『秘密の王子様』『元気に死ぬテレビ』『赤字のタネ 黒字のタネ』── 僕がゼロイチで通した3つの企画 ── 約30年で通した100本の企画 放送作家・松田敬三の通信簿(第2回)
毎週火曜日は「放送作家の企画論」の日です。
放送作家を、長年やってきた中で、企画について考えてきたことを書いています。
「約30年で通した100本の企画 ── 放送作家・松田敬三の通信簿」、第2回です。
先週の第1回では、TBS『ダブルブレイン』、テレビ東京『マジか!その後の人生』、フジテレビ『ドリームピリオド』の3つを振り返りました。
そして、僕の企画スタイルの根っこにある法則は、「自分が、まず、おもしろがっている」だ、と書きました。
今日も、その続きで、別の3つを書きます。
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結論から書きます。
『企画の発想ルートは、ひとつではない。世の中のブーム、現場からの尖ったお題、自分の経験のすぐ横 ── 全部が、企画の入口になりうる』
そして、もう一つ。
『発想の入口は違っても、最終的に通る企画には、共通する何かがある。それは、「タイミング」』
④ フジテレビ『秘密の王子様』
ひとつめは、フジテレビさんで放送された『秘密の王子様』です。
これは、ある時期のブームに、ど真ん中で乗った企画でした。
2007年頃から、テレビと雑誌の世界で、「◯◯王子」というネーミングのブームが、一気に来ていました。
ある分野に詳しい、若くて見た目のいい男性のことを、「◯◯王子」と呼ぶ。
リフォーム王子、ヘアアレンジ王子、節約王子、健康王子 ── 数えきれないほどの「王子」が、メディアに登場していた時期です。
僕は、当時、その流れを、面白がっていました。
「いろんな分野に、専門知識を持った、見た目のいい人が、王子として、世の中に出てくる。これは、テレビの定期企画になる」と思ったのです。
そこで、『秘密の王子様』を発案しました。
コンビニ王子、発酵王子など、各ジャンルに詳しいイケメン王子が、女性出演者にその知識を教える、という構成です。
コンビニで何を選ぶか、発酵食品の何が体にいいか ── そういう実用情報を、王子から女性出演者へ、レクチャーとして届ける。
ブームに乗りつつ、視聴者に役立つ実用情報も伝えられる、一石二鳥の企画でした。
企画会議では、ある事件が起きました。
「王子の候補を、誰にするか」という会議で、現場からいろいろな提案が出てきました。
「コンビニ王子は、この人」
「発酵王子は、この人」
これは、すんなり決まりました。
ところが、ある人選で、会議室が、紛糾しました。
「ちょっと待って、この人、明らかに王子じゃないですよね?」
「いやいや、その分野の専門家だから、王子と呼んでいい」
「いや、見た目が王子じゃないとダメじゃないですか」
この、おっさんを王子と呼ぶには無理がある。。と泣く泣く諦めたこともあります。
「王子」というキーワードに「専門性」を求めるか、「見た目」を求めるか ── ここで、現場の意見が、激しく分かれたのです。
明らかに王子じゃないおじさんも混じって、会議が紛糾した記憶が、僕には、今でも残っています。
通信簿、をつけるなら、これは ── 「ブームに乗るタイミングはよかった、けど、王子の定義で揉めた」、です。
ブームに乗る企画は、タイミングがすべてです。
そして、ブームのキーワードを、自社の番組でどう定義するか ── そこで、現場の認識が揃わないと、企画は迷走します。
『秘密の王子様』は、世の中のブームに乗った点は成功だったけれど、「王子」の定義について、もう少し最初から明確にしておけば、もっと長く続いたかもしれない、と振り返ります。
⑤ スカパー『元気に死ぬテレビ』
ふたつめは、衛星放送のスカパーで放送された『元気に死ぬテレビ』です。
これは、現場から「尖った企画を作ってほしい」というお題に対して、僕が出した答えです。
地上波では難しい、攻めた企画。
スカパーだからこそできる、強いコンテンツ。
そういうお題でした。
僕が、ここで提案したのは、こうでした。
「ご老人向けの情報バラエティを、本気で作りませんか?」
これは、当時、ほとんどなかった企画です。
情報バラエティ番組というのは、若年層・F1層・主婦層をターゲットにするのが、業界の常識でした。
ご老人向けの情報バラエティは、NHKや健康系の番組以外、ほとんど存在していませんでした。
でも、僕は、これは尖った企画になる、と思いました。
ご老人にも、知りたいことは、たくさんある。
そして、ご老人が知りたいことの中には、地上波では絶対に放送できないような、踏み込んだテーマも、たくさんあるはずだ。
スカパーだからこそ、それが、できる。
タイトルは、『元気に死ぬテレビ』。
「死ぬ」というネガティブな言葉を、「元気に」というポジティブな修飾語で、ひっくり返した、攻めたネーミングです。
実際に番組が始まると、こんな話題が、頻発しました。
シニアの性の悩み。
老人層の完全なる女性蔑視
高齢者ならではの、生きがいの作り方。
これらは、地上波では、絶対にNGになるテーマです。
でも、スカパーだからこそ、視聴者の本当の悩みに、踏み込めました。
そして、この番組を作る中で、僕自身の中で、「老いる」という概念が、変わりました。
「老いる」=「衰える」「下り坂」── そう思い込んでいた、自分の考え方が、この番組の取材を通して、ひっくり返りました。
「老いる」=「経験が蓄積される」「自分の人生に納得する時間が増える」「死を、自分の人生の一部として受け入れる強さ」 ── これらの前向きな概念に、出会いました。
『元気に死ぬテレビ』というタイトルが、本当に、現実になっていきました。
