今月読んだ児童文学を語る【2026年7月】
続きです。
まはら三桃『日向丘中学校カウンセラー室 十人十色、1匹?色の文化祭』
めばち/装画、2022年、アリス館

6月に紹介した『日向丘中学校カウンセラー室』の続き。これシリーズ続いてたんですね…
文化祭の学校中を駆け回る、綾さんの慌ただしい1日。
正直かなり取り留めがなく、なんとも言えない内容でした。猫好きにオススメ……ともいえるのか微妙。
前巻に登場した生徒たちのその後を見れるのはよかったです。
さらゆら姉妹がすきです。
トリックスターの双子、という古典的な造形!
神戸遥真『透明なぼくらのレモンとキス』
2026年、偕成社

ぼくにとって、あれは大したことだったと、思ってもいいんだろうか。
嫌だったし、気持ち悪かった。
何より怖かった。
そういうのを、なかったことにしなくてもいいんだろうか。
4月に『25センチの恋とヒミツ』を紹介した神戸遥真さんが今年6月に発表したばかりの新作は、男子の性被害を主題としたボーイミーツボーイ。
透明化・矮小化されやすい男性の性被害に関して、男子同士でケアし合う、非常に教育的かつ真摯で爽やかな青春児童文学です。
互いが互いにとって救いの「光」であるようなBL(ブロマンス)が好きなら、ゼッタイに読んだほうがいいです。尊すぎて泣きました。
「君の悩みはしょうもなくなんかない」と、いちばんほしい言葉をかけ合って救い合う関係が…… 本当によい。
特別ロマンチストなつもりはなかった。ファーストキスに過度な夢を見ていたわけでもない。
ただでも、ちょっとくらいは大事にしたかった。
今はもう、ファーストキスなんて言葉がなければよかったのにと思う。
神戸さんは、中高生のジェンダー規範への違和感と逸脱・解放について書き続けている作家なのだなぁ……と、これを読んで確信し、完全に信頼できるようになりました。これから作家追い、いたします。
湯本香樹実『夏の庭 The Friends』
1992年、徳間書店

夏だ~~~~!ということで、現代日本の児童文学のなかでもトップクラスに知名度のある『夏の庭』を読んでみた感想を一言でいえば、これにつきます。
さすがに「名作」が過ぎる……
有名かつ未読なものって薄っすら苦手というか舐めていた節はあるんですが、完全にわからせられてしまいました。現代の古典すぎ。
ひと夏のあいだに小学生たちが身近なところから生と死のリアリティを学ぶ、というプロットもさることながら、なにより文章にひたすら感服させられました。読みやすく深みのある文章って最強!
全文引用したいくらいです。特に良くてメモったところを並べてさせてください。
山下におばあさんがいるなんて、全然知らなかった。そりゃあ、だれにでもいるもんだけど、あいつはおばあさんの話なんかしたことなかったし、いなかがあるなんて聞いたこともなかった。
「いなかがある」!
ぼくは、お化けの載ったはかりの目盛りは絶対に見たくないな、と思った。お化けに重さがあるなんて、なんだか救いがたい感じがする。
「救いがたい感じ」!
さあこれでよし、と山下が縁側をふりかえる。ひんやりした台所から見る庭は、夏の陽にあふれて、四角く切りとられた光の箱のようだった。
よい直喩
「あ」山下が、空を見上げた。「雨だ」
乾いた白っぽい土の上に、黒いしみがいくつもできていく。やがてそれは庭全体に広がり、大粒の雨の降る音がぼくらの耳をおおった。湿った土と蚊とり線香の匂いが、強く立ち上がる。
視覚→聴覚→嗅覚 と遷移していく雨の知覚描写の見事さ
八月第二週目。台風が来た。風が、ちっぽけな街の上を叫びながら走り抜けていく。その大声が息をつぐたびに、雨が窓に叩きつけられる。
見事な擬人法
それは、言いようのないほどさびしい風景だった。夕日に染まった畑のまん中に、ぽつんと置き去りにされたような小さな箱のような建物。その箱の中にぎっしりとつまっている何かを、ぼくはもっとしっかりつかみたいと思った。でも、それはどんどん遠ざかってしまう。時間を止めることができないように。
ほんまにエモーショナル
縁側からのぞくと、玄関のところに種屋のおばあさんが立っている。おやまあ、ぼっちゃん方もいらっしゃいましたか、と庭へまわって縁側にやって来た。今日は着物を着て、白い日傘を差している。傘の形に光がかたまり、そこだけ空が切りとられてしまったように見える。別の世界の入り口みたいに。
ここグラスリップ

今、梨は丸くなめらかに、ゆっくりとまわりながら、ぼくの手をしずくでぬらしている。すっかり皮がむけると、ぼくはそれをおかあさんに渡した。
「おいしい」
しずくはおかあさんの手首をつたい、ひじの先に重たげにつかまっている。次のしずくがあとを追い、そのまた次の……夜の台所に立ったまま、夢中で梨をかじるおかあさんを見ていると、なんだか泣きたくなってくる。
こういう文に出会いたくてわたしは児童文学を読んでるんだよな……と、最中ずーっと思っていました。至福の時間でした。
家庭でも学校でもないサードプレイスものであり、子どもが見知らぬ大人の他者と交流して仲を深める話にも系譜があるでしょう。
これまでは一切そう思ってなかったんですが、世間一般で名作とされているものって、ひょっとして、めちゃくちゃ名作な可能性があるのでは?と気付きました。
湯本香樹実さん凄すぎるので『春のカーテン』とかも必ず読みます!
アニー・ドルトン『金曜日がおわらない』
岡本浜江 訳、2001年 原著(2004年邦訳)、文研ブックランド

