ボクの日常 * 春分
お母さんが鼻歌を歌いながら帰って来た。
ボクは知っている。
そんな時は絶対に
ピアノのコンサートか
ピアノのレッスンか
グランドピアノで練習か
この3つのうちのどれかなんだ。
お母さんはピアノに夢中だから
前よりもボクと遊んでくれる時間が
明らかに減っている。
でもいいんだ。
お母さんが楽しそうにしているのを見ると
ボクも楽しい。
3月20日は春分の日。
昼と夜の長さが同じくらいになる春の中間点。
ボクの冬眠はいよいよ終わりに近づいている。
暖かい日は起きている時間が長くなる。
お母さんが
カメちゃん、日向ぼっこする?
と聞いてくれる。
ストーブを付けないくらい暖かい日は
リビングの窓際に水槽を運んでくれる。
慌ててレンガの上にのぼる。
甲羅から頭も手も足も尻尾も出して
伸びながら日向ぼっこする。
本当に気持ち良い。
そろそろ桜の季節かな?
庭の桜が咲くと
お母さんとお姉ちゃんはボクに桜の花を見せるために庭に連れて行ってくれる。
今から楽しみ。
今年は春一番が吹かなかったらしい。
風が強いと怖い音がするけど
甲羅の中に隠れてしまえば
安全だから大丈夫。
少しは食べた方がいいんじゃない?と
お母さんはボクの顔の前にご飯を持ってくる。
ご飯はまだまだ食べないのに
毎年同じ事をしてくるんだ。
いらないから手でグイっと避けると
そうだよね、まだ食べないよね、と
お母さんはしゅんとしてしまう。
大丈夫。
食べる時が来たらたくさん食べるから。
お母さんが
え?食べ過ぎじゃない?
とビックリするくらい。
毎年のこと。
ボクには3歳離れた弟がいる。
弟はなかなか冬眠しないし
なかなか冬眠から覚めない。
ボクみたいにきっと
敏感に季節を感じられないんだろうな。
この家に来たときは本当に小さくて
上手く冬眠出来るか心配したよ。
小さいからチビちゃんと呼ばれて
皆んなに可愛がられて
すっかりワガママになってしまった。
遊ぼう遊ぼうってバチャバチャガタガタ暴れて
隣の水槽にいるボクは大迷惑なんだ。
でも今はボクが先に冬眠から覚めているから
お母さんとお姉ちゃんを独り占め出来る。
そんな事も知らずにぐーぐー寝ている。
少し前にお母さんとお姉ちゃんは
2人で飛行機に乗ったらしい。
飛行機は知ってるよ。
空を飛んでいるのを見たことがあるよ。
鳥よりも小さいやつ。
あれに乗るってどういうこと?
それはよくわからない。
お姉ちゃんが4月から社会人というのになるからその前に旅行に行きたかったんだって。
雪が降って寒かったって言ってた。
雪って何だろうな?
ボクは寒い時は冬眠しているから
雪を知らない。
もうすぐお姉ちゃんは社会人というのになって
小さいお兄ちゃんは受験生というのになって
大きいお兄ちゃんはまた背が伸びて
お母さんはピアノのことで悩んでるみたいで
会社の階段を考え事をしながら上っていたら
本当は10階なのに
間違えて11階まで上ってしまったらしいし
お父さんはイビキがうるさいし
老眼のメガネを探してばかりいるし
皆んなそれぞれ色々あるみたいだけれど
でも冬眠が終わったら
皆んなとたくさん遊べるから
とても楽しみ。
だけど日向ぼっこしたりお昼寝したり
ボクも忙しいから
あまり邪魔しないでね。


赤ちゃんの頃のボク達みたいだって。
ボクの日記です。
お母さんが頑張って会社の階段を上る話です。
こちらも階段の話です。
階段ばかり上がっててどうかと思います。
お母さんには言えないけど。

