マスクは初日の品薄まで設計した -- 史上最大IPOの審判は8月に先送りされている
スペースXが6月12日、ナスダックに上場する。ティッカーはSPCX。調達額750億ドル(約12兆円)は史上最大のIPOだ。
SECに提出された上場書類のロックアップ条項には、見出しに出ない仕掛けが埋まっている。株価が公開価格を30%上回ると、既存株主が売ってよい株が4.6億株増える。初日の値動きを追う前に、この設計から読んでいく。
■ 確定した数字 ── 歴代2〜4位の合計に1社で並ぶ

値決めは6月11日の夜に終わった。公開価格は1株135ドル。レンジを示して需要を探る通常方式と違い、固定価格の一発提示だった。5億5,556万株の新株を売り出し、調達額は750億ドル(約12兆円)。歴代の記録は、自国の取引所に上場したサウジアラムコの294億ドル、ニューヨーク上場のアリババ250億ドル、東証上場のソフトバンク213億ドルと続く。この2〜4位を合計した757億ドルに、スペースXは1社でほぼ並ぶ。時価総額は約1兆7,650億ドル(約283兆円)。テスラを上回り、上場初日から米国時価総額7位級の会社が誕生する。
需要は厚い。応募は受付中盤の6月8日時点で約2倍にとどまっていたが、注文の締切までに3〜4倍、総需要2,500億ドル(約40兆円)超まで積み上がったと報じられている。ここまでは祭りの成功を示す数字に見える。
だが2025年通期の売上は、今年2月に買収したAI企業xAIと旧ツイッターを合算しても187億ドル(約3.0兆円)にとどまる。時価総額を売上で割ると約95倍になる。エヌビディアが23倍、S&P500で最も割高とされるパランティアでも78倍だ。しかも2025年は49億ドル(約7,800億円)の純損失に転落しており、利益では測れない。買い手は売上の95年分の値段を初日に払う。
■ 初日が強く見える仕組み
この値段で初日を迎えても買いが途切れないとすれば、理由は業績への自信よりも需給の設計にある。
第1に、市場に流通する株式、いわゆるフロートが極端に小さい。今回売り出されるのは発行済み株式の4.25%だけで、残る95.75%は売却禁止(ロックアップ)の縛りの中にある。
第2に、個人投資家の枠が削られた。当初は異例の30%を個人に配分する計画だったが、機関投資家の注文が殺到し、最終配分は20%台前半に縮んだと報じられている。抽選に外れた個人の買い注文は、上場後の市場に回る。
第3に、インデックスの買いが控える。世界の株価指数を手がけるMSCIは、上場10営業日後の6月下旬に早期組入れする方針を確認している。ナスダック100も新設の早期組入れルールにより15営業日後、7月上旬の追加が観測されている。ナスダック100に入れば、QQQなど連動投信を持つ人は自動的にこの株の株主になる。連動ファンドの買い需要を350億〜500億ドル(約5.6兆〜8.0兆円)とする推計もあり、実現すればフロートの半分前後を機械的に吸収する規模になる。
つまり品薄は偶然ではない。固定価格・低フロート・配分削減・インデックス買いの4点で、初日に売り手が現れない構造があらかじめ組んである。
■ 仕込まれた自動弁 ── 強さが供給を呼ぶ
ところが、SECに提出された目論見書のロックアップ条項を読むと、この品薄には終了予定日のほかに前倒しのスイッチが付いている。
通常のIPOは180日間一律で既存株主の売却を禁じる。スペースXは段階式だ。第2四半期決算の発表2営業日後に、最大9億1,150万株が解禁される。フロートの1.6倍にあたる株数が、8月に一度に売却可能になる計算だ。
もう1つ、目を引く追加条項がある。株価が公開価格の30%上、175.50ドルを10営業日のうち5日上回ると、4億5,580万株が追加で解禁される。初日に熱狂して株価が駆け上がるほど、既存株主が売ってよい株が早く増える。強さがそのまま供給に変換される自動弁だ。以後も8月下旬から10月下旬にかけて小刻みな解禁が続き、12月8日には、366日間ロックされるマスク本人と特定大株主を除く全株が売却可能になる。

設計の意図はこう読める。初日の品薄で値段を守り、株価が十分高ければその熱を既存株主の出口に変える。これまで会社が用意する売却機会を待つしかなかった私募投資家が、そこに並んでいる。
■ 値段の論争と2012年の前例
では135ドルは妥当なのか。モーニングスターの算定は7,800億ドル(約125兆円)、公開価格の半値以下だ。中核のスターリンクと打ち上げ事業を積み上げた値段がそこまでで、残る1株あたり72ドル分は軌道上のAIデータセンターや火星といった、まだ存在しない事業への前払いだと整理している。ニューヨーク大学のダモダラン教授の算定でも1兆2,500億〜1兆3,000億ドル(約200兆〜208兆円)で、公開価格に届かない。
応募倍率の厚さは、この論争に答えを出さない。2012年のフェイスブックは機関投資家の需要が5倍を超えた当時史上最大級のIPOだったが、上場4ヶ月で株価は53%下落した。応募倍率が測るのは初日の人気で、1年後の値段までは保証しない。
フェイスブックとの違いは1つある。あちらは初日から大きなフロートで上場し、すぐに審判が下った。スペースXは品薄で初日が守られているぶん、審判の日付が後ろにずらしてある。最初の試験は8月、初の公開決算とフロート1.6倍の解禁が同時に来る。
■ 今日の問い
確認は1つでいい。8月の第2四半期決算とロックアップ第1弾の解禁を通過した後も、この株は135ドルの上に立っていられるか。それまでの値動きは、設計された品薄の中の値段である。
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