ハラスメント防止相談の、リアル
——「きくこと」は、できていたのか
外部相談窓口として活動を続ける中で、
私は、ある違和感を強く持つようになりました。
ハラスメントは、突然起きるものではないということです。
多くの相談は、
「明らかな悪意」から始まっているわけではありませんでした。
ほんの小さな行き違い。
伝えたつもり、分かったつもり。
その積み重ねが、気づかないうちに、関係をこじらせていく。
その過程を、私は何度も、相談の現場で見てきました。
セクハラしかなかった時代の相談
今では当たり前のように使われている
セクハラ、パワハラという言葉。
けれど、私がこの分野に関わり始めた頃、
ハラスメントといえば、ほぼセクハラしかありませんでした。
だからこそ私は、
一つひとつの相談を、自分なりに整理し、分析しようとしていました。
コミュニケーションの勘違いから生じるもの。
相手の受け取り方を想像できていないもの。
当時、出始めたばかりの携帯電話やメールによる行き違い。
今でいうところの
悪意のないすれ違いが、多くを占めていたように思います。
監督署相談員として見えていたもの
労働基準監督署で相談員をしていた頃も、
同じような場面に、何度も立ち会いました。
丁寧に話を聞いていくと、
本当に起きているのは、
どちらか一方の「加害」ではなく、
ボタンの掛け違い
としか言いようのない状況であることが、少なくなかったのです。
本意が伝わらない。
相手の意図を、勝手に解釈してしまう。
そのまま時間が経ち、
感情だけが積み重なり、
やがて「ハラスメント」という言葉で表現される。
そんなケースを、私は何度も見てきました。
「正義の言葉」が、人をさらに傷つけるとき
ある相談で、
今でも忘れられない言葉があります。
相談者が、周囲の人に状況を打ち明けたとき、
返ってきたのは、こんな言葉でした。
「あの人、よくあんなことできるわね」
その言葉は、
相談者を守るための言葉でも、
問題を解決するための言葉でもありませんでした。
ただ、相手を非難するだけの言葉。
相談者は、
「その言葉を聞いて、余計に自分が傷ついた」
と話してくれました。
そのとき、私は強く思いました。
正義の顔をした言葉が、人を救うとは限らない。
被害者も、加害者も、傍観者も作らないために
相談を重ねる中で、
私の中には、はっきりとした問いが生まれました。
被害者を守ることは、もちろん大切。
でも、それだけでは足りない。
自分が何をしているのか分からないまま、
加害者とされてしまう人。
関わり方が分からず、
見て見ぬふりをしてしまった周囲の人。
誰か一人を守るために、
誰かを切り捨てる関係性では、
問題は終わらない。
そう感じるようになったのです。
ハラスメント防止の鍵は、どこにあるのか
では、
ハラスメントを防止するために、
本当に必要なものは何なのか。
相談を重ねる中で、
私がたどり着いた答えは、とてもシンプルでした。
コミュニケーションが、きちんと通っているかどうか。
伝えたつもりになっていないか。
相手の立場で受け取れているか。
誤解が生まれたときに、立ち止まって話し合える関係があるか。
多くの相談は、
そのどこかが、少しずつズレていました。
「きく」という言葉に、定義はなかった
そんなことを考えていた今日、
ご縁紡ぎ大学熊本校の講義で、
ビリーさん(山下義弘さん)から
「きくということ」を学びました。
そこで、強く心に残ったのが、
「きくには、明確な定義がなかった」
ビリーさんが師匠で大学教授に定義をつくってもらった
という話でした。
相手の情報や、
その人の「おもい」「考え」を、
自分なりに受け止め、理解しようとすること。
でも、本当に大事なのは、そこから先でした。
「きいた」とは、確認と承認が入った状態
「それより大事なのは、その後です」
そう言われたとき、
私は、相談の現場の風景をいくつも思い出しました。
「きいた」とは、
ただ耳に入った、理解した“つもり”ではなく、
確認と承認が入って、初めて「きいた」になる。
「こういうことだと理解しましたが、合っていますか?」
「そういう思いだったのですね」
この一言があるかどうかで、
関係性は、大きく変わっていく。
「質問」に変わったことで、失われたもの
戦前は、
どんな立場の人の間でも、
必ずこの 確認と承認=訊く があったそうです。
それが、いつの間にか、
「質問」に置き換わっていった。
質問は、便利です。
でも、そこには
評価や詰問、正解探しが入り込みやすい。
一方で、「きく」は違う。
相手を理解しようとする姿勢そのもの。
上下も、正しさも、持ち込まない。
ここに、
ハラスメント防止の、とても大事なヒントがあると感じました。

すべてが、一本につながった瞬間
相談の現場で起きていた
「聞いた」「言った」「やった」の認識のズレ。
正義の言葉が、
さらに人を傷つけてしまう構造。
それらはすべて、
「きいたつもり」のまま、
確認と承認がされていなかったことから
始まっていたのではないか。
そう思ったとき、
これまでの相談経験と、今日の学びが、
私の中で静かにつながりました。
次に向き合いたい問い
では、
私たちは本当に、
「きくこと」ができていたのだろうか。
ハラスメント防止の鍵として見えてきた
コミュニケーションとは、何なのか。
次回は、
この「きく」という姿勢を、
職場や支援の現場でどう育てていけるのかについて、
もう一歩、書いてみたいと思います。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
感じたことや、ふと浮かんだ場面があれば、
ぜひ「スキ」やコメントで教えてください。
(第2章 第6回)
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