「今後どうしたい?」の欄が、ずっと埋められなかった
評価面談の季節になると、決まって手が止まる欄があります。
「今後の方向性」「3年後、どうなっていたいか」
枠だけが用意されていて、立派なことを書こうとするほど、ペンが止まる。何を書けば正解なのか、いまだに分かりません。
結局、あたりさわりのない言葉で埋めて提出します。
去年も、その前も、目標欄には「スキルアップ」とだけ書きました。
何のスキルを、どこまで、と聞かれたら答えられない。書きながら、自分でも何を指しているのか分かっていない。
提出した瞬間に内容を忘れます。面談の席で上司に読み上げられて、はじめて「そういえばそう書いた」と気づく。毎年それを繰り返してきました。

やりたいことが、特にない。そういう焦りが、四十を過ぎてから少しずつ濃くなっています。
同期は資格を取り、後輩は異動を希望し、それぞれ向かう先を持っているように見える。
自分だけが、空欄の前で止まっている。書けないのは準備不足だと思い込んで、毎年その欄を後回しにし、締切間際に一行で済ませてきました。
掘っても、出てこない
意見や違和感なら、その場で考えれば言葉になります。会議で詰まっても、後からメモに書き出せば、なんとか形になる。
引っかかりは、掘れば取り出せます。手応えのある作業です。
ところが目標は違います。「自分は何がしたいのか」を机の前でいくら掘っても、底から出てくるのは使い古しの借り物の言葉。
「成長したい」「価値を出したい」。どこかで読んだ言い回しを、自分の口で言い直しているにすぎません。
嘘ではない。
けれど、自分の言葉でもない。書いた本人が何の熱も感じていないのだから、読むほうに届くはずもありません。
掘れば出るものと、掘っても出ないものがある。意見は前者で、方向性は後者でした。
掘り方が下手なのでも、考えていないのでもなく、掘っても出ない場所を掘っていた。空欄の前で固まって当然だったのだと、今は分かります。
溜まっていたものを、並べてみた
きっかけは、たまたまパソコンの中を整理していて、何年分かの作業メモと、障害対応の振り返りと、社内報告の下書きが、一つのフォルダに溜まっているのに気づきました。
消そうか迷って、念のため中身を開く。書いたきり放っておいたファイルばかりありました。

時系列に並べて眺めると、同じところに何度も引っかかっている自分が見えてきました。
手順書が分かりにくい。
手順どおりにやったのに止まる人がいる。
説明したのに伝わらない。
書いたのにぼやける。
扱う案件もシステムも時期もばらばらなのに、疑問や引っかかりを感じた場所だけが毎回ほぼ同じ。
三年前のメモにも先月の下書きにも、同じ問いが書いてある。「この手順書、なぜ伝わらないのか」。書いた本人だけが一番、そこにこだわっていました。
探したわけではありません。「自分の関心は何か」と問い詰めて出したのではなく、溜まっていたものを並べたら、偏りのほうから浮かんできた。
一枚一枚は小さなピースでも、束ねると一つの方向性が見えてくる。方向は、その場だけ掘るものではなく、溜めて大きくすると振り返ったときに見えるものでした。
方向のかけら、くらいの大きさ
それでも「目標」と呼ぶには、まだ小さい。胸を張れるほど立派でもありません。
ただ、自分はどうやら「伝わらない」が気になって仕方ない人間なのだ、という偏りが輪郭として残りました。決めた目標ではなく性質に近い。意志ではなく癖でした。

夢でも自己実現でもない。方向のかけら、くらいの大きさです。それでも、空欄を前に固まっていたときよりは、ずっと扱いやすい。
何になりたいかは分からなくても、何に引っかかる人間かは、束を見れば分かります。やりたいことがわからないではなく、すでにやろうとしていたことが、手元に積んでありました。
大きな目標を立て直す気はありません。代わりに、次に書く手順書で、読み手が止まりそうな場所を一つだけ直してみる。
三年後の理想像ではなく、来週の一手。それくらいの小ささことでいいのだと思います
次の評価シートの欄は、たぶん「スキルアップ」と書くことはありません。
三年後を当てにいくのはやめました。あの分かりにくい一行を直すところから、今期を始めてみます。
関連記事
あわせて、こちらの記事もどうぞ。
自分の中にある違和感や考えを、まず聞いてみることについて書いた記事です。
意見がないのではなく、まだ言葉の形になっていないだけかもしれない。そんな感覚について書いています。
仕事の言葉に、その日の自分の状態がにじむことについて書いた記事です。
マガジン
この記事は、マガジン「40代の生き方」に入れています。
40代になってからの仕事、言葉、人との距離感、これからの方向性について書いています。
大きな答えを出すというより、日々の仕事や生活の中で引っかかったことを、少しずつ言葉にしていくマガジンです。