通信簿、をつけるなら、これは ── 「尖ったお題に、尖った答えで応えた、見事な相性」、です。
地上波の常識を捨てて、スカパーという媒体の特性を、最大限に活かす。
そして、自分自身がその企画を通して、「老いる」という概念を、根本から学び直す。
こういう企画には、作り手としての成長が、宿ります。
これも少子高齢化という広い意味でのタイミングかと。
にしても、老人の性の悩みはヤバいです。いつか書きたい
⑥ 日テレ『赤字のタネ 黒字のタネ』
みっつめは、日本テレビさんで放送された『赤字のタネ 黒字のタネ』です。
この企画は、僕自身の経験のすぐ横から、生まれました。
当時、僕は、東京ガールズコレクションをはじめとする、いくつかのイベントの台本を書く仕事を、並行していました。
東京ガールズコレクション(TGC)は、2005年8月から年2回開催されている、史上最大級のファッションフェスタです。
僕が台本に関わっていた時期、TGCは、まさにイベント業界の革命を起こしている最中でした。
そして、イベントの現場で、ある日、こんな話を、聞きました。
「あのイベント、最終的に、赤字だったらしい」
「あれだけ大きく成功したように見えたのに、収支はギリギリだった」
「あのビジネス、表向きは大成功だけど、内部では赤字を埋めるのに必死らしい」
僕は、この話を聞いて、強烈に面白い、と思いました。
世の中で「成功」と言われているビジネスやイベントの、本当の収支は、外からは見えない。
華やかに見えるものほど、実は赤字、ということが、ある。
一方で、地味に見えるビジネスが、実は驚くほど黒字だったりもする。
この「表向きの印象」と「内部の収支」のギャップを、二択クイズに、できないか?
そこで提案したのが、『赤字のタネ 黒字のタネ』でした。
ある実在のビジネスやイベントを取り上げて、「結果は赤字か、黒字か?」を、出演者が二択で当てる、という企画。
正解は、最後にプロが解説する。
「あのイベントが、まさか赤字?」
「この、地味な商品が、こんなに黒字だったとは!」
視聴者の予想を、ひっくり返す、ビジネスの裏側を見せる企画です。
これは、僕の現場経験から、ほとんど自然に湧いて出てきた、企画でした。
ところが、面白いことが、起きました。
放送される頃には、最終的に、全然違う内容で、放送されていたのです。
番組の制作過程で、いろいろな調整があり、企画の核となる「赤字か、黒字か」の二択は、別のテイストの番組へと、進化していました。
それも、また、楽しい、と僕は今、振り返って思います。
企画は、世に出るまでに、いろんな人の手を経て、形を変えていく。
最初に自分が考えた形のまま、放送されるとは限らない。
それでも、自分が出した最初のアイデアが、どこかで、誰かの中で、別の形になって、世の中に届く。
それも、放送作家の仕事の、楽しさのひとつだと、思っています。
通信簿、をつけるなら、これは ── 「最初の形では世に出なかった、けど、変化していく過程も楽しめた」、です。
これも東京ガールズコレクションが一番、勢いあったころの雑談からスタートしましたので、タイミングかと
3つの企画から見える、発想ルートの幅
ここまで、3つを並べて、自分で気づいたことがあります。
④『秘密の王子様』:世の中のブームに、自分が乗ったところから発想
⑤『元気に死ぬテレビ』:現場からの尖ったお題に、尖った答えで応えるところから発想
⑥『赤字のタネ 黒字のタネ』:自分の並行している仕事(イベント台本)の経験から、ふっと生まれた発想
3つとも、発想の入口が、ぜんぜん違います。
外の世界(ブーム)から、内の世界(現場の声)から、自分の経験のすぐ横から ── 企画の入口は、本当に、いろんな場所にあります。
これらは抜群のタイミングで通りましたが、
第1回でも書いた法則が、ここでも、しっかり共通しています。
それは、「自分が、まず、おもしろがっている」、ということ。
④ 自分が「◯◯王子」ブームを面白がっていた。
⑤ 自分が「老いる、を尖って書く」を面白がっていた。
⑥ 自分が「表の印象と内部の収支のギャップ」を面白がっていた。
発想の入口がどこであっても、最後は、自分のワクワクが、その企画を支える。
このスタイルは、第1回からも、たぶん、ずっと、変わりません。
次回以降の予告
次回、第3回でも、また別の3つの企画を、振り返ります。
通った企画もあれば、思うようにいかなかった企画もあります。
100本を、3つずつ、ゆっくり、書いていきます。
「約30年で通した100本の企画 ── 放送作家・松田敬三の通信簿」、次回もお楽しみに。
企業の方へ
「自社の新企画を、世の中のブームに乗りながら、独自の切り口で立ち上げたい」
「業界の常識を超えた、尖った企画を、自社のメディアで展開したい」
「自社のスタッフの並行している仕事や経験から、新しい企画の種を見つけたい」
そういったご相談、XのDM(@newtownave51st)までお気軽にどうぞ。
A-FLAG(放送作家70名のアライアンス)とUPiNEの代表として、企画・コンテンツ・PR・番組企画開発のご相談を受けています。
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【週の更新スケジュール】
日曜:放送作家のビジネスと人生の奮闘記(UTZ連載中)
月曜・金曜:教科書に載せたいプレスリリース
火曜:放送作家の企画論(本シリーズ:30年で通した100本の企画 放送作家・松田敬三の通信簿)
水曜:放送作家が斬る、企業動画の現場
木曜:テレビ、舞台裏全部見せます
土曜:コンテンツで売る時代
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