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日銀が1%に利上げへ?――ミカと教授、そして途中から乱入した中小企業社長の「金利会議」


新聞の見出しが、朝のコーヒーを苦くした

ミカは朝刊を広げたまま、コーヒーを一口飲んで固まった。

「教授、大変です。新聞に**『日銀1.0%に利上げへ』**って大きく出ています」

教授は老眼鏡を少し上げ、見出しをのぞき込んだ。

「ほう。ついに金利が、布団から出てきたようだね」

「布団?」

「日本の金利は長い間、寝たきりに近かった。ゼロ金利、マイナス金利、超低金利。経済の世界では、金利という登場人物がいるはずなのに、長い間ほとんどセリフがなかった」

「それが1%になると、そんなに大事件なんですか?」

「世界的に見れば、1%はまだ小柄な青年だ。しかし日本では、久しぶりに成人式を迎えたようなものだ」

ミカは新聞をたたきながら言った。

「でも、1%って、数字だけ見ると小さいですよね。消費税10%に比べたら、かわいいものでは?」

教授は首を横に振った。

「ミカ君。金利の1%は、ただの1%ではない。経済の世界では、“お金を借りる値段”が変わるということだ。これは、家計、企業、銀行、株式市場、不動産、国の財政まで、あちこちに小さな地震を起こす」

「小さな地震?」

「そう。震度1か2くらいに見えて、古い本棚の上に積んでいた書類が落ちてくる場合がある」

そもそも、なぜ日銀は利上げを考えるのか

ミカは新聞記事を読みながら、眉をひそめた。

「記事では、物価上昇への警戒って書いてあります。つまり、物価が上がりすぎるから、利上げするんですか?」

「その理解でよい。利上げは、経済に対する軽いブレーキだ」

「ブレーキということは、景気を悪くするんですか?」

「そこが難しい。日銀としては、景気を壊したいわけではない。物価が上がりすぎて、家計や企業が苦しくなるのを防ぎたい。つまり、熱が上がりすぎた経済に、少し氷枕を当てるようなものだ」

「でも、冷やしすぎたら?」

「風邪をひく」

「経済も風邪をひくんですか」

「ひく。消費が冷え、投資が減り、企業の資金繰りが苦しくなる。だから利上げは、風邪薬というより漢方薬だ。効き目はあるが、量を間違えると胃がもたれる」

ミカはうなずいた。

「つまり、日銀はこう言っているわけですね。『物価が上がり続けるのは困る。でも景気を冷やしすぎるのも困る。だから、そっと金利を上げます』と」

教授は満足そうに笑った。

「その通り。日銀総裁の言葉を、家庭の会話に翻訳するとそうなる」

1%の意味――日本経済に「金利感覚」が戻る

ミカはメモを取り始めた。

「教授、1%に上がる意味を、ひと言で言うと何ですか?」

教授は少し考えた。

日本経済に、金利という重力が戻ってくるということだね」

「重力?」

「金利が低すぎると、お金はふわふわする。借りても負担が軽い。多少採算が悪い投資でも、金利が低ければ何とかなる。株や不動産にもお金が流れやすい」

「つまり、低金利は経済の風船をふくらませるんですね」

「そうだ。しかし金利が上がると、その風船に少し砂袋がつく。借入にはコストがある。投資には採算が必要だ。預金にも多少の意味が戻る。企業経営では、支払利息が無視できなくなる」

「昔は支払利息が小さくて、あまり気にしなかった会社もありますよね」

「そう。低金利時代には、支払利息は決算書の端っこでお茶を飲んでいた。しかしこれからは、会議室の真ん中に座って、『私のことも見てください』と言い出す」

「支払利息が発言権を持つ時代……」

「そうだ。これまでは売上、粗利、人件費、家賃が主役だった。そこに金利が戻ってくる」

家計への影響――預金は少し笑い、住宅ローンは少し青ざめる

ミカは自分の通帳を思い出した。

「利上げになると、預金金利は上がるんですよね。ということは、私の普通預金もついに働き始めますか?」

教授はやさしく言った。

「少しは働くかもしれない」

「少し?」

「普通預金は、急にエリート社員にはならない。長い間、窓際で静かに座っていた人が、ようやく朝礼で一言話すくらいだ」

「それでも、何もないよりはいいですね」

「もちろん。預金者にはプラス面がある。ただし、物価上昇のほうが大きければ、利息が増えても実質的には苦しい。たとえば、預金利息が少し増えても、米、卵、ガソリン、電気代が上がれば、家計はまだ笑顔になれない」

