企画論09 事例で読み解く頒布会の設計思想「全国の銘店老舗洋食ハンバーグの会」
「全国の銘店老舗洋食ハンバーグの会」を企画として成立させるカギは何か
これまで、
なぜ今、頒布会なのか
頒布会とは「商品を売る」のではなく「価値を反復する」仕組みである
という話をしてきました。
今回は、その考え方を一つの具体的な企画事例を通して、実務レベルで読み解いていきます。
取り上げるのは、以前に私が製品プランナーとして関わった
**「全国の銘店老舗洋食ハンバーグの会」**です。
この企画事例を通して読み解いていく内容は、
頒布会モデルだからリピート売上が上がりやすかった、という話でも
広告を投下したから成功した、という話でもありません。
ポイントは一貫して、
製品を頒布会の企画としてどう設計したかにあります。
なぜ、この事例を取り上げるのか
この事例を選んだ理由は以下のとおりです。
頒布会における「企画と開発の思考差」が、分かりやすく表れた
「美味しいものを集めればいい」という発想では成立しない
第2回で述べた
「芯を固定し、周辺価値を動かす」という原理が、
定義としてそのまま企画判断に現れている
頒布会を、特別な成功体験として語りたいわけではありません。
再現可能な設計として読み解くための事例です。
企画の出発点
― 何を売るかではなく、何を体験させるか
この企画の出発点は、
「定番人気製品のハンバーグを継続的に売ろう」ではありません。
狙っていたのは、
洋食屋で食べるような
きちんとした食事体験を
家庭で、定期的に味わえること
という体験価値です。
冷凍で届く。
家で食べる。
だからこそ、
期待を裏切らないこと
でも、予定調和になりすぎないこと
この両立が最初から求められていました。
基本価値(芯)の設定
― 「洋食屋 × 銘店 × 老舗 × 全国」
ここでまず行ったのが、
価値の芯を言葉で固めることです。
この頒布会の基本価値は、
次のレイヤーで構成されていました。
洋食屋
銘店
老舗
全国
これは単なる属性の羅列ではありません。
なぜ洋食屋なのか
なぜ銘店なのか
なぜ老舗である必要があるのか
なぜ全国を名乗るのか
それぞれが、
顧客の期待値を規定する役割を持っています。
ここで、頒布会としての製品企画の芯が定まります。
定義を置くという判断
― 言葉を決めることは、判断基準を決めること
次に行ったのが、
この価値を定義として固定することでした。
例えば、
老舗とは何年以上なのか
→ 創業半世紀以上銘店とは何か
→ 地域で評価が定着していること/メディア掲載実績があること全国を名乗るための最低条件は何か
これを曖昧にしない。
なぜなら、定義がなければ判断がブレるからです。
頒布会は、単に
「美味しいハンバーグを定期的に届けよう」
という表層的な物売り視点だと、
回を重ねるほどに歪みやすい。
だから最初に、
「戻る場所」を言葉で決めておく必要があります。
開発担当との分岐点
― なぜ「美味しい順」では選ばなかったのか
企画開発を進めていく中で、
全国から多くの店をリストアップし、
実に100店近くのお店の試食評価を行いました。
ここから、
頒布会としての12店を選んでいくわけです。
ここで、
企画と開発の思考が分かれます。
開発担当は、
実際に食べて
美味しいかどうか
商品としての完成度
を基準に、
全国の候補店をランキングしました。
試食ランキングの上位12店。
一見、合理的です。
しかし、私はそのまま採用しませんでした。
理由は、頒布会の企画としての弱点が残るものだったからです。
関東・関西に偏っていた
最北/最東が仙台、最西が神戸
「全国の」銘店を名乗る体験として、カバーできないエリアが残る
「全国性」という周辺価値の設計
そこで行ったのが、
あえて試食ランキングでは僅差で及ばなかった選択肢を入れる判断です。
北海道の銘店
福岡の銘店
開発担当者が試食した、
味だけの結果で見れば、
外れる都市圏の店のほうが上なのかもしれない。
しかし、
北は北海道から南は九州まで、全国のお店が広がっている
毎月、違う地域を旅している感覚がある
この情報価値・文脈価値は、
頒布会として極めて重要でした。
ここが、
「商品満足度」だけでは測れない領域です。
商品満足度 × 情報満足度
この企画で重視したのは、
ハンバーグとして美味しいこと
それに加えて、なぜこれが選ばれたのかが分かること
顧客は、
ただ美味しいものを食べたいだけではない
「きちんと選ばれている」ことにも満足する
ここで初めて、
自己満足の美味しさ
→ 顧客満足としての完成度
に変わります。
この事例から汎用化できること
重要なのは、
ハンバーグを売ることではありません。
この事例から汎用化できるのは、
芯をどこに置いたか
どこまでを周辺価値として許容したか
何を理由に、あえて外したか
という判断の構造です。
これは、
食品でも
日用品でも
サービスでも
置き換えることができます。
まとめ
― 頒布会は「広告を増やす前」に製品として考えるべき事業設計である
この事例が示しているのは、次のことです。
売上を伸ばすために、すぐ広告を増やす必要はない
まず、価値を再定義し、それを反復できる構造を作る
その上で、集客を重ねる
頒布会は、
短期売上を作るための施策ではありません。
事業の骨格を太くするための設計です。
全体サマリはこちら
本連載(企画論07〜09)では、
「売れ筋を増やす」「広告を増やす」とは違った
事業成長のアプローチ頒布会という考え方が、なぜ今、再び重要になるのか
を一貫した思想として整理しています。
▶ 全体の考え方・位置づけは、こちらのサマリ記事にまとめています。
https://note.com/kawabe_atsushi/n/n879156f50c33
