七福神シリーズ|祈紙(いのりがみ)編 【毘沙門天とコピー用紙の戦場】
繰り返される日常と、理不尽な要求。その先に、自分だけの「誇り」を見つける。
チリーン、
チリーン、チリーン。
祈紙(いのりがみ)が、毘沙門天の手元に。
「ほう……。誰にも見えぬ場所で、一人、理不尽という名の敵と戦っておる者がいるようだな」
毘沙門天は甲冑を鳴らし、鋭い眼光でその紙を掴み取った。
祈紙(いのりがみ)は、願いの重さをそのまま色に映す。
手元に届いた色は、静かに燃える炎のような「蘇芳色(すおういろ)」。
耐え忍ぶ心の奥にある、誇りと葛藤が入り混じった、深い赤色だ。
(四十代 事務 すみさんの祈紙)
パソコンの前の「戦場」
毎日、同じ作業の繰り返し。
パソコンの画面と向き合い、電話を取り、事務的に営業へと回す。
「営業の人って、すごいな……」
電話越しに頭を下げ、汗をかいて駆け回る彼らを見て、自分にはできないと溜息をつく。
それに見合った報酬をもらっているんだろうけど、それにしても――。
「すみさーん、コピー用紙足りないよー!」
また、あの苦手な若手営業の女性だ。
人使いが荒い。注意しても「お願い!」の一言で片付けられてしまう。
「明日到着予定です。今ある分で足りなければ、買ってきますが」
「じゃあお願い!今日、お客様に持っていきたいから。あ、100均の用紙はやめてよね!」
……カチンときた。
私の方が先輩で、年だって上なのに。
「100枚以上使うなら事前に言って」って、何度も言ってるじゃない!
「なんで私だけ?」
「……はい、承知しました!」
無理に笑顔を作って返事をして、私は外へ飛び出す。
アスファルトの照り返しが、私の苛立ちを煽るようだ。
「あーあ、神様!なんで私だけが、こんな扱いを受けなきゃいけないの?」
営業の彼女のような華やかさも、目立つ成果もない。
ただ、みんなが滞りなく仕事ができるように立ち回っているだけ。
なのに、返ってくるのは感謝じゃなく、当然のような要求ばかり。
チリーン、
チリーン、チリーン。
高い空の上、毘沙門天は槍を掲げ、すみさんの後ろ姿を睨むように見守っている。
「愚か者め。そなたがいなければ、あの戦士(営業)は剣(資料)すら持てぬのだ。誰にも褒められずとも、そなたは立派に『秩序』を守る将軍ではないか」
誰にも言わない、小さな勝利
買ってきた用紙を無造作に渡し、また席に戻る。
「ありがとー!」と軽く手を振って出ていく背中を見送る。
ふと、自分のデスクを拭く。
キーボードを整え、明日のスケジュールを整理する。
私が今日、この用紙を買いに走ったから、あの子は契約を取れるかもしれない。
この会社は、明日も変わらず動き続ける。
「……ま、いっか。私がいないと、困るもんね」
誰も気づかない。でも、私は知っている。
今日という一日を、私が一番下で支え切ったことを。
帰りにご褒美のスイーツでも買って帰るか~それとも、
立ち飲みして帰るか、どうしようっかな~♪
高い空の上、毘沙門天は満足げに頷き、雲の中に消えていった。
「それで良い。そなたの戦いは、天がしっかり見ておるわぃ」
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