「通帳は少し笑う。でもレシートは泣く」

「名言だね」

「一方で、住宅ローンはどうですか?」

「特に変動金利型の住宅ローンを利用している人は、注意が必要だ。金利が上がると、将来の返済負担が増える可能性がある」

「すぐに毎月返済額が上がるんですか?」

「契約内容による。すぐに反映される場合もあれば、一定期間は返済額が変わりにくい仕組みもある。ただし、表面上の返済額がすぐ変わらなくても、利息部分が増え、元本の減り方が遅くなることがある」

ミカは顔をしかめた。

「つまり、見た目は静かでも、内側でじわじわ効くんですね」

「その通り。金利上昇は、ドアを蹴破って入ってくる強盗ではない。靴を脱いで静かに上がり込み、気づいたら家計簿の席に座っている客だ」

企業への影響――ここで中小企業の社長が乱入する

その時、会議室のドアが勢いよく開いた。

「ちょっと待った!」

ミカは驚いて振り返った。

「どなたですか?」

「中小企業の社長です。新聞で日銀が1%に利上げと聞いて、いてもたってもいられず乱入しました」

教授は落ち着いて言った。

「よく来られました。ちょうど、企業への影響を話そうとしていたところです」

社長は椅子に座るなり、腕を組んだ。

「教授、うちは借入があります。変動金利もあります。利上げされたら困ります。金利が上がると、銀行さんが急に紳士から取立屋に変身するんですか?」

教授は笑った。

「そこまで急には変わりません。しかし、借入金利が上がれば、支払利息は増えます」

「やっぱり!」

「たとえば、借入が1億円ある会社で、金利が0.25%上がれば、単純計算で年間25万円の負担増です」

社長は電卓を出した。

「25万円……。それは社員旅行の宴会で、刺身の船盛りが小舟になる金額ですね」

ミカがすかさず聞いた。

「社長、借入が5億円なら?」

社長は黙って電卓を打った。

「年間125万円……。これはもう、船盛りどころか、枝豆と冷奴です」

教授はうなずいた。

「だから、これからの中小企業経営では、借入金利を“銀行任せ”にしてはいけません。借入残高、金利、固定か変動か、返済期間、保証の有無、次回の金利見直し時期を確認する必要があります」

社長はため息をついた。

「売上のことだけ考えていればよかった時代は終わりですか」

「完全に終わったとは言いません。しかし、金利を読まない経営は、天気予報を見ずに洗濯物を干すようなものです」

ミカはメモした。

「金利を読まない経営は、天気予報を見ない洗濯物……使えますね」

中小企業社長の本音――売上より先に利息が来る

社長は身を乗り出した。

「教授、問題はそこなんです。売上はすぐに上がらない。値上げも簡単ではない。でも、金利は銀行から通知が来たら上がる。こっちは準備運動もしていないのに、いきなりマラソン大会です」

