体の声を聞ける選手は強い:内受容感覚という見えない才能
IMGに、なかなか結果が出せずに苦しんでいた友達がいる。
ある日、彼のスイングを見ていて気づいた。背中がガチガチに張っていて、それをかばうように腕だけで振っていた。本人は「調子が悪い」とは感じていた。でも、それが背中のせいだとは分かっていなかったし、どう直せばいいかも分からなかった。
僕がストレッチのやり方を教えて、一緒にやってみた。背中がほぐれると、フォームが開いて、スイングが変わって、スコアまで良くなった。伸び悩んでいた彼が、前に進みはじめた。
たったこれだけ。でも僕は、この出来事からずっと考えていることがある。自分の体の中で何が起きているかを感じ取る力がないと、選手はどれだけ才能があっても伸びきれないんじゃないか、ということだ。

「内受容感覚(interoception)」って何だろう
この「体の中の状態を感じ取る力」には、ちゃんと名前がある。内受容感覚(interoception)だ。心拍、呼吸、筋肉の張り、疲れ。体の内側から来る信号を、どれだけ正確に受け取れるか、という感覚のこと。
面白いのは、これがアスリートと深く関係しているという研究があることだ。2025年に発表された研究では、アスリートは一般の人より内受容感覚が高く、しかもエリート選手ほどその数値が高かった、と報告されている。
ただ、調べていくうちに、そう単純じゃないことも分かった。短距離と長距離のランナーを比べた研究では、長距離より短距離の選手のほうが「体を読む」スコアが高かったし、トップ選手ほど「自分は体の声を聞けている」と感じる度合いは、むしろ低かった、という結果だった。思っていたのと逆だ。
「体の声を聞く」って、聞こうと意識すればいい、みたいな単純な話じゃないらしい。でも、体の信号を正確に拾える選手がいる、というところは動かない。僕の友達の話とも、つながっている気がした。

なぜこれが「回復」の話につながるのか
スポーツ医学の研究を読んでいると、ジュニア選手のケガの多くは「使いすぎ(overuse)」から来ている、と書かれている。しかも十代の選手は、骨がまだ大人ほどストレスに強くなくて、回復にも大人より時間がかかる。大人より弱いんだ、そこは。
golfは股関節と肩、tennisは手首。競技ごとに体への負担はまったく違う。その競技特有の負担を、選手自身が感じ取れないと、知らないうちに体を壊していく。
回復は、トレーニングのおまけじゃない。体を壊さないことが、すべての土台だ。そしてその土台を守る第一歩が、「今、自分の体に何が起きているか」を感じ取ることなんだと思う。

ここからは、僕が考えたこと
ここまでは研究の話。でも僕が一番伝えたいのは、ここから先だ。
内受容感覚が低い選手は、コーチに言われたことを、ただ言われるままにやるしかない。コーチが外から見て判断して、選手は従うだけ。一方通行だ。
でも内受容感覚が高い選手は、コーチに「フィードバックを返せる」。「ここが張っている」「ここがうまく使えていない」「この痛みは、いつもと違う」。そうやって自分の状態を言葉にできる。コーチングが一方通行じゃなくなる。選手とコーチの、二人三脚になる。
近いことを言っている研究もある。心理学者のZimmermanは、選手が四つの段階を通って育っていくと整理している。「観察 → 模倣 → 自己コントロール → 自己調整」。上達するにつれて、コーチは少しずつ手を離していく。最終的に、選手は自分で自分を律せるようになる。
僕の言葉で言えば、これは「選手が自立する(self-sustain)」ということだ。コーチがいなくなっても、自分で体を読んで、直して、伸ばし続けられる。内受容感覚は、その自立の入り口なんじゃないかと思っている。
ひとつ正直に書いておく。「内受容感覚が高いとコーチへのフィードバックがうまくなる」と、一本の論文が証明しているわけじゃない。内受容感覚の研究と、自己調整の研究。別々の二つの分野を、自分なりにつないで考えたのが、この部分だ。
体を「管理されるもの」から「自分で導くもの」へ
なかなか結果が出せずにいた友達は、自分の不調をコーチに返せなかった。ただ間違ったスイングを繰り返していた。でも、その張りを感じ取って言葉にできるようになった瞬間から、彼は「直してもらう側」から「自分で直していく側」に変わった。そして、伸びはじめた。
体の声を聞く力。それは選手を「管理される体」から「自分の成長を自分で導く存在」に変える力だ。
そしてそれは、スコアが良くなることよりも、ずっと長く効く。
同じように海外でゴルフをやっている人、これから挑戦する人と、こういう話を共有していきたいです。フォローしてもらえたら嬉しいです。
参考リンク:
Zeng et al. (2025) Exploring Individual Differences in Interoception Among Athletes. Psychophysiology — https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/psyp.14766
Seabury, Benton & Young (2023) Interoceptive differences in elite sprint and long-distance runners. PLOS ONE — https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0278067
American Academy of Pediatrics (2024) Overuse Injuries, Overtraining, and Burnout in Young Athletes. Pediatrics — https://publications.aap.org/pediatrics/article/153/2/e2023065129
Zimmerman, B. J. (2002) Achieving Self-Regulation: The Trial and Triumph of Adolescence — https://eric.ed.gov/?id=ED471681
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