「ほんとつき」
みなさま、こんにちは。
コンテスト「#今年学んだこと」に、たくさんのご応募をいただきありがとうございました。
結果発表までの期間、「#今年学んだこと」にちなんだミニ企画を行います! 第1弾は「偏愛」をテーマに、noteクリエイターさんにご寄稿いただきます。題して「偏愛のススメ」。
今回ご寄稿いただいたのは、KODOさんです。
書家、茶人として活躍するKODOさん。はたしてKODOさんの偏愛の対象とは……!?

・スマートな失恋
万能が月夜を駆逐する。
たとえばAI搭載のスマホ。
これがひとから月あかりをデリートした。
では今宵、偏愛で万能から月光を奪いかえすのはどうか。
・月夜のインク
活字は等しく屍。
AIの台頭とともに、星の数ほどの字の残骸が宙を彷徨った。
これらの成仏は、限りなく夜空に近い藍色のS.T.Dupontによる手書きに任せることとする。
・家出する朔
「縦」の訓読みは「ほしいまま」。
「横」の訓読みもまた「ほしいまま」。
しかし、それらの品格はまったく異なる。
新月が愛想をつかして家出したのは、横書きが我が儘になったあたりからである。
・繊月の栞
二日月の栞をはさんでおいた頁から読書を再開し、久方ぶりに月夜のインクでノートもとることとした。幾年かまえの『全宇宙誌』は一頁でおさまったが、今回のこの本には二頁を要した。すでに絶版で、古書の類にはいるのだろうか。表紙には『金鱗の鰓を取り置く術』とある。著者とであったのは、彼が大病で禹歩行で乗り越えたあくる年のことであった。

・若月のゆりかご
読書ノートの風景を一葉、家人のPENTAXで撮ってみた。
小ぶりな古い一眼で、ここ数年、レンズキャップもしていない。
すると、眉月の光がノートを照らし、またたく間に地球は三日月の弧内をふり子のようにくり返し転がりはじめた。こうして地球は月から出られなくなったそうな。
・月泥棒と日強盗
時計代わりにスマホをちらりと見た。
するとたちまち月日が流れ、晩年がやってきた。
・イルクジのG-SHOCK
或る晩、かつて山東京伝が煙草入れ屋を営んでいた辺りの銀座を歩いていると、わき見運転でもしていたのであろう。ビルのうえで上弦の月と三日月が接触し、前者はクジラに、後者はイルカになって天孫降臨した。その晩からである、私の腕時計が煌々と黄金に輝くようになったのは。
私の左手首には、今も二艘の黑月がイエローベルトのうえで微睡んでいる。
・十三夜祭
平日は左の内ポケットにあるTENTEの名刺入れに、我が鼓動を聴かせている。
鹿児島の里山でこれをもとめた帰路、霧島連山のがけ崩れとともに、十三夜が名刺入れへとすべり降りてきたのだ。以来、私と名刺交換した者は、等しく運命が激変するようになったそうな。
・Beyond the Matrix
ほうき星が、いろは歌の三十三番目の音である「こ」の字を月面に書くと、月のえくぼから別世界が飛びだしてきて、
「月ではなく、太陽を直視せよ」
とだけ云って、EPICAを流しはじめた。
・北軽キャンプ
過日、待宵月夫妻が北軽井沢の「be」にキャンプをしにいった。
満天の星のうえにテントをはると、その頂にひとつ星が泊まったという。
こうして北極星は不動となり、全宇宙はそのテントのまわりを回転するようになったのである。

・望カイヤナイト
チャクラは我が身のはるかうえにも拡がっている。
第十二のチャクラはカイヤナイトの波動によってひらくというので、その石をもとめて鎌倉に足を運んだ。すると、まいとし中秋の名月が枕元に降りてきて、私の顔を覗きこむようになった。しかし、去年の秋は狸寝入りをしており、中秋の名月の顔をひと目見てやろうと、突然目をあけてみたのだ。
すると彼女の眼は星空の眼をしていた。
だからだろうか、ことしの十五夜には彼女は訪れなかったようである。
・いざよい河圖洛書(かとらくしょ)
昔から洛書を偏愛してきた。月が地球をまわりはじめたあとの隂陽を魔方陣で表現しており、縦横斜めの数を足すと、いずれも子孫繁栄を意味する15となる。洛書の真ん中には3と5と7の数が並び、ここからいわゆる七五三が誕生したわけである。我が結婚指輪の裏側にも、同様の数字が刻まれている。
一方、河圖は地球ができる以前の隂陽であるが、その消息は我が國では潰えた。しかし、チロル地方に棲む『月の癒し』の著者ヨハンナの『THE CODE』にその智慧がためらいがちに散りばめられている。妙なことだ。
・茶会十七夜
更待月の茶会に訪れたのは、夜も更けたということもあり、立待月と居待月そして臥待月の三客であった。露地に散りはじめた無数の紅葉が、月の客がとおる度に照らされた。茶室の軸は「山高月上遅」で、圓月老師の筆だという。碧月の菓子器には源吉兆庵の粋甘粛がみっつ並べられてある。
「お薄を」
襖をあけた更待月がこうお時宜をすると、正客の臥待月をはじめ、皆お時宜をした。更待月の点前には衒いがなく、さらさらと茶が点てられていった。茶碗は室町時代の名茶人、有明の月が愛でていたものだという。月光が高台に吸いこまれそうな漆黑の一客である。また、茶杓の銘は「秋風」ということであった。
その後、月々は十四代を酌み交わしながら、しまいには濃茶をご馳走になり、すっかり千鳥足になって夜空へと辞していった。
・筆を選ぶ弘法、紙を選ぶ高堂
筆は急逝した師野尻泰煌(のじりたいこう)が愛用し、ついには自身の名をつけた泰煌筆で今でも書いている。いわゆる「弘法、筆を選ばず」というのは嘘で、むろん弘法も筆を偏愛していた。
和紙は群馬の繭工房において一枚々々、障害のある方々によって漉かれたものを愛用している。書くまえに手をおけば、靈氣と月光がよく紙に沁みこむ。
・晦日の藍染め
しまいは同じ農福連携から。
埼玉福興の藍染めは幾枚かもとめており、特に晦日の夜空が布にそのまま染まったかのような濃い藍の一枚への偏愛が激しい。広大無辺の宇宙は等しく我が身の裡にあり、時折、その藍が外界へと滲みでているのに過ぎないのであろう。
生後、間もない我が子をくるんだのもまた、この色濃き藍染めであった。

・月影
シミがなければ、本ではない。
欠けがなければ、月ではない。
偏りがなければ、愛ではない。
― 偏愛一覧 ―
▽ ペン:S.T.Dupont
▽ 方向:縦書き
▽ 古書:『全宇宙誌』『金鱗の鰓を取り置く術』『THE CODE』
▽ 一眼:PENTAX
▽ 時計:G-SHOCK
▽ 名刺:TENTE
▽ CD:「Beyond the Matrix」EPICA
▽ 宿泊:–be– 北軽井沢キャンプフィールド
▽ 要石:カイヤナイト
▽ 指輪:七五三
▽ 禅語:山高月遅上
▽ 菓子:粋甘粛
▽ 茶杓:秋風
▽ お酒:十四代
▽ 毛筆:泰煌筆
▽ 和紙:とみおか繭工房
▽ 藍染:埼玉福興
