壁に耳あり、障子に目あり、現場に響くは人の音 ――仕事の流れは、音で見る
仕事をしていると、現場には色んな音が響き渡る。
材料を練る音。
練り始めは低く重く、練り上がりに近づくにつれて高く速くなる。
材料を運ぶ音。
それぞれの足音の癖に、ずっしりとした重みが乗る。
材料をすくう音。
はじめはサクサク…
減ってくるとザッザッ…サクサク。
材料がなくなると、ガリガリガリッ!
材料を塗りつける音。
こするときはザーッザーッ…
仕上げるときはシャー…シャー…
鏝返しをする音。
ザッ。ザッ。
鏝板から材料がなくなると、ザリー、ガッ。
チリ掃除をする音。
パパンッ!

段取りしながら、塗りながら、運びながら。先輩たちの音に耳を澄ませる。
あ、材料、固めに練ってるな。
さっきと配合変えたかも。
あ、あそこ、材料もっと運んでおかないといけないかな。
あ、あの人、材料なくなりそうだな。
あそこは今、下地仕事だ。
水引き見て、次は上塗り用意しよう。
脚立の上で材料取りにくそうだ。
さしに行こう。
(さす:材料を鏝板に乗せてあげること)
塗り終わったな。
はがした養生を回収しにいこう。

現場での動き方は、その音たちが教えてくれる。
通りすがりにも、目で見てチェックする。
バケツに刺さったシャクの深さはどのくらいか。
すくうときにバケツの動きが、軽くなってないか。
材料は足りそうか、余りそうか。
空いたバケツはないか。
材料の残り具合や、必要な量は、
遠目で見てもだいたいわかる。
現場をリズムよく動いていれば、
その時間でも測れる。
この作業をしてる間に、だいたい一杯使い切る。
あの人は細かい壁を塗っているから、
しばらくは、材料なくならないな。

「材料いりますか?」
「バケツ回収します!」
「次はこの道具、使いますか?」
と確認する。
一階と二階に分かれて作業していても、音が聞こえれば、職人の動きが見える。
物音だけじゃない。
誰かの話し声。
「今日は水引き、早そうだなぁ。」
「そしたら今日の材料、ちょっと固ないけ?」
「ようけ塗り代あるなぁ。」
「こっちはガリガリや。」
そんな会話が聞こえたら、
配合を変えたほうがいいかどうか聞きに行く。
「材料、いくつか調整しておきますか?」
そうすると、
「塗りにくいからやわくして。」
とか、
「仕上がり変わるからこのままでええわ。」
とか。
次の段取りが決まる。
現場のあちこちで、私を呼ぶ"音"が聞こえる。
誰に言われるでもなく、
やるべきことがわかる。
最初から全部聞き分けられなくてもいい。
まずは、「材料がなくなる音」だけでもいい。
「誰かの手が止まりそうな音」だけでもいい。
現場の音に少し耳を向けるだけで、
次に動く場所が見えやすくなる。
職人さんの手を止めるわけにはいかない。
という感じで仕事してます。
もちろん、配合や仕上がりに関わることは勝手に決めずに確認しますが、
誰かの指示を受けて動くよりも、
自分の感覚で拾った情報のほうがスムーズに進むことがあります。
だって、人の指示って割と雑だから笑
ここで大切なのは、「何をすればいいか」もそうだけど、
「何を聞けばいいか」も自分で見つけられるようになることです。
想像してみてください。
誰かに指示をするとき、
やってほしいことを正確に言語化できますか?
その瞬間にふさわしい指示が思いつかなかったとき、
「あー、じゃあ、とりあえずこれやっといて」
って、別に今やらなくてもいいようなこと、
投げてしまいませんか?
仕事の先輩だって人間。
何でもかんでも把握してるわけじゃありません。
それなら、
「その時の気配」
を読むのが、一番ラクなんです。
「お、言われる前に動くなんて、気が利くなぁ!」
「ちゃんと、やる前に確認してくれるから、安心して任せられるな!」
たぶん、そういう小さな積み重ねが、
現場での信頼になるんだと思います。
そうしたら、少々失敗しても笑って許して…
くれるかも?笑

以前、「聞く前に考えろ、やる前に聞け」は矛盾しない、という話を書きました。
今回の話は、その実践編みたいなものかもしれません。
何をすればいいか。
何を聞けばいいか。
どこまで自分で動いて、どこから確認するのか。
その答えのひとつとして、
私は現場の音を聞いています。

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