一度辞めた国家公務員を呼び戻す。霞が関の人材不足はここまで来た
カムバック公務員、という言葉を見て、少しだけ不思議な気持ちになった。
一度辞めた国家公務員を、もう一度採用しやすくする。
いわゆる「アルムナイ採用」だ。
民間企業では少しずつ聞くようになった言葉だけど、それが霞が関にも入ってきた。
これだけ聞くと、
「辞めた人を呼び戻すくらい人が足りないのか」
と思う人もいるかもしれない。
たぶん、それは半分当たっている。
でも、半分だけだと思う。
これは単なる人手不足対策というより、公務員のキャリアの考え方が、少しずつ変わってきている話でもある。
かつての公務員は、一度入ったら定年まで勤めるもの、というイメージが強かった。
国家公務員ならなおさらだ。
総合職で入って、省庁の中で経験を積み、異動を重ね、国会対応も予算も制度改正もやりながら、組織の中で育っていく。
そういうキャリアが、ある意味で標準だった。
ただ、今はそう簡単ではない。
若手や中堅の離職が増えている。
報道では、総合職試験採用者で採用後10年未満に退職した人が、2013年度の76人から、2024年度には174人に増えたとされている。
2倍以上である。
この数字だけを見ると、かなり重い。
もちろん、退職にはいろいろな理由がある。
民間に行きたい人もいる。
もっと専門性を深めたい人もいる。
働き方を変えたい人もいる。
家庭や健康や人生設計の事情もある。
だから、退職者が増えたことだけをもって、単純に「霞が関がダメになった」と言い切るのは雑だと思う。
ただ、それでも中央省庁の仕事がしんどいことは、いろいろなところで語られてきた。
国会対応。
深夜まで続く調整。
急な資料作成。
上からも横からも外からも来る説明責任。
「ブラック霞が関」という言葉が出てくるのも、そういう実感があるからだろう。
そこで出てきたのが、今回の「カムバック公務員」だ。
一度辞めた人を、もう一度戻しやすくする。
退職前と同じ府省に戻る場合には、人物試験だけで採用できるケースもあるという。
これを聞くと、少し驚く人もいるかもしれない。
「え、そんなに簡単に戻れるの?」
と思うかもしれない。
でも、たぶん本質はそこではない。
元職員は、行政の仕事の文脈を知っている。
国会対応がどういうものか。
予算要求がどう進むのか。
人事や給与の制度がどれくらい細かいか。
所管業界や関係機関との調整に、どれくらい時間がかかるか。
こういうことは、外から説明されてもなかなか分からない。
行政の仕事は、マニュアルを読めばすぐできるタイプの仕事ばかりではない。
制度の背景、人間関係、過去の経緯、関係部署との距離感、説明資料の作法。
そういう「紙に書きにくい知識」がかなり多い。
だから、一度その世界を経験した人が戻ってくることには、たしかに意味がある。
しかも、退職後に民間企業や研究機関、自治体、国際機関などで経験を積んでいれば、公務員時代とは違う視点も持っている。
外に出たからこそ分かることもある。
行政の当たり前が、外では当たり前ではないこと。
逆に、民間の当たり前が、行政ではまだ十分に取り入れられていないこと。
そういう感覚を持って戻ってくる人は、組織にとってかなり貴重かもしれない。
ただ、ここで少し気になることもある。
「戻りやすくする」ことと、「辞めにくい職場にする」ことは、別の話だからだ。
辞めた人を呼び戻せる制度は、たしかに大事だ。
でも、若手がどんどん辞めていく状況がそのままなら、穴の空いたバケツに水を入れているようなものになる。
本当に必要なのは、
辞めた人が戻れること。
外に出た人の経験を活かせること。
それと同時に、今いる人が過度に消耗しないこと。
この3つだと思う。
人材確保という言葉は、よく使われる。
でも、人材確保は採用だけの話ではない。
入ってもらう。
育ってもらう。
続けてもらう。
一度離れても、また関わってもらう。
この全部を含めて、人材確保なのだと思う。
そう考えると、カムバック公務員は悪い制度ではない。
むしろ、かなり現実的だと思う。
今の時代、一つの組織にずっといることだけが正解ではない。
公務員になって、民間に行って、また公務に戻る。
省庁で働いて、大学や研究機関に行って、また政策の現場に戻る。
自治体で働いて、国に移る。
国で働いて、地方に行く。
そういうキャリアがあってもいい。
公務員の仕事は、社会の制度を支える仕事だ。
だからこそ、組織の中だけで完結しない経験が、むしろ必要になる場面もある。
一方で、少し冷静に見ないといけない部分もある。
「カムバック公務員」という言葉だけが先に広がると、まるで誰でも簡単に戻れるように見えてしまう。
でも実際には、各府省の公募があり、応募要件があり、選考がある。
元職員だから自動的に採用されるわけではない。
退職前にどんな経験をしていたか。
退職後に何をしていたか。
今の組織がどんな人材を必要としているか。
そこが合わなければ、当然採用にはならない。
だから、これは「出戻り歓迎」というより、「必要な経験を持つ人を、過度に形式的な手続きで遠ざけないようにする制度」と見た方が近い。
個人的には、公務員のキャリアはもっと柔らかくなっていいと思う。
一度辞めたら裏切り者、みたいな空気があると、組織はどんどん閉じていく。
外に出た人を、また仲間として迎える。
外で得た知見を、行政に戻す。
そういう循環ができれば、公務の世界はもう少し強くなる。
もちろん、きれいごとだけではない。
戻ってきた人の処遇をどうするのか。
現役で残ってきた人とのバランスをどう取るのか。
元職員が有利に見えすぎないように、選考の透明性をどう確保するのか。
考えるべきことは多い。
特に公務の世界では、公平性が大事だ。
「身内に甘い採用」に見えてしまえば、制度への信頼は落ちる。
だから、アルムナイ採用を進めるなら、採用条件や選考の考え方はできるだけ分かりやすく示した方がいい。
ただ、それでも。
一度離れた人と、またつながれる仕組みを作ること自体は、前向きな変化だと思う。
公務員の仕事は、合う人にはとても意味のある仕事だ。
でも、ずっと同じ環境にいると、しんどくなることもある。
外に出て初めて、公務の価値に気づく人もいるだろう。
逆に、公務にいたからこそ、外で活きる力もある。
その往復を認めることは、たぶんこれからの公務員制度にとって必要なことなのだと思う。
カムバック公務員。
少しキャッチーな言葉だけど、その裏にはかなり現実的な問題がある。
人が辞める時代に、どう人を確保するのか。
公務経験を、どう社会全体で活かすのか。
一度離れた人と、どう関係を持ち続けるのか。
これは霞が関だけの話ではない。
地方自治体にも、大学にも、独立行政法人にも、民間企業にも通じる話だと思う。
「一度辞めたら終わり」ではなく、
「また戻ってきてもいい」
「別の形で関わってもいい」
そういう余白がある組織の方が、これからは強いのかもしれない。
