【連載小説】悩み のち 晴れ!sideマナカ(ライトブルー・バード第3部&FINAL《6》)
🌟前回までのお話です↓
🌟マナカが退職を決意したエピソードはコチラ↓
🌟そしてキャラ相関図はコチラ↓

「今泉さん」
たくさんの生徒が行き交う昼休みの渡り廊下。親友と並んで歩いていた今泉マナカの背後から、懐かしい声が聞こえた。
「えっ?」
振り向くと、後ろに立っていたのは、やはり星名リュウヘイだ。学校もバイト先も一緒である彼の声を『懐かしい』と表現するのは、ややズレているように思えるが、感情がそうジャッジしてしまったのだから仕方がない。
マナカとリュウヘイは、バイト先では仲が良く会話も多い。しかし学校ではクラスが離れているせいか、あまり接点が無かった。
それでも廊下で不意に遭遇すると、2人は笑顔を交わしながらそっとすれ違う。その瞬間の嬉しい気持ちを、マナカは心の中でいつも温めていた。
そんなリュウヘイが学校で話しかけてくるなんて珍しいと思ったが、用件はアルバイトのことだろうとすぐに気づいた。
(サヨコさんに頼まれたのかな?)
「星名くん……どうしたの?」
マナカはリュウヘイをじっと見つめ、ちょっとだけ無理をして口角を上げる。
「うん……今泉さん、ちょっといいかな?」
申し訳なさそうな表情のリュウヘイ。
「マナカ、私は先に教室行ってるね」
2人の様子を見ていた親友の平塚メイは、マナカの肩を軽く叩いた。同時に見せたウインクは「やったね☆マナカ!」というアイコンタクトなのだろう。校内でマナカの恋心を知っているのは、親友の彼女1人だけだ。
(メイちゃーん……これは違うんだよ)
今にもスキップしそうなメイの後ろ姿を見て、マナカは苦笑いしそうになる。
(ま、いいか)
マナカはリュウヘイの方に向き直り、コクンと頷く。その直後に八重歯がこぼれた彼の笑顔を見て、やはり自分はリュウヘイのことが好きなんだと再確認してしまった。
「平塚さんは、今泉さんがバイトをずっと休んでいることを知っているの?」
「中庭に行こう」と指定したリュウヘイが、一緒に歩きながら口を開く。
「ううん、心配するから言ってはいない。でも、薄々気づいているんじゃないかな?」
「そっかぁ」
マナカは目線だけを横に動かし、リュウヘイをそっと見つめようとした。しかし同じタイミングでリュウヘイが顔の向きを移動させ、2人はバッチリと目が合ってしまう。
自分も驚いたが、向こうも同じくらい驚いたように思えた。間違いなくお互いの調子は狂っていた。
「え、えっとぉ……星名くん」
気心の知れているハズの2人が、こんな挙動不審者のような反応をしてしまうのは、場所がバイト先ではなく、イレギュラーな場所である学校だから……なのだろうか。
「ん?」
「……星名くんとこうやって廊下を歩いているのが、なんか不思議」
「俺も……同じこと思ってた」
「そうだよね」
マナカの頬が熱を帯びる。
「学校で馴れ馴れしくしちゃったら、今泉さんに迷惑かかりそうだからね。実は今日も、どうしようかと悩んでいた」
「………………」
リュウヘイは『校内3大美人』として注目されているマナカに気を使っているのだろう。
中庭に着いた。
まるで2人を待っていたかのように、ベンチが1つ空いている。
「座ろうか?」
「……うん」
リュウヘイはサヨコから、どんな伝言を頼まれてきたのだろう?
そして
彼は、どこまで退職を決めた経緯を知っているのだろう?
2月の終わりを告げるような風が、2人の間を優しく吹き抜ける。雲1つない青空の色も優しい。そして隣にいるのは大好きなリュウヘイ。アルバイトのことがなければ、最高のシチュエーションなのに……と思いながら、マナカはベンチに腰を下ろした。
「星名くん、サヨコさんから伝言でも預かってきたの?」
「あっ……うん」
リュウヘイは空を見上げながら返事をする。
「何て……言ってた?」
「『マナカ、ワタシは待ってるぜ!』……だけ」
「それだけ?」
「うん。それだけ」
クスッと笑うマナカ。サヨコの気持ちを素直に嬉しいと思った。
しかし退職の意思は少しも変わっていない。
「………………」
そろそろハッキリさせなければ……と思う。
真顔になったマナカの変化をリュウヘイは見逃さなかった。
「……で、ここから先は、俺個人からのハナシなんだけど、聞いてくれる?」
「えっ?」
戸惑いながらもマナカは頷いた。同時に心臓がドキドキしてくる。
(落ち着け私!! 星名くんには好きな女の子がちゃんといるんだからっ、勘違いしちゃダメ!!)