すべてのことは、「げっぷ」からはじまった。ほら、コーラをのんだときに出るあのげっぷさ。ほれも全宇宙にひびきわたる、ものすごく大きいげっぷ……。
小学3, 4年生向けの、短めの小説。
両親からのストレスに悩む12歳のいじめっ子少年レニーがある日とつぜん延々と同じ金曜日を繰り返してしまうようになるも、その繰り返しのなかで徐々に「いい子」になって脱出する……という、教育的なループもの児童文学。
毎日くりかえし同じ日をすごしていると、まわりのできごとが、いろいろわかるようになってくる。最初はすっかり見すごしていたいろんなことが、わかってくるのだ。口に入れる食べ物とか、だれかの顔にあるさびしさとか。
やっぱりタイムリープSFって、ループ者の独我論的な世界認識や自己責任論と相性がよいため、児童文学と結び付くと、こうして容易に「いじめっ子がループのなかで更生する話」が出来上がってしまうのだなと感じました。
大人や他人に叱られて更生するのではなく、繰り返す1日のなかで子ども自身がひとりでに更生してくれるんだから実に(大人に)都合がいい。
もちろん、子どもの主体性と可能性を肯定する建て付けにはなっているんだけれど。
シータというクラスの優等生少女がトロフィー的に置かれていたのも気になっちゃいました。
ただ、海外文学らしい一人称の語り口はとてもよかったです!
2001年って『ドニー・ダーコ』と同年か……
黒川裕子『チャリを盗んで、夜明け』
2025年、講談社

「だからいっしょに行こ。行ってみよ。な」
「……だからの意味がわからへん」
なんでか泣きそうになって。
あんたが差し出すホッカイロ、手に取るの怖いねん。あんたの「だから」ちょっと熱すぎんねん。だから、ほどほどにしといてほしいねん。
そういうの、いちばん……。
おれから、コトバを奪うわけ。
大阪南部の海沿いの街で暮らす、貧困家庭の非行中学生を主人公とした児童文学。
親に見捨てられ行き場のない貧困非行少年のリアルな生活が、大阪弁の一人称で語られます。
すっっっごいハードボイルドというか、ハード。描かれている子どもたちの状況も、そして文体も。
とくに前半は、読んでいて、児童文学ではあるが大人向けの一般文芸でもいけそうだと思いました。
「ポジティブってなんやねん。あんたにエネルギーあげるために、あの悪口女は苦労してんのか。ひとよりケナゲにがんばってポジティブってゆってもらえる人は、がんばるのやめたときなんてゆわれるん? ぬくぬく生きてるモンに勇気をありがとうって言われるなんてイヤや。売りモンやないねんから。おれ、そういうポジティブやったら、しばいたろか思うわ」
終盤はボロ泣きしました。
が、これを実際の子ども…特に拓海たちと近い境遇にある子たちが読んで、どう受け止めるのだろうか。とても社会教育的にタメになる大切な話ではあったが、いちばん届いてほしいひとに届くのだろうか……という点まで考え込んでしまいました。
児童文学としては異色ですが、ハードボイルドな文体で、ハードで切実な題材をよく書き切っていたとは思います。
小学生というより、中高生~大人向けでしょうか。
神戸遥真『見た目で好きになるってダメですか?』
2026年、講談社

こちらも神戸遥真さんが今年3月に出したばかりの新作。
タイトルから、ルッキズムをテーマにしてるのかと思って手に取りましたが、実際はそうじゃなかったです。
塾で組まされたグループ5名の高校2年生それぞれが主人公の連作短編で、特定のフェチズムとか、自身のコンプレックスとか、マイノリティ属性を抱えながらも、高校生の甘酸っぱい恋愛を基本ハッピーに描く恋愛小説でした。神戸遥真さんってマジで恋愛児童文学の名手だと思います!
本人は「普通」ではないコンプレックスに悩んでいるところ申し訳ないけど、しょーじきめちゃくちゃエロかったです。フェチい。児童文学でこんなのいいんすか??と悶えながら読んでました。
めちゃくちゃ甘酸っぱくてエモくてエロいです。ロマンスを描くのがうまいな〜!!
で、神戸遥真の描く恋愛小説サイコ~!と浮かれながら読んでいたら釘を刺されるような展開もあり。全体的に恋愛至上主義っぽいことにちゃんと自覚と自戒の念があるのだと読みました。にしてもあれは喰らった・・・
川端康成の短編『片腕』みたいな2話と、最高百合の3話が特に好きです。
ではまた1か月後!
図書館には昼間から子供たちが来ていて、夏休みが始まったんだなぁとわかります。
