布団から【#シロクマ文芸部】
布団から手を伸ばしてスマホを拾い上げた。着信は優衣からだった。
「もしもし…」
『もしもし。和彰くん。もしかして寝てた?』
「そうみたいですね…。動画を見てて寝落ちしたみたいです…」
『遅くに、ごめんね』
「いえ、どうしました?」
『和彰くん。改めて本当にありがとう』
「いえいえ。弁護士の先生のおかげです」
『弁護士の先生を紹介してくれたのはお母さまだったわね』
「たまたま母さんが法律事務所に勤めていただけですから」
『お母さまにも、きちんとお礼を伝えたいの』
「そうですか。それじゃあ、次の休みの日でも一緒に実家に行きますか」
『そうしてもらえると嬉しいわ』
あれ以来、借金取りのタクヤは優衣の前に現れることはなかった。タクヤが振り込め詐欺の件で自首したことよりも、マスターがタクヤを借金の回収に関わらせないように、大槻組の組長に話を付けたことの方が影響は大きかったのだろう。
優衣はすっかり元気になっていた。そして、深夜に気兼ねなく電話する仲になっていた。和彰は将来のことを考えていた。優衣と結婚を前提に付き合っていることを母に伝えるいい機会だと思っていた。
「母さん、ただいま」
「いらっしゃい」
「優衣さんを連れてきたよ」
「初めまして。安堂優衣と申します」
「優衣さん初めまして。さあ遠慮せずにあがって」
テーブルに座ると手土産に持ってきた喫茶店『ロイヒテン』のオリジナルブレンドコーヒーとクッキーをその場で出してくれた。
「この度は色々と助けて頂きまして、本当にありがとうございました」
「わたしなんて弁護士の先生を紹介しただけよ」
「でも、お母さまが法律事務所に勤めていたからこそですから」
「一件落着して良かったわね」
それから、しばらく母と優衣の雑談が続いた。
「そうそう。伊東さんが亡くなったの」
「伊東さん?」
「和彰の実の母親なの」
「以前、和彰さんが秋田の病院にお見舞いに行かれた方ですか」
「秋田まで行ったけど、結局、病院には行かなかったのよね」
「もし、和彰さんと大事な話があるようでしたら、私そろそろ失礼しましょうか?」
母は和彰の方を向いて話しかけた。
「和彰。優衣さんのこと、どう思っているの」
「どうって?」
「ちゃんと将来のこと考えているの?」
「ああ。結婚を前提にお付き合いしているよ」
優衣は頬を赤らめていた。
「そう…。だったら優衣さんにも聴いておいて欲しいわ」
母は、和彰と実の母のことについて話し始めた。
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