「今泉さん、俺ね……」
「う、うん?」
「今泉さんがどうして長期でバイトを休んでいるのか全部知ってる。浅野さんたちのこととか……」
「えっ?」
マナカの表情が固まった。
「俺、浅野さんたち3人の会話を偶然聞いちゃったんだ。それ聞いて、頭に血が昇って、気がついたらアイツらにケンカをふっかけてた。真面目に頑張っている人の足を引っ張る行為は大キライだし、複数人で1人を攻撃するのは卑怯だと思う」
「………………」
「だから言うよ。どうして今泉さんは、あんなにやりたがっていたGESSのポジション放棄して、退職までする必要あるの?」
リュウヘイは真剣な目でマナカの瞳を捉えながら、訴えるような口調で言った。
リュウヘイは浅野ユリとの間に起こった出来事を詳しく話す。武勇伝というよりは、まるで懺悔でもするかのように……。彼は最後に「自分は言い過ぎたと思う」という言葉で『報告』を閉じた。
「……………だから、俺、浅野さんだけには謝るよ」
「『だけ』?」
「うん、サヨコさんから聞いたんだけど、浅野さんは反省しているらしい。暫く休んで復帰するって。あぁ、あとの2人は仲良く一緒に辞めた。ちなみにシフトを残したドタキャン状態。サヨコさんが頭抱えてたよ。ディスっているワケじゃないけど、女子の関係って、俺は一生理解できないと思う」
苦笑いするリュウヘイ。マナカもつられて同じように笑った。
「私のせいで色々あったんだね」
「今泉さんのせいじゃないって! この際だから言うけど、俺は前々から荒川さんとのことは知っていたよ。それも踏まえた上で、俺は今泉さんが辞めるのはおかしい……って言っているの」
「えっ?」
リュウヘイがヒロキを知っている!? ヒロキと入れ替わるようにバイトを始めたリュウヘイなのに……。
「あ、荒川さんのことは情報だけで、実際に会ったことはない」
マナカの表情から何かを読み取ったのか、リュウヘイが補足をする。そして彼は徐々に語気を強めながら言葉を続けた。
「異性の先輩と普通に仲が良かっただけでしょ!? 好きだったとしても、やましいことは何1つしていないんだから、自分を責めないで!!」
「……………………」
目を丸くするマナカ。
「荒川さんをカノジョさんから奪うつもりなんかなかったんでしょ!?『連絡先すら交換していなかった』って聞いている。キチンと線を引いていたじゃない!?」
「…………星名くん、ありがとう」
マナカはリュウヘイに向かってニッコリ微笑む。
「い、いや………なんかゴメン。俺、またアツくなって、独りよがりの『演説』しまくった……ホント悪いクセだよな」
リュウヘイは頭を搔く。
「ううん、星名くんの気持ちは嬉しかった。でもね、私は連絡先を交換しなかったからこそ、荒川さんにとって『魔性のオンナ』だったと思う」
「えっ? どういうこと」
「自分はそれを盾にとって、あとは好き放題近づいたんじゃないか……って思うの。勿論、その当時はそんな『計算』はしていなかったけど、無意識に自分の狡さが働いていた気がする」
「そんなの……ただのこじつけだよ」
リュウヘイの言葉にマナカは首を横に振った。
「昔ね、浅野さんがみんなの前で荒川さんに『LINEの交換をしよう』って言ったことがあるの。結果は『NO』だったけど、荒川さんはキチンとした理由をサラッと言って、彼女を傷つけないように配慮していた。その時に私は『あー、危なかった』って思ったんだ。その時点で浅野さんを踏み台にしたっていうことだよね? だから私は彼女から嫌われて当然だと思うし、自分は『美味しいところを取る』狡いオンナだと………」
「今泉さん、だから自分を責め過ぎだよ!!」
リュウヘイが割って入る。
「………………」
「それは荒川さんの『選択権』だよ。選ぶ権利は普通にみんなが持っている」
「…………………」
こんな大人びたリュウヘイを見るのは、ストーカー事件で助けてもらった日以来だ。今は哀しいハズなのに、嬉しい気持ちが乱入してきてアタマがおかしくなりそうになる。
「今泉さん、だから辞めるなんて、もう言わないで」
「…………でも、証拠がない」
生じたばかりの嬉しい気持ちを、むりやり振り払いながらマナカは呟いた。
「証拠?」
「うん、その時の自分が、本当に荒川さんを『純粋に』好きだった……っていう証拠。『ただ見ているだけでいい。カノジョさんから奪うつもりはなかった』って、堂々と言える証拠。自分のことなのに、今となっては、あの時の気持ちをハッキリ断言することが出来ない」
「………………」
「もしも……少しでもそんな風に思っていたのなら、私はあの場所でGESSに就く資格はない」
「今泉さん、だから自分のことを責め………」
「ねぇ、星名くん」
今度はマナカがリュウヘイを遮る。
「な、何!?」
「そもそもいるのかな? 自分の恋心を封印して、相手の幸せ《だけ》を願う人なんか」
「サトシがいるでしょ?」
「あっ………」
マナカは口を押さえた。
