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稲穂健市の知財コソコソ噂話 第28話 農業知財をどう保護するか

 2025年9月、農林水産省がニュージーランドで「シャインマスカット」の生産許可を検討していることが話題となりました。日本の研究機関が育成した(品種改良して生み出した)シャインマスカットの種苗が、中国や韓国に流出し、東南アジアなどでも販売されていることから、それに対抗する意図もあったようです。当時の小泉農相は「産地の皆さんの理解がないまま進めることはまったくない」と強調したものの、波紋を呼びました。
 日本の種苗の海外流出については、シャインマスカットのほか、各種のイチゴについても以前から問題視されてきました。今回は農業にどのような知財が関係するのかについて見ていきましょう。
 まず思い当たるのは「育成者権」でしょう。本コラムの第13話でも軽く触れていますが、「種苗法」に基づき植物の新品種の育成者などに与えられる権利です。存続期間は原則として登録日から25年ですが、ブドウなどの果樹等の場合は登録日から30年です。
 もっとも、産業財産権と同じく「属地主義」という考え方に基づき、国ごとに権利が独立しているので、海外でも保護を図りたいのであれば、外国でも同じように出願する必要があります。シャインマスカットは、海外では育成者権が取得されなかったのですが、どの国にどのタイミングで出願するかという判断もそう容易ではありません。海外で登録できるのが国内での譲渡開始から4年(樹木およびブドウの場合は6年)までというUPOV(ユポフ)条約上のルールもくせものです。
 海外での育成者権の確保とその活用も重要ですが、それ以前に、種苗の海外流出を防ぐことや、栽培方法などのノウハウを秘匿化することも大切です。近年ではセンサーなどでデータを集めて実現する「スマート農業」が注目されていますが、それについてもデータ保護やシステムの特許化などの対応を検討すべきでしょう。
 さらに、商標登録により販売名の保護を図ることも重要です。品種名をその種苗や収穫物について商標登録することはできませんが、品種名とは別に販売名をブランドとして商標登録することは可能です(イチゴの「あまおう」など)。また、通常の商標登録のほか、「地域の名称」と「商品・サービスの名前」とを組み合わせたものであれば、一定の要件の下、「地域団体商標」として登録することができます。そして、海外展開する国ごとに商標権を取得することも検討する必要があります。
 国際的に保護を求めるという観点では、本コラムの第13話でも触れた「地理的表示(GI)保護制度」も有用です。地理的表示とは、その地域ならではの特性(品質や評価)を持つ産品の名称のことで、一定の基準を満たしたと判断された場合に、「地理的表示」と「GIマーク」の使用が許可されます。登録された後も品質管理の実施を求められますが、権利は取り消されない限り存続します。また、日本で登録されると、欧州連合(EU)など日本と「相互保護」の協定を結んでいる国・地域でも、現地の行政機関が紛らわしい商品を取り締まってくれるというメリットがあります。
 このように農産物の保護だけでも、さまざまな知財が関係しているのです〈さらに詳しく知りたい方は、拙著『世界は知財でできている』(講談社現代新書)をご覧ください〉。

ソウル・明洞の商店で売られていた韓国産の シャインマスカット(2025年1月筆者撮影)

『発明 THE INVENTION』(発明推進協会)2025年12月号掲載

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