える。
■ 8月を待たずに、割れた
7月15日、株は初めて135ドルを割った。日中132.15ドルまで沈んでいる。翌16日は130.74ドルまで下げ、131.11ドルで終えた。天井の211.39ドルから38%安。時価総額はピークの2兆6,700億ドル(約434兆円)から1兆6,600億ドル(約270兆円)へ。1兆ドルが消えた。
だが8月は、まだ来ていない。決算もロックアップの第1弾も、まだだ。売れる株は上場の日と同じ4.25%のまま。
つまりこの131.11ドルは、審判の前に付いた値段だ。設計された品薄の中で、守られたはずの値段が割れた。
〔図:SpaceX(SPCX)の実際の終値。6月12日の上場から7月16日まで23営業日。公開価格135ドルに水平線を引き、6月16日の天井211.39ドルと7月16日の131.11ドルを注記/出典:Yahoo Finance〕
■ 8月まで、4,400人は売れない
上場で、4,400人を超える現役・元社員が紙の上で百万長者になった。2015年に溶接工として入社した男が時給28ドルと一緒に受け取った1万ドル分の株は、公開価格で88万ドル(約1.4億円)だ。
彼らは、まだ1株も売っていない。目論見書によれば、早期解除が始まるのは第3四半期からだ。最初が、第2四半期決算の2営業日後。そこで9億1,150万株が開く。いま市場にある株の1.6倍だ。
同じ日に、もう1つの判定がある。決算発表日で終わる10営業日のうち5日、終値が公開価格の30%上――175.50ドル――を上回っていれば、4億5,580万株が追加で開く。強さが供給を呼ぶ設計だ。
いまは131.11ドル。175.50ドルまで34%足りない。8月までに戻らなければ、この弁は開かない。
アライアンス・バーンスタインが、過去10年に5,000万ドル以上を調達したIPOを追った。ロックアップが切れた後の半年間は、中央値でマイナス10%だった。「伝統的なロックアップ解除後の半年で、10本に1本のIPO株が62%以上下落した」。そして大半の株は、下げ止まった後もIPO時の高値を二度と見ていない。
インデックスファンドが売りを吸収するという反論はある。だがNasdaqは浮動株でウェイトを決めるため、買いの量は限られる。フェイスブックも同じ構図で押された。
4.25%で守った値段が、4.25%のまま割れている。その状態で、1.6倍が開く。
■ 次に同じ設計で来るのは、この2社だ
Anthropicは6月1日、上場申請書の草案をSECに秘密提出した。直前に650億ドルを調達し、評価額は9,650億ドル(約157兆円)。初めてOpenAIの8,520億ドルを上回った。6月30日には米政府が輸出規制を解除し、最大の障害が外れている。そして7月15日、引受銀行が投資家との面談を並べ始めた。早ければ10月に上場する見込みだ。
引受はゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェース。SpaceXの初日の値段を作ったのと、同じ顔ぶれだ。
OpenAIは6月8日に申請を済ませていた。だがSpaceXの急落と公開市場の低迷を見て、上場を2027年へ延ばす方向に傾いている。サム・アルトマンが欲しがった1兆ドルの値札に届かないまま今年出るか、届くまで待つかだ。
片方は待ち、片方は走る。だが両社とも、まだ黒字ではない。黒字化はOpenAIが2030年頃、Anthropicが2028年頃だ。9,650億ドルは、利益ではなく物語に付いた値札だ。そして物語の値札ほど、売りを止めた場所では高く出る。
■ 見るのは8月だ
上場の日に立てた問いは、こうだった。「8月の第2四半期決算とロックアップ第1弾の解禁を通過した後も、この株は135ドルの上に立っていられるか。」
答えの半分は、もう出ている。通過する前に、135ドルの下へ落ちた。残りの半分は、8月に来る。
設計が守れるのは初日までで、その先は市場が値段を作る。
10月にAnthropicが来た時も、初日の値段はまた設計される。同じ銀行が、同じ道具で。初日の値段で判断する必要はない。
参考:2026年7月時点の分析であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
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