【noteでBL16弾】勝手に番外編!
「おいおい、かし子遅刻かよ。もう27日だぞ」と思われたかもしれませんが、違うんです。
番外編なので、投稿日をずらしたんです!!
さて、どうしてこういうことになったのかというと、1作目を書き終えるか書き終えないかという頃まで話は遡ります。
ちなみに1作目はこれです🔽
かし子は「何かひねった作品を書けないか」と考えました。
16弾のお題は「激重感情仄暗不穏」「耽美」。
分解すると
「激重感情」
「仄暗」(若干忘れていた)
「不穏」
「耽美」
になります。
詳しくはこちらをご確認頂きたい。
ずっと「耽美小説書かなきゃ!」と思っていたけど、お題が「耽美」なだけで、別に耽美小説を書かなくていいのではないか? ということに気付いたのです。
頭良い!!
(大馬鹿)
これならいつものコメディのノリでいける!!
というわけで、前回のnoteでBL企画やらスペースやらで「2025年の信夫見納めです」とか言ってましたが、信夫おかわりです。
復活の信夫。
でも、「これでいいのか?」感がぬぐえないので、番外編として出すことにしました。
まずはいつもの人物紹介を。
■市媛 信夫(いちひめ しのぶ)
大学生。
背が高くて体格も良くて顔も悪くないけど年齢=恋人いない歴な男の子。
性格は真面目でお人好し。
久我のことが好きらしい。
いつも不憫。
■久我 輝(くが あきら)
大学院に通う傍ら非常勤講師をしている。
初心な信夫をからかって遊んでいる悪いお兄さん。
来るもの拒まず去る者追わずで貞操観念が緩い。
いつもマイペース。
■市媛 遥夏(いちひめ はるか)
高校2年生。
信夫の弟で市媛家の末っ子。
友人を優先して兄をないがしろにする行動が見られるが、一応兄弟仲は良い。
基本的に常識人。ただし信夫がいる時はツッコミ役を放棄する。
■音無 響(おとなし ひびき)
遥夏のクラスメイト。通称「少年」
人の話を聞かないし、人のためにとった行動は大体予想外の方向へいくけど、顔と声の可愛さで全て許されている。
体は小さいけれどよく食べる。
■千影 優(ちかげ ゆう)
遥夏&響の担任の英語教師。
理由があって響と一緒に住んでいる。
柔らかい雰囲気の裏でヤンデレ気質が見え隠れしているが、顔と声の良さで全てごまかせている。
ではでは、早速本編をどうぞ!
☆**‥…★…‥**☆◆☆**‥…★…‥**☆◆☆**‥…★…‥*
もうすぐ日が落ちそうな、薄暗くなった冬の夕方。
俺は所用を終えて帰宅するところだった。
最寄の駅につき、改札を出たところで、めっちゃ目立つ金髪の男性の姿を見つけた。
いや、金髪じゃないんだよな。
薄い茶色?
この際どっちでもいい。
いつもはこの辺りで少年に出会うのだが、今日は違った。
さすが特別企画だぜ。
過去作を読んでいる読者様ならわかるだろう。
そこにいたのは、ちーちゃんこと千影さんだ。あいかわらず威圧感がすごい。
俺はこっそり逃げようと思ったのだけど、まぁ、そうなると話が進まないもんな。
普通に見つかった。こっち来る。怖い。足動かない。
何で少年いないんだよ!!!
と俺が心の中で叫ぶと同時に、「音無くん、見ませんでした!?」と切羽詰まった声が聞こえてきた。
はい、不穏~!
少年がいないとか、絶対良くない状況じゃん。不穏にも程がある。
もうすでにお題の1つはクリアした。早い。
「いや、見てないですけど……連絡つかないんですか?」
「スマホの電源切ってるみたいなんですよ。GPS付きのぬいぐるみも家に置いたままで」
「少年がいつも持ってるぬいぐるみ、GPSついてたの!?」
説明しよう。
少年はいつもカバンにキーホルダーと言い張るにはデカいぬいぐるみをつけているのだ。
独特な見た目のぬいるぐみだったので、どこで買ったのか聞いたことがある。少年は「ちーちゃんにもらったの。可愛いでしょ? ボクのお守りなの。お化けも近寄らないんだよ」と何とも不穏なことを言っていた。
はい、ここでも不穏きた。
おそらく、千影さんが言っているのはそのぬいぐるみのことだろう。
肌身離さず持っているように言われてるって聞いた時点で「怪しい」と思っていたが、まさかGPS仕込んでいたとはな。
世の中物騒だから、わからなくもないが……。
「困ったな……あのぬいぐるみに盗聴器も入ってたのに……」
やべぇ。
GPSどころの騒ぎじゃなかった。
少年、早くぬいぐるみ捨てろ!!!
