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Emology10: 【生成AI】時間を拡張するSEIROサイクル

資料作りをしていると、杏奈の手が止まった。

杏奈はおもむろに生成AIを開き、
資料作成の目的と、現時点の進捗、自分が引っ掛かっている点を生成AIに投げて、
メールチェックを始める。

“SEIROサイクル”
生成AI講座で、稲葉に教えてもらった稲葉オリジナルのフレームワークだ。

Stop:停止    
   手が止まる、思考が止まった時
Externalize:外在化
   生成AIに現状を投げて、メタ視点で見る
Interepret:解釈・感情の特定
   引っ掛かっていた違和感を特定する
Refine:再解釈・軸の再設定
   納得のできる選択を再設定する
Organize:整理・次のアクション
   生成AIと共に壁打ちをし、仕上げる

「自分の思考を一段ずつ蒸し上げるイメージで、“SEIROサイクル”と名づけました」
少し照れたように話していた稲葉。

杏奈はこの“SEIROサイクル”を、
仕事やプライベートを問わず、
率先して活用していた。

メールチェックが終わると、
生成AIの回答に目を通す。

「あ〜、論点が少しずれてたからなんか気持ち悪かったのか」

無意識に声を出すと、近くに座っていた吉田がクスリと笑う。

「村田さん、声に出てますよ」
「わ、うるさいよね、ごめんね」
杏奈が肩をすくめて周囲に謝ると、吉田の隣に座っていた菜子が入ってくる。

「私、村田さんの独り言好きなんですよ。なんか面白くて」
「すごいわかる!いい意味でギャップがあるよね」
稲葉も話に入ってくる。

「そうなんですよ!意外と言葉使いも荒くて。
でも村田さんから出るからか、なんか可愛いんですよね」
菜子が笑顔で応える。
「でもこの前、総務の人が固まってたよね」
「僕もみました。一瞬空耳かと思ったんじゃないですか?」
吉田も楽しそうに話を続ける。

「ちょっとそこ。聞こえてますからね」
杏奈が言うと、周囲は「村田リーダー、すいません!」と謝ってくる。

杏奈の周辺は和やかな雰囲気に包まれた。


生成りのままでいこうと決めたからすぐに、生成AI講座があった。

稲葉の講座は想像以上にわかりやすかった。
受講者が引っかかるポイントを先回りして、みんなが理解できる言葉で一つ一つ疑問を解消していく。


稲葉との1on1

「稲葉さんって、以前教える仕事をしていたんですか?」
杏奈が言うと、前職で管理職をしていたことを教えてくれた。

「社内政治に疲れてしまって、平社員として働ける転職先を探してここの会社に来たんです」

役職が先にあって、
人があとから付いているように
ずっと思っていた。

でも、本当は逆だったのかもしれない。

役職と能力を混同して捉えてしまっていた自分が急に恥ずかしくなった。

「私、管理職に向いていないように感じます」
独り言のようにポツリを出た本音を稲葉は見逃さなかった。

「みんな最初はそう思うんですよ。
でも、きっと村田さんなら大丈夫だと思います。
だって、こんなに扱いにくい私とフラットに会話できてるんですから」

稲葉が満面の笑顔で応える。
彼女なりのエールであることがわかった。

あ、私は本当に何も見えていなかったんだな。
そのことに気がつくと、一気に視界が晴れたように感じた。

「管理職どころか、
社会人としてもまだまだ未熟なので、
是非ご指導お願いします」

ーーー管理職らしくない
以前の杏奈だったら、
白い目を向けたかもしれない。

でもその言葉に何も偽りはなかった。

「四十過ぎたって、悩むことは案外若い頃と変わらないものですよ。
私も頑張りますので、一緒に成長していきましょう」

稲葉の言葉は、杏奈が生成りで歩んでいくことを決めるのに
十分な後押しとなった。


それから、日々のリズムが、少しずつ変わっていった。

まず、手が止まった瞬間に、
生成AIに投げるようになった。

考え込む前に、外に出す。
それだけのことなのに、
不思議と「詰まる」という感覚が減っていった。

会議の前、
「何を話すか」を考える時間がなくなった。
代わりに、
「どこまで考えてきたか」を持ち寄るようになった。

話し合いは短くなったのに、
決まることは増えていた。
終わったあと、
妙な疲れが残らない。

仕事を抱え込んでいる感覚も、
いつの間にか薄れていた。

誰かが詰まる前に、
別の誰かが自然に拾っている。

「それ、私やりますよ」
そんな言葉が、
指示より先に飛び交うようになった。

進んでいるはずなのに、
誰も急いでいない。

1on1では、
仕事の話と同じくらい、
他愛ない話をするようになった。

「最近どう?」
その一言で、
状況が見えるようになった。

帰り際、時計を見る。

(……まだ、この時間?)

以前より業務量は増えているはずなのに、
なぜか、追われていない。

——時間が、伸びている。

その感覚を、
杏奈ははっきりと実感していた。


🫧次回予告:拡張時間プロトコルの正体

SEIROサイクルが生み出していたのは、
速さではなく、
「止まらない思考の流れ」だった。

次回、その構造を解説します。

🗓️ 2026年2月10日(火) 19:00 更新予定


🔗 物語の導線

🪞 前回の物語
https://note.com/kinari_tokieda/n/nb35af6f4fb43

📖 続きの物語
https://note.com/kinari_tokieda/n/nde8b01238245

🧠 対応する心理ロジックパート
https://note.com/kinari_tokieda/n/n91119df46d67

🌍 English version  
https://note.com/kinari_tokieda/n/n8b7f5548503e


第一話から読む(杏奈編)
https://note.com/kinari_tokieda/n/nbe56107681d0

第一話から読む(菜子編)
https://note.com/kinari_tokieda/n/n308295f38ca1


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