そうだった! 2人の共通の友人である井原サトシは、幼馴染の山田カエデと付き合ってはいるが、それは表向きの姿なのだ。小学生の頃からカエデを想っていたサトシ。そんな彼はイジメのターゲットになったカエデを守る為に、彼氏という名の『番犬』になることを自ら提案した。カエデに好きな男子がいるのは知っている。
「ソイツがカエデに振り向いてくれたら、俺は喜んで『契約』を解消する」とサトシが言っていたことをマナカは思い出した。
「ゴメンナサイ。身近にいたね」
「でしょ?」
「うん」
「今泉さん」
「ん?」
「………………………オレモデス」
「えっ? 今、何て?」
「俺も、自分の想いは通じなくていいから、好きな女の子には幸せになって欲しい」
「そうなんだ? 前に言っていた中学時代に同級生だった女の子だよね?」
むりやり笑ったが、ちょっとだけ、胸が痛い。
「違う」
「えっ?」
「あれは嘘」
「嘘!?」
「あの時は誤魔化すために、慌てて嘘つきました。俺が……俺が本当に好きだと思う人は、今、目の前にいます」
「えっ?」
一瞬だけ時が止まった。
「つまり、そういうこと……です」
「そそそそソレって……」
リュウヘイは自分の身体を斜めに動かし、マナカ側に向けてしっかりと座り直した。そしてゆっくりと、そして丁寧に言葉と言葉を繋ぎ合わせる。
「今泉マナカさん、俺は入学式から君のことが好きでした。同じバイト先を選んだのは、今泉さんと少しでも距離を縮めたかったからです。でも、付き合ってなんて言うつもりはありません。理由はサトシと一緒です。今泉さんには、またGESSに挑戦して欲しいと思っています。それと今泉さんが本当に好きだと思う男子に気持ちが通じて欲しいとも……。ただそれだけです」
「星名……くん?」
2人の間に、さっきよりも暖かい風が流れていく……。
好きな男の子が、自分のことを好きだと言ってくれた。
こんな嬉しいことがあるだろうか。
でも……
このタイミングで両想いだと分かったことに、自分は何らかの罰を感じる。
1つのカップルの仲を、壊したかもしれない自分が、ここで浮かれるワケにはいかないのではないか!?
少なくとも、あのバイト先で幸せな気持ちになるのは、ルール違反ではないのだろうか!?
正解が解らない。
だから……
「星名くん」
「何?」
「告白してくれてありがとう。でもゴメンナサイ。私は荒川さんのことは整理できていないし、星名くんを友だち以上には思えないから」
だから自分は彼に嘘をつく。
「うん、それは大丈夫。……解っていたことだし。俺の願いは今泉さんの幸せだから」
リュウヘイは吹っ切れたような笑顔を向ける。
「ありがとう」
マナカはこの言葉に『ホントハスキダヨ』という気持ちを乗せた。
本当は想い合っていた。その事実だけで充分だ……と無理やり言い聞かせながら。
リュウヘイの告白から一週間が経った。そろそろサヨコの元へ向かい、今度こそハッキリさせようと思っていた時、スマホに彼女からの連絡が入る。
『マナカぁ、悪いんだけどよ、ちょっと急ぎで確認したいことがあってさ、明日の16時半にスタッフルームに来れないか?』
……と。
「は、はい」
何を確認したいのか分からないが、ちょうどいいタイミングだと思い、マナカはオッケーした。
(自分で決めたことなのに、寂しいな)
女子のトラブルには見舞われてしまったが、あの店は自分にとっては最高の居場所だったと改めて思う。楽しい思い出は数えきれないし、色々な勉強もさせてもらった。大好きなスタッフに囲まれて本当に幸せだった。
サヨコ、クマさん、店長……ヒロキにケイイチ
そして……
(星名くん)
リュウヘイのことを考えると、未だに目が潤んでしまう。告白の件もそうだが、彼は『辞めないで!』と必死に止めてくれた。
(本当にごめんなさい)
そして次の日
店に着いたマナカは、スタッフルーム入り口に向かい、暗証番号を押す。どうやら自分が休んでいる間に扉は修理されていたようだ。
「失礼します」
中にはサヨコしかいないハズだった。『他のみんなのことは遠ざけるつもりだから、ゆっくり話そ♥️』と言っていたから。
「どうぞ」
しかしそこにいたのはサヨコではなかった。
「えっ?」
そして他のスタッフでもない。
「今泉さん、久しぶり」
『スタッフだった人』ではあるが……。
「荒川……さん?」
そう、スタッフルームにいたのは、元スタッフの荒川ヒロキだった。ヒロキは読んでいた本を閉じ、マナカに向かって笑顔を向ける。
「元気だった?」
「はい、あのぉ……どうして荒川さんがここに? もしかして、サヨコさんから頼まれたんですか?」
サヨコが「ゆっくり話そ♥️」と言ったのは、『サヨコ自身と』ではなく、『ヒロキと』という意味だったことが、ここで判明した。
「サヨコさんは、この場所を提供してくれただけ。『今泉さんと話をしたい』って、俺からあの人にお願いをした」
「????」
ますます意味が分からない。
「星名リュウヘイくん」
「え!?」
何故ヒロキの口からリュウヘイの名前が出るのだろう!? 2人に接点など全くないのに。
混乱しているマナカを温かい目で見つめながら、ヒロキは話を続けた。
「今泉さん、話は彼から全部聞いたよ」
《7》↓に続きます。