「高校生だし、夕食の時間になったら帰ってくるんじゃないですか」
「あんな可愛い子が一人で歩いてて、無事だと思います?」
ジロリと睨まれた。
ヒェッ。怖っ!
「いえ、しょっちゅう一人で歩いてますけど……」
駅前とか、わりとウロウロしてるの見かけるけどな。
千影さんの家は駅から近いから、あの辺りが行動範囲なんだろうけど。
「あの子、学校の敷地から一歩出た直後に不審者に声掛けられるんですよ」
「何の速さを競う競技なんでしょうね、それ」
「どこで何してるのかわからないから、心配過ぎる……」
「ヤバいっすね……」
俺が発した「ヤバいっすね」は、少年の可愛らしさとか、少年のことになるとIQが非常に低くなる目の前のイケメンとか、不審者とか、いや、目の前の男も十分不審者だな、とか、色々なところにかかっている。
日本語は素晴らしい。
主に千影さんの少年に対する愛情がヤバいのだが。
あ、これ「激重感情」のお題も達成したかもしれん。
1人で2つもお題消化した。すげぇな、この人。
このままスルーしてもいいのだが、少年がいないっていうのは確かに心配ではある。
千影さんは心配し過ぎな気もするが、少年が可愛いのは本当だし、変なオッサンに声掛けられてる姿も目撃したことがある。普通に撃退してたけど。少年が何の躊躇もなく目潰ししてたの、俺見たからな。
一応、少年のクラスメイトである弟にも聞いてやるか、と思ったところで、俺のスマホが震えた。
ちょうど弟からのメッセージが届いたようだ。タイミングが良いのか悪いのか。
「……はい?」
俺は弟からのメッセージを読んで固まった。
……家に帰りたくないな……。
昼過ぎからずっと、音無が俺の家に居座っている。
目の前にはコイツがやけ食いしたルマンドの残骸。
空になったパッケージが机の上にたんまりと置かれている。
でも、クラスメイトはまだ黙々とルマンドを食べていた。たくさんあるからいいけどさ、食べ過ぎじゃね?
「おい、お前そろそろ帰らないと先生心配するぞ」
12月の夜は早い。
17時ともなれば外は真っ暗だ。良い子は帰る時間だ。
「いいの! 心配させてるんだもん」
「お前はメンヘラの彼女か。何で家出したんだよ」
俺が質問すると、ルマンドを食べる手が止まった。
「……言わなきゃ駄目?」
「言わなくてもいいけど、気にはなるからな。俺の家にいるわけだし、聞く権利あるだろ」
大した内容じゃないことは予想がつく。
でも、話を聞いたらこいつも気が済んで帰るかもしれないし。
「んーとね、ちーちゃんに本を取り上げられたの」
やはり大したことじゃなかった。
そんなことで家出するな!
「学校じゃないんだから……何読んでたんだよ。いつものグロいやつか?」
「『月刊耽美の世界』の12月号。特集は『初めての経験』」
すげぇ、書籍名にお題混ぜてきやがった。
こんな雑なお題回収があってたまるか。
「すげぇもん読んでんな、お前。タイトルからして教育に良さそうな印象は全くないけど、何が駄目だったんだ?」
「ボクにはまだ早い、って言われた」
「やっぱりそういう本だったか……」
「でも、えっちなことしたいの」
「はい、アウト!!!」
前回からセンシティブ発言が多すぎる!!!
「かし子2026はエロも書けるようにしたい!」なんてなみさんと話してたのは知ってるけど、違うだろう。そういうことじゃないだろう。
「BLなのに駄目なの?」
音無が不思議そうな声をあげるが、駄目に決まってんだろ!
ここ、noteだぞ!
