「分かっています」が口ぐせの社長🔯会計資料を見ない人ほど、数字を知っていると言う
プロローグ
エリカ「教授、どんな助言をしても、『それは分かっています』『もうできています』と答える社長がいるそうですね」
教授「いる。会社経営に必要なことは、すべて理解し、すでに実行している。ただし、業績だけが本人の説明に追いついていない」
エリカ「それは不思議ですね」
教授「本人は、会社に問題があるのではなく、会計資料のほうに問題があると思っているらしい」
問題点を指摘すると、全部知っている
教授「ある月の監査報告会で、税理士が社長に説明した」
税理士「今月は売上が増えていますが、粗利益率がかなり下がっています」
社長「分かっています」
税理士「原因は確認されましたか」
社長「もちろんです。対策もできています」
税理士「どのような対策ですか」
社長「そこは担当者に任せています」
エリカ「分かっているのは、担当者ではありませんか」
教授「この会社では、理解と実行の間に担当者が住んでいるのだ」
税理士「売掛金の回収期間も長くなっています」
社長「それも分かっています。銀行にも説明しています」
税理士「どのように説明されたのですか」
社長「詳しい資料をExcelで作らせました」
税理士「社長も、その資料をご覧になりましたか」
社長「全部見る必要はないでしょう。報告は受けています」
エリカ「Excelで資料を作れば、問題は解決するのですか」
教授「Excelは表を作ってくれるが、社長の代わりに経営判断まではしてくれない」
エリカ「数字を並べることと、数字を理解することは別なのですね」
教授「そのとおりだ。表は作れても、経営者の理解までは自動計算されない」
「知っている」と「説明できる」は違う
エリカ「本当に分かっているかどうかは、どう確認すればよいのですか」
教授「自分の言葉で説明してもらえばよい」
税理士「粗利益率が下がった理由を、三つに分けて説明していただけますか」
社長「細かいことは経理に聞いてください」
税理士「現在の資金で、あと何カ月持ちますか」
社長「銀行とは話がついています」
税理士「借入金の返済原資は何ですか」
社長「それも分かっています」
エリカ「会話が一周して、元の場所に戻りましたね」
教授「『分かっています』は、便利な非常口なのだ。質問が難しくなると、そこから外へ出られる」
エリカ「でも、銀行には説明できているのでしょう」
教授「本人は、説明したつもりになっている。実際には、担当者が作ったExcel資料を銀行へ渡し、『詳しくは資料をご覧ください』と言っているだけかもしれない」
エリカ「社長本人が数字を説明できなければ、銀行も不安になりますね」
教授「銀行が見ているのは、資料の美しさだけではない。社長が自社の数字を理解し、問題を認識し、改善策を実行できるかどうかも見ている」
開かれた形跡のない会計資料
教授「税理士は、先月渡した試算表について尋ねた」
税理士「先月の試算表は、どこをご覧になりましたか」
社長「だいたい見ました」
税理士「売上高はいくらでしたか」
社長「細かい数字までは覚えていません」
税理士「営業利益はどうでしたか」
社長「黒字だったでしょう」
税理士「赤字です」
社長「それは一時的な赤字です。そこも分かっています」
エリカ「試算表を本当に見たのでしょうか」
教授「紙には折り目も書き込みもなく、新品のようにきれいだった」
エリカ「保存状態は完璧ですね」
教授「ただし、会計資料は美術品ではない。きれいに保存するより、少し汚れるくらい使ったほうが会社のためになる」
エリカ「会計資料を見ない社長ほど、『数字は頭に入っている』と言うことがありますね」
教授「頭に入っている数字が、何年前の数字なのかは確認したほうがよい」
基本的な会計知識が不足している
エリカ「社長は、なぜ分からないことまで『分かっている』と言うのでしょう」
教授「基本的な会計知識が不足していると、自分がどこまで分かっていないのかも分からないからだ」
エリカ「分からないことが分からないのですね」
教授「そうだ。売上、粗利益、営業利益、資金繰り、借入金返済を全部同じようなものだと思っていることもある」
エリカ「売上が増えれば、現金も増えると思っている社長もいます」
教授「売掛金が増え、在庫が増え、借入返済が増えれば、利益が出ていても現金は減る。そこを理解しなければ、『儲かっているのに、なぜ金がない』という永遠の謎が始まる」
エリカ「会計知識は、税理士や経理担当者だけに必要なのではないのですね」
教授「経営者に簿記検定の満点は必要ない。しかし、少なくとも自社の利益と資金の動きを説明できる程度の知識は必要だ」
「分かりません」と言える社長は強い
エリカ「では、強い社長はどのように答えるのでしょう」
教授「『そこは分かっていません。教えてください』と言える社長だ」
エリカ「弱く見えませんか」
教授「逆だ。分からないことを認識できる人は、学び、修正し、行動できる」
エリカ「分かったふりをする社長は、問題を隠してしまいますね」
教授「しかも、他人だけでなく自分にも隠してしまう。これが最も危険だ」
エリカ「税理士の説明を途中で遮って、『それは分かっています』と言うより、最後まで聞いたほうがよいですね」
教授「当然だ。助言は、知っているかどうかを競う試験ではない。会社を良くするための材料だ」
月次決算は答え合わせではない
エリカ「月次決算は、過去の結果を見るだけのものですか」
教授「違う。月次決算は、経営の現在地を確認し、次の行動を決めるためのものだ」
エリカ「売上が下がった、利益率が落ちた、回収が遅れた。そうした変化を早く見つけるのですね」
教授「そのとおりだ。問題を指摘されたときに『分かっています』で終われば、月次決算はただの答え合わせになる」
エリカ「では、何を聞けばよいのでしょう」
教授「なぜ起きたのか。いつまでに改善するのか。誰が実行するのか。数字でどう確認するのか。この四つだ」
エリカ「『分かっています』より、ずっと具体的ですね」
教授「経営は、分かった気分では動かない。数字と行動で動く」
分かったつもりが会社を止める
エリカ「今日の結論は何でしょう」
教授「経営で危険なのは、知らないことではない。分かっていないのに、分かっていると思うことだ」
エリカ「会計資料を開き、自分の言葉で説明し、分からないところは質問する」
教授「それだけで、会社の経営会議はかなり変わる」
エリカ「Excelで資料を作らせるだけでは足りませんね」
教授「Excelは優秀な部下だ。しかし、社長の席には座ってくれない」
エリカ「では、社長に最後の質問です。今月の営業利益はいくらですか」
教授「そこで『分かっています』と答えたら、もう一度試算表を開こう」
