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「手伝わせて」――記憶は消えても、心に残ったもの


以前、認知症病棟に勤務していた頃に出会った、ある高齢女性の患者さんのお話です。その方は短期記憶障害があり、会話をしてから数分もすると、その内容を忘れてしまうという状態でした。それでも、いつもにこにこと笑顔を絶やさない、とてもチャーミングな方でした。

その方の口癖は「手伝わせて」でした。元々商売をされていた方だったからでしょうか、スタッフが働いている姿を見ると、じっとしていられず、手伝いたくなってしまうようなのです。

私の勤務先では、基本的に患者さんに業務をお願いすることはありません。しかし、その方の「したい」という気持ちは、日を追うごとに強くなっていきました。「今日はお手伝いは大丈夫なんですよ」とお伝えしても、だんだん、ぷりぷりと機嫌を損ねてしまうようになったのです。

そこで、担当の看護師と話し合い、当時助手業務として行っていたタオルたたみを、スタッフと一緒にやっていただくことにしました。こちらからお願いする形にし、「今、人手が足りなくて困っているんです。手伝ってもらえますか?」と尋ねるようにしたのです。

すると、その方は「何でも手伝うよ!」と、生き生きとした表情を見せてくださるようになりました。スタッフと一緒に作業を始めるのですが、3分ほどすると、ふらっとその場から離れてしまいます。そして病棟を一周して戻ってくると、「何してるの?手伝わせて」と、また声をかけてくださいます。私たちも「手伝ってください」とお願いし直し、作業を再開する……この繰り返しが、一日に何度もありました。

たたんだタオルの形が崩れていても、裏返しになっていても、やり直しをお願いしたり、注意したりすることは一切しませんでした。「畳んでくれた」という行動そのものに、価値を置くようにしたのです。

この作業は、スタッフが日替わりで担当し、毎日続けていくうちに、その方にとって生きがいのようなものになっていきました。作業が終わると、私たちは笑顔でこう伝えました。「手伝ってくれて本当に助かりました、ありがとうございます」と。

重度の認知症であっても、「誰かの役に立ちたい」「体を動かしたい」という意欲や感情は、しっかりと残っているといわれています。そして、「感謝された」「歓迎された」というポジティブな感情は、長く心の中に留まり続けるのだそうです。

認知症になると、できなくなることは増えていきます。

それでも、「誰かの役に立ちたい」という気持ちは、失われるわけではありません。

あの日、何度も「手伝わせて」と声をかけてくださった患者さんが、そのことを私に教えてくださいました。

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