「お前、身近から犯罪者出すようなことするなよ? あの人、イケメン無罪で許されてるだけだからな? 今、コンプライアンス厳しいんだぞ。音無と先生が並んだ時の絵面、相当危ないからな? 鏡くらい家にあるだろ。自分の姿見てみろ。ほぼほぼ幼女だぞ。」
「もうすぐ成人だもん!」
いや、成人しないんだって!
この小説、サ〇エさん方式なんだって!
ちゃんと時間が進んでる文フリ版はともかく、こっちのシリーズは年齢進まないんだよ!
音無もわかって言ってるんだろうし、敢えて指摘はしないでおこう。
「まぁ、そういうのに興味あるお年頃ってのはわかったよ。でも、そういう描写がある本って年齢制限あるんじゃないのか? お前、よく買えたな」
「本屋さんで普通に買えたよ。だから、早くないの! 普通に読んでいいお年頃なの!」
「んん……まぁ、そうだな、うん」
BL漫画、本屋で買えるもんな。
クラスの女子とか、たまに男子とかも読んでるしな。
だから音無の怒りはわかる。「皆読んでるもん!」ってところか。
だが、千影先生の気持ちもわかるのだ。
確かに俺たちは17歳だが、おそらく千影先生の中で音無は赤ちゃんみたいなものなのだろう。
赤ちゃんは言いすぎか。
小学生くらいかな。
それで余計に気になってしまうのだろう。
成人向けのエロ本じゃなくても、そういう性的な描写がある本を読ませたくないのではないか。
「で、その本、読んだんだろ? 読んだ感想は?」
「何とかなりそうだった」
「やべぇ感想だな」
何とかなるもんなのか!?
あれってフィクションだからなぁなぁになってる部分とかあるんじゃねーの?
俺たちもフィクションの存在だけどさ!
「でも、おしりの穴見られるのは恥ずかしいから嫌」
「それ克服しないと何ともならないんじゃないの!? そこ使うんだろ!? 見ないでしろって言われて先生も困ると思うぞ!?」
男同士でどうするのかはよくわからないけど、多分そうだよな!?
「ちょっと待って」
「どうした急に」
突然の真顔。
何だ、何があった。
「さっきはスルーしちゃったけど、ひめちゃん、何でボクの好きな人がちーちゃんだってわかるの? エスパーなの? エスパーだとしたら、伊藤と魔美、どっち?」
「どっちでもねぇし、若い人知らないかもしれないし、そもそもエスパーじゃなくてもわかるからな!? 多分、全世界の人間がお前の好きな人は千影先生だって知ってるよ!?」
「えっ……世界中の人がエスパー?」
「違う、そうじゃない。俺の話聞いてた?」
ああ、もうツッコミが追いつかない。
兄貴、早く帰って来てくれ!
俺が送ったメッセージに、信夫が早く気づいてくれることを祈った。
何か変なテレパシーを受信したような気がするが、それはそれ。
俺は家に少年がいる旨を保護者に伝え、足取り重く家に帰ることにした。
千影さんを伴って帰宅すると、パタパタと足音を立てて少年が出迎えてくれた。
「ひめちゃんのお兄さん、おかえりなさーい! お邪魔してます」
飼い主の帰宅に喜ぶ犬みたいだ。
まぁ、普通にしてれば可愛い。頭の1つでも撫でてやりたい。でも、今日は訳が違う。少年、君が始めた物語だからちゃんと終わらせてくれよ。
「お兄さん、深刻な顔してどうしたの……あっ」
ニコニコしていた少年だが、俺の後ろに控える人物に気がつくと顔色を変えた。露骨過ぎる!