教授はうなずいた。

「まさに中小企業の悩みですね。だから、今やるべきことは三つあります」

「三つ?」

「一つ目は、借入一覧表を作ること。二つ目は、金利上昇を織り込んだ資金繰り表を作ること。三つ目は、価格設定を見直すことです」

社長は渋い顔をした。

「値上げですか。お客さんに言いにくいんですよ。『長年のお付き合いですから』と言われると、つい昔の価格のままにしてしまう」

教授は少し厳しい顔をした。

「社長、それは美談ではなく、利益漏れかもしれません」

「利益漏れ……」

「仕入れが上がる。人件費が上がる。電気代が上がる。金利も上がる。それなのに販売価格だけ昭和の根性論で据え置く。これは、会社が静かに痩せていくパターンです」

ミカが言った。

「会社のダイエットですね」

社長は首を振った。

「いや、それは健康的なダイエットじゃない。筋肉が落ちるタイプです」

教授は笑った。

「その通りです。利益は会社の筋肉です。金利上昇時代には、筋肉のない会社ほど疲れやすくなります」

銀行にとっては追い風か、向かい風か

ミカは疑問を口にした。

「でも教授、金利が上がると銀行は喜ぶんですよね?」

「一般には、貸出金利が上がれば銀行の利ざやは改善しやすい。だから銀行株にはプラスに働く場面がある」

社長が割り込んだ。

「銀行さんだけ喜ぶんですか。こっちは冷奴なのに」

教授は手を上げて制した。

「ただし、銀行も楽園ではありません。金利が上がると、銀行が保有している国債の価格は下がりやすい。また、借り手企業の返済力が弱れば、不良債権リスクも出てきます」

ミカはうなずいた。

「銀行にとっても、いいことばかりではないんですね」

「そう。金利上昇は銀行にとって、春風でもあり、突風でもある。窓を開ければ気持ちいいが、書類が飛ぶ」

社長がつぶやいた。

「うちの会社では、書類が飛ぶ前に経理担当が飛びそうです」

株式市場と不動産――金利は市場の重力である

ミカは新聞の株価欄を思い出した。

「株式市場にはどう影響しますか?」

教授は答えた。

「金利が上がると、一般的には株価の重荷になりやすい。なぜなら、安全な金利収入の魅力が少し戻るからだ。投資家は、『わざわざリスクを取らなくても、一定の利回りがあるなら、それでいいのでは』と考えるようになる」

「つまり、株式市場にとって金利は重力なんですね」

「そう。低金利の時代は、株や不動産という風船が浮かびやすかった。金利が上がると、その風船に砂袋がつく」

社長が聞いた。

「不動産もですか?」

「不動産は金利の影響を受けやすい。購入者はローンを使うことが多いし、不動産投資も借入を前提にしていることが多い。金利が上がれば、投資採算は厳しくなる」

「REITも?」

「影響を受けやすいです。分配金利回りと金利の比較が意識されますし、借入コストも上がる可能性があります」

ミカは言った。

「では、金利が上がると、株も不動産も全部ダメですか?」

教授は首を振った。

「全部ではない。銀行、保険などにはプラスに働く場面もある。現金を多く持つ会社、借入の少ない会社、価格転嫁力のある会社は相対的に強い。逆に、借入が多く、利益率が低く、値上げできない会社は厳しくなる」

