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雛祭りと胃腸炎(500字)

 三月三日、上巳の節句。胃腸炎で悶えくるしんでいる。子どもからはじまり、家人に移り、氣丈夫を装っていた私も結局は感染した。唯一の救いは、全員が同時に倒れなかったことか。順繰りに倒れ、順繰りに看る。これを「家族」と云うのかもしれない。布團に横たわり、天井を見上げることしかできぬ時間。腹がうねるたびに、弥生の陽光が白く揺れている。

 ところで、雛祭りはもともと祓いの行事であった。紙の人形に穢れを移し、川へ流したという。「水に流す」というのは、古代の智慧であったのだ。だとすれば、この胃腸炎もまた一種の祓いではなかろうか。臓腑が自ら穢れを押しだしているのだとおもえば、いささか崇高にすら映ってくる。否、腹痛がひどく、そんな風にはとても見えない。

 『古代研究』にて、折口信夫は人形の裡に「身代わり」の呪力を視た。穢れを引き受け、流す。雛人形の原型とは、そのような犠牲の器であり、男女も別れていなかった。ワンネスが人氣らしいけれど、一度別れてから、もとの一に還るのでなければ、意味がない。

 兎にも角にも、家族の看病を經て最後に倒れた私こそ、今年いちばんの雛であろう。どなたか、このまま川に流してはくれまいか。


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