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仮説: 慶應の上下関係は、薩摩士族の行動様式を部分的に継承しているのではないか?

これは断定ではない。あくまでも私の1つの仮説だ。だが、麻布・三田・鹿児島・慶應という回路を考えると、どうしても頭から離れない問いがある。

慶應の縦社会的文化は、薩摩士族の行動様式を部分的に継承しているのではないか?

という問いだ。

■1. 三田という土地の記憶

慶應義塾大学は東京の三田にある。明治以降、三田・麻布一帯は、華族・官僚・軍人・薩摩と長州の元士族エリートが集住したエリアだ。とりわけ、薩摩出身の元士族は、中央政界・財界に深く入り込み、この地域に多く住んだ。例えば、元老 松方正義 は薩摩出身で、麻布・三田周辺に広大な土地を所有していた。現在のイタリア大使館や韓国大使館の土地は、元々は彼の所有する土地だったと聞いたことがある。土地には記憶が残る。人が変わっても、文化は染み込むものだ。

■2. 薩摩士族の行動様式

薩摩藩の武士文化には幾つかの特徴がある。郷中教育由来の強い年功序列・上意下達・家中意識 (藩単位の結束)・同郷ネットワークの強さ・忠誠と規律の重視などなど。西郷隆盛の私学校も、理念は平等に見えて、内部は非常に強い縦の秩序を持っていたらしい。ここで重要なのは、個人よりも“家中”を優先する文化である。

■3. 慶應の縦社会

慶應は福澤諭吉の「独立自尊」を掲げる学校だ。だが現実のその文化を見てみると、先輩後輩の強い結束・体育会型の縦社会・OBネットワークの強さ・三田会という同窓会組織の財界や政界などへの影響力、といった特徴がある。これは日本社会全体にも見られる傾向ではあるが、慶應は特に「結束」と「上下秩序」が特に強い印象を持たれることが多い

■4. 武士のリスキリング装置としての慶應

明治維新後、武士は文字通り職を失った。薩長の侍たちも例外ではない。薩摩の士族が改めて東京へ出て来て、近代国家の官僚・実業家へと再配置される。西郷隆盛がかつての後輩たちのために福沢諭吉の学校 (慶應義塾)に推薦状を書いた話もある。つまり、その過程で慶應は、武士の“再教育機関”の役割を果たした可能性がある、と私は考えている。

武士の持っていた、江戸時代型の「忠誠心・縦社会・家中ネットワーク」が、近代日本の「商業・金融・殖産興業・官僚制」へと転写される。それが現代日本にも繋がる「サラリーマン文化」へと接続する。

というのが私の仮説だ。

■5. 「東京文化」と「薩摩文化」

私は以前、笑いながらこう考えたことがある。

薩摩士族が慶應で学び、東京でサラリーマンになり、元々は薩摩武士の仕来りを意識せずとも「東京流」として明治期に全国に広めたのではないか?

つまり、上下関係・同期結束・OBネットワーク・序列意識は、近代東京文化の仮面をかぶった薩摩的行動様式の可能性がある。慶應を経由して、薩摩の武士文化がエフェクト処理されて、モダンな東京文化として全国に伝播したのではないか?

■6. もちろん単純化はできない

上記の内容は完全に私の妄想なので、注意が必要だ。しかも、実際には慶應には町人・商人層も多かった。そもそも、福澤諭吉は反封建思想家だった。縦社会は日本全体の傾向でもある。だから、「全てが薩摩起源」と言うつもりはない。だが、明治政府中枢における薩摩ネットワーク、三田という地理的重なり、武士層の再配置という近代日本の歴史を考えると、部分的な文化継承という仮説は、あながち完全な空想ではない気もするのだ。

■7. 私がこの仮説に惹かれる理由

私は鹿児島県出身だ。

麻布十番の「くすりの城南」で「この辺は鹿児島出身者が多いよ」と言われた時、私はふと松方正義を思い出した。

フィラデルフィアのTemple Universityの教室で、松方の子孫の話を聞いたとき、私は三田の土地を思い出した。

私は歴史の年号を覚えるタイプではない。私は、文化の“OS”がどこから来たのかを構造で見る傾向がある。慶應の上下関係が薩摩士族の延長線上にあるのだとしたら、それは単なる大学文化の話ではなく、「武士が近代国家にどう適応したか?」という文明史の話になる。

■8. 結論ではなく問い

この仮説は証明ではない。だが問いとしては面白いと思う。慶應の縦社会は単なる体育会文化なのか? それとも、薩摩士族の行動様式が近代的組織へと転写された結果なのか? 文化は制度より長く残る。三田の空気の中に、まだ薩摩の匂いは残っているのかもしれない。

因みにヘッダー画像は、江戸時代の薩摩藩の藩邸(上)と現在の慶応義塾大学の三田キャンパス(下)を並べた画像だ。綱坂付近の全く同じ場所だ。並べてみると、160年以上の歴史が経過したとしても、やはり「雰囲気というのはその土地に残っている」と私は信じている。となると、「慶應の文化は薩摩武士文化由来なのでは?」と私はどうしても妄想してしまうのだ。


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