社長が小さく言った。

「いま、うちの悪口を言いました?」

「いえ、一般論です」

「一般論ほど刺さるものはありません」

為替への影響――円高になるとは限らない

ミカは次に為替欄を見た。

「日銀が利上げすると、円高になるんですか?」

教授は少し考えてから答えた。

「理屈の上では、円高要因です。日本の金利が上がれば、円を持つ魅力が少し増えるからです」

「じゃあ、円高ですね」

「そう単純ではありません。為替は、日米金利差、アメリカの金融政策、投資家心理、地政学リスク、株式市場、投機筋の動きなど、多くの要因で動く」

社長が言った。

「つまり、為替は気分屋ですか」

教授は笑った。

「かなりの気分屋です。日銀が丁寧に説明しても、為替市場は『はいはい、でもアメリカはどうなの?』と別の話を始めることがあります」

ミカはメモした。

「為替市場は、人の話を最後まで聞かない」

「それも、なかなか良い表現だね」

国の財政――金利上昇は政府の家計簿にも響く

ミカはさらに聞いた。

「金利が上がると、国にも影響しますか?」

「もちろんです。日本は多額の国債を発行しています。金利が上がれば、新しく発行する国債の利払い費が増えやすくなる」

社長が言った。

「国も借入が多いんですね。うちと同じですか」

教授は少し困った顔をした。

「規模が違いすぎますが、借入に利息がつくという意味では同じです」

「国も資金繰り表を作ったほうがいいですね」

「作っています。ただ、国の場合は、社長が銀行に頭を下げるのとは違い、税収、国債発行、財政政策、金融政策が絡みます」

ミカは言った。

「でも、結局、金利が上がると利払いが増えるという点は同じなんですね」

「そうです。金利上昇は、政府にとっても家計簿の赤ペンです」

今、会社がやるべきこと

社長は真剣な顔になった。

「教授、結局、うちのような中小企業は、今すぐ何をすればいいんですか?」

教授はゆっくり答えた。

「まず、借入の棚卸しです」

「棚卸し?」

「商品だけでなく、借入も棚卸しするのです。借入先ごとに、残高、金利、固定か変動か、返済期間、毎月返済額、保証協会付きか、担保の有無を確認する」

「それは経理担当に任せればいいですか?」

「任せるだけではいけません。社長も見るべきです。借入は単なる会計データではなく、経営の血圧です」

ミカが聞いた。

「血圧?」

「そう。高すぎても危険、低すぎても活動できない。借入は悪ではありません。しかし、金利上昇時代には、借入の量と質を見ないといけない」

社長はうなずいた。

「次は?」

「資金繰り表に金利上昇シナリオを入れる。今の金利だけでなく、0.25%上がったら、0.5%上がったら、1%上がったらどうなるかを見る」

「怖いですね」

「怖いものは、見ないほうがもっと怖い。資金繰りは、お化け屋敷ではありません。電気をつけて歩けば、案外ただの段ボールだったりします」

「三つ目は?」

「値決めの見直しです」

社長はまた渋い顔になった。

「やっぱりそこに戻りますか」

「戻ります。金利、人件費、仕入、電気代、物流費が上がっているのに、売価だけ変えないなら、その差額は社長の胃袋で吸収されます」

ミカが言った。

「それは消化不良になりますね」

「その通り。会社の値決めを見直さないと、社長の胃薬代が増えます」

税理士・会計人の出番

ミカはふと気づいた。

「教授、こういう時代になると、税理士や会計事務所の役割も変わりますね」

教授は大きくうなずいた。

「まさにそこです。これからの月次決算では、単に売上と利益を見るだけでは不十分です。支払利息、借入残高、返済予定、資金繰り、価格転嫁の状況をセットで見る必要があります」

社長が言った。

「先生に決算書を渡して、『今年もよろしく』では足りないんですね」

「足りません。これからは、決算書を過去の成績表として見るだけでなく、未来の危険信号として読む必要があります」

「危険信号?」

「たとえば、利益は出ているが借入返済が重い会社。売上は伸びているが粗利率が下がっている会社。借入は多いが、金利条件を社長が把握していない会社。こういう会社は、金利上昇局面で注意が必要です」

ミカがまとめた。

「つまり、金利上昇時代の月次決算は、会社の健康診断ですね」

教授は笑った。

「その通り。しかも、血液検査だけでなく、血圧、心拍数、筋肉量まで見る健康診断だ」

社長はぼそっと言った。

「うちは体脂肪率が高そうです」

「では、利益体質改善から始めましょう」

利上げは悪者なのか

ミカは最後に聞いた。

「教授、結局、利上げは悪いことなんですか?」

教授は首を横に振った。

「利上げそのものは悪者ではありません。問題は、どのタイミングで、どの程度上げるかです」

「利上げには良い面もある?」

「あります。預金金利が上がる。円安や物価上昇を抑える効果が期待できる。資金がより効率的なところに向かいやすくなる。採算の悪い投資にブレーキがかかる」

社長が言った。

「でも、借入企業にはつらい」

「その通り。だから利上げは、全員に同じ顔を見せるわけではありません。預金者には少し笑顔、借入企業には渋い顔、銀行には複雑な顔、株式市場には神経質な顔、不動産市場には考え込む顔を見せます」

ミカは笑った。

「金利って、八方美人ならぬ八方面接官ですね」

「うまい。しかも、その面接官は履歴書ではなく、資金繰り表を見ます」

社長が肩を落とした。

「うちの資金繰り表、空欄が多いです」

教授は穏やかに言った。

「では、今日から埋めればよいのです。金利上昇は怖いですが、準備すれば対応できます。怖いのは、金利が上がることそのものではなく、会社が自社の借入と資金繰りを把握していないことです」

まとめ――1%は小さな数字だが、大きな合図である

ミカはノートを閉じた。

「今日の結論は、こうですね。日銀の1%利上げは、ただの数字ではない。日本経済に、金利という感覚が戻ってくる合図である」

教授はうなずいた。

「その通りです」

社長も、少しだけ前向きな顔になった。

「つまり、これからは売上だけでなく、借入、金利、資金繰り、価格設定を見る。低金利時代の感覚のままだと危ない」

「ええ。金利が上がる時代には、経営も少し大人になる必要があります」

ミカが言った。

「金利1%は、日本経済の成人式」

教授が続けた。

「そして、支払利息は会議室に戻ってきた」

社長がため息まじりに言った。

「では、うちの会社も会議室を片づけます。支払利息さんの席を用意しないといけませんから」

教授は笑った。

「その席には、資金繰り表も一緒に置いてください」

ミカは最後に、記事の締めの一文を書いた。

長い間、日本では“お金を借りるコスト”が見えにくい時代が続いた。しかし、金利が1%に近づくということは、お金が再び値段を持ち始めるということだ。これからの経営では、売上を見る目だけでなく、金利を見る目が必要になる。金利は小さな数字でやってくる。しかし、会社の利益、家計の返済、投資の判断には、大きな足音を残していく。

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