ダーウィンが150年前に見抜いていた「肉食植物」、中国の高山でついに証明される
私はダーウィンのことを「進化論を唱えた偉い学者」くらいにしか捉えていませんでした。でも今回のニュースを読んで、その認識は甘かったと思い知らされました。彼は150年前、当時の実験技術では確かめようのなかった仮説を、ただの観察力と洞察力だけでほぼ言い当てていたのです。

見過ごされてきた「怪しい植物」

1875年、ダーウィンは『食虫植物』という本を出版しました。その中で彼は、ユキノシタ属(サキシフラガ)に含まれる2種、Saxifraga rotundifoliaとS. umbrosaが、虫を捕らえて食べているのではないかと主張しています。理由はシンプルで、この2種の茎や葉には粘着質の毛(腺毛)が生えていて、時折そこに小さな虫がくっついていたからです。
ただし当時の給餌実験では確証を得ることができず、この仮説は長らく「未解決事件」として棚上げにされてきました。
150年越しの答え合わせ

今回、事態が動いたのは中国科学院などの研究チームによる論文がきっかけです。彼らが注目したのは、ダーウィンが調べた種とは別の近縁種、Saxifraga candelabrum。中国南西部、チベット高原とユンナン・グイチョウ高原にまたがるヘンドゥアン山脈に自生するハーブで、ダーウィンが調べた2種と同じく、虫を捕らえるための腺毛を持っています。

研究チームは野外でショウジョウバエを使った実験を行い、この植物が実際に昆虫を誘引・捕獲していることを確認しました。さらに詳しく調べると、捕まえた虫を分解する消化酵素を持ち、そこから窒素分を吸収していることまで突き止めています。
「誘引する」「捕らえる」「消化する」「栄養を吸収する」——この4条件がすべて揃って初めて、植物学的に「肉食」と認定されるのだそうです。地味な条件のようですが、逆に言えばダーウィンの時代にはこの最後の「吸収」を証明する手立てがなかった、ということでもあります。
なぜわざわざ虫を食べる必要があったのか

Saxifraga candelabrumが生えているのは、標高2,500〜3,300メートルの岩場。土壌の栄養分が乏しい、いわゆる貧栄養の環境です。ハエトリソウやウツボカズラなど、これまで知られてきた肉食植物の多くは湿地帯に生えていましたから、高山の岩場という生育環境そのものが今回の発見の珍しさでもあります。
私が面白いと思ったのは、ここです。ハエトリソウやウツボカズラといった従来の肉食植物と、サキシフラガは分類学上かなり遠い関係にあるにもかかわらず、独立に似たような遺伝子変異を獲得していたという点。つまり「虫を食べて生き延びる」という戦略は、系統樹のあちこちで何度も、それぞれ別々に発明されてきた可能性が高いということです。進化がまるで同じ答えに複数回たどり着く、そんな収斂の面白さを感じます。

足元にまだ眠っている「未解決事件」
以前、被子植物がなぜ1億4千万年前から爆発的に多様化したのかというテーマで記事を書きました。あのときも、ダーウィン自身がこの多様化のスピードを「忌まわしい謎」と呼んで悩んでいた、という話に触れています。
今回の発見と重ね合わせると、ダーウィンという人は自分の理論では説明しきれない「気になる現象」を律儀にメモし続けていた人だったんだな、と改めて感じます。証明できるかどうかは二の次で、まず「おかしい」と気づく力。その勘の鋭さこそが、150年後の私たちにまで宿題として届いているわけです。
研究チームは、サキシフラガが肉食植物として確認されたのはこの1種だけだが、他にも隠れた肉食植物がまだあるかもしれないと述べています。庭先や登山道の脇に生えている、なんの変哲もない花。そのどれかが、まだ誰にも見抜かれていない「怪しい植物」である可能性は、決してゼロではなさそうです。

〇This Plant Has Been Hiding a Killer Secret. Darwin Called It 150 Years Ago(2026年8月4日)
〇Newly discovered carnivorous plant is as deceptive as it is deadly(2026年8月4日)
〇Darwin proposed that a type of plant was carnivorous. Scientists finally proved him right(2026年8月4日)
〇'Darwin's hypothesis provided an important inspiration': Scientists bolster 150-year-old Darwinian theory with a carnivorous plant in China(2026年8月4日)
〇Identification of carnivory in the flowering plant Saxifraga via multidisciplinary evidence(2026年8月4日、Nature Communications)
〇被子植物爆発の謎:見えない共進化の可能性(2024年12月29日)
