【ショートショート】冷凍ごはん、カイトウを求めて(1416文字)
僕は冷凍ごはん。
炊きたての美味しさを封じ込めるべく、炊かれてすぐに冷凍の世界へ送り込まれた。粗熱は取られてからだけどね。
僕を炊いてくれた母なる炊飯器は、別れ際に言っていた。
「上手にカイトウしてもらうのよ」って。
僕は、冷凍庫の中でコールドスリープをしながらも、そのセリフが頭から離れなかった。
「いつか食べられるその日までに、僕のポテンシャルを引き出す最高のカイトウを見つけておかなくてはならない」
そう思うと、オチオチ寝てなんかいられない。
僕は、冷凍庫をそっと抜け出し、炊飯器の言う“上手なカイトウ”を探す旅に出た。
最初に訪ねたのは“回答”のところだった。
答えを求めるなら、まずはココだと決めていた。
「なるほど、カイトウを探しているのか。では、最高のヤツを紹介するよ」
“回答”は頼もしげに言った。
連れて行かれたのはスタジアムでのデーゲーム。
先発投手は美しいフォームで白球を投げ込み、15奪三振。無失点の完投だ。
「どうだ、見事なカイトウだろ?」
……たしかに“快投”だ。
でも、興奮はしたけど、炊きたてほどに温まるとは思えない。
次に紹介されたのは、黒づくめの男。
マントを翻し、時価数億円の宝石をあっさり盗み出す。
「お宝もごはんもいただくぜ!」
……これって“怪盗”?
いくら懐が温まっても、犯罪なんて、まっぴら御免だ。
次の紹介先では、危うく快刀で開頭されかけた。
頭がパックリなんて、想像しただけで背筋も凍るよ。
ここまで、“回答”が出してくる回答は迷回答ばかりだ。
「次こそ間違いなく名回答! 権力者たちを頼ろう!」
そう言われて訪ねた商工会議所では、会頭から「まずは会員になれ」と勧誘された。次に行った政党事務所では、「解党しろとは何事だ!」と、烈火のごとく怒られた。これじゃあ、こっちが劣化しちゃうよ。
行く先々で嫌な汗をかくうちに、僕の表面はじんわりと溶け始めていた。これにつられて、僕の凍っていた記憶が、断片的によみがえる。
「自然カイトウはダメよ。レンジを使ってね」
……ああ、そうだった。僕には“レンジ”が必要なんだ。
デーゲームで見た太陽のオレンジ、怪盗のお宝へのチャレンジ、頭を割られそうになるストレンジな体験、商工業振興などの政策のアレンジ……。
どうやら“カイトウ”のそばには、何かしらの“レンジ”が付き物のようだ。
大きなヒントをつかんだが、ふと気がつけば、全身に大汗をかいている。
これ以上の外出は危険だ。
僕は、急いで冷凍庫に帰ることにした。
結局この旅では、あと一歩のところで結論は出なかった。
“ケツロ”までは出たけどね。
◇ ◇ ◇
「ねぇ、今日は冷凍ごはんでいいよね?」
ついにこの日が訪れてしまった。僕は、今日、食べられるらしい。
冷凍庫から引っ張り出され、体を持ち上げられる。
眼下に母なる炊飯器の姿も見える。
「ごめんなさい。結局、僕にとっての“カイトウ”は分からずじまいだったよ……」
心の中でそう思った瞬間、僕は炊飯器の横の“電子レンジ”に入れられた。
温かな光が僕を包み込み、心の芯までほぐれていく。
ふっくらとして、何だか懐かしい……。
炊きたて同然の自分に戻った時、僕はふと思う。
“回答”の教えてくれたカイトウは、ことごとく的外れだった。
でも今、こんなに温かい気持ちになれたのは、きっとあの旅のおかげでもある。
みんな、ありがとう。
僕に必要なカイトウは、すぐそばにあったよ。
それは、“名回答”でも“模範回答”でもない。
「チン解凍」だったんだ。
(了)
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