「や、やだ! 帰らない! ひめちゃーん!」
「やめろ、俺を巻き込むな。ほら、お迎え来てるんだから帰れ」
「ここでボクが帰ったら、このお話終わっちゃう!! まだ仄暗のお題回収してない!!!」
「メタなこと言ってないで帰れ! 仄暗は何か適当に入れとけばいいだろ! なみさんも、これ書いてる女も、2人して忘れてたんだぞ! 最悪なかったことにすればいいだろ! それにさっきの耽美なんて雑にも程がある使い方だったじゃねえか!」
今のでお題回収したも当然だけどな。
この小説を書いてる女は「小説内でお題の単語を出しとけばいいだろ」くらいにしか考えてない。
俺の視線の先では遥夏に加勢して、千影さんが少年をなだめている。
「先生と一緒におうち帰ろう?」
「やだ!」
弟はソファーにしがみつく少年をはがそうとしている。
「帰れ! ルマンド持って帰っていいから!」
「家にたくさんあるもん!」
何だこの会話。
子どもだ。子どもの喧嘩みたいになっている。
これ、収集つかないよなぁ。
俺の家なんですけどね……。
この状況を直視したくなくて遠い目をしていると、ポケットに入れていたスマホが鳴った。
これは電話だな。
誰だ、こんなタイミングに。
バイトの呼び出しとかだったら、バイト行っちゃおうかな。
……久我先生だ!
俺は慌てて画面をタップした。
『あ、信夫くんメッセージ見た? 今から飲みに行こうよ』
そういえばさっきも何かスマホ震えてたけど、メッセージだからいいやと思って後回しにしてた!
見れば良かった!
「久我先生! 助けて!!!」
『は?』
ことの成り行きを説明すると、めんどくさそうな返事が返ってきた。
『無理だよ、無理無理。ほっときなよ。頑固の自己中×2じゃん。誰も入り込む余地ないよ』
「いや、俺たちの家に居座られても困るんですけど……」
頑固の自己中って、この作品の登場人物ほぼ全員当てはまりそうなところも怖い。
『あのバカップルが揉めてるって何があったのさ』
「わからないけど、少年がご機嫌ななめ」
『あー……僕、心当たりあるかも。どうしようもないよ』
「そんなこと言わずに! と、とりあえず来て!」
『しょうがないなぁ……』
俺は知っている。
何だかんだで久我先生は面倒見が良い。というか、年下に甘い。
本当にすぐに来てくれた。
「こんばんは、響くん」
「久我先生!」
久我先生の姿を見て、少年は嬉しそうな顔を見せた。
少年、何だかんだで久我先生にも懐いてるよな。
ちーちゃんは隣で複雑そうな顔をしている。少年よ、いいのか。大好きなちーちゃんにそんな顔させて。
「響くん、ちゃんと千影先生に言った方がいいよ。千影先生、人間の感情ないんだからちゃんと言わないと伝わらないよ」
ひどい言いよう!
「……」
少年は暗い顔で俯いてしまった。
なんか痛々しい。
同情心を誘うというか。
「エロ本没収されて怒ってたんじゃねーの?」
「お前は黙ってろ!」
口出しした遥夏の口を押えた。
そんなことでここまでこじれるわけないだろ!
というか、少年エロ本持ってたのか。多分、エロ本じゃないんだろうけど。
「……千影先生が女の人と一緒にいて、嫌だったんだよね」
久我先生が優しい声で少年に尋ねた。
おお、何か先生らしいことをしている。
そして久我先生の言葉に千影さんは何か思い出したらしい。
「ああ、親に勝手に組まれてたお見合いですね。僕が忘れてて気づいたら約束の時間から数時間過ぎてたんです。これはもうドタキャン扱いだろうと思ったんですけど、言われた場所に行ったら、相手がまだ待っていまして。僕の与り知らないところで試合続行してたという。仕方なく駅まで見送りました」
ひどいな!!
お見合い相手、可哀想!!
「それが嫌だったの?」
千影さんの問いかけに、少年はこくんと頷いた。
いや、これ女性の方もとんだとばっちりだろう。
確かにオシャレした女性が隣にいたらデートに見えなくもないけど、隣に並ぶ男に愛情も優しさもゼロだからな。
お見合い相手の女性は良い相手に巡り合って欲しい。
「早く大人になりたかったの。誰かにちーちゃん取られたくないの……」
それでどういう思考回路で家出することにしたのかはわからんが、まぁ、何か嫌で突発的に家を出ちゃったんだろうな。
「エロ本関係なかったのか……」
「お前、何で俺がいる時はボケに回るの?」
俺はシゴデキだから、横で呟く弟にもツッコミを入れといてやる。
まぁ、エロ本関係なくはないよな。大人の読む本って感じだもんな。
少年が読んでたのが本当にエロ本だったのかは確かめようがないが。
あと、読んでも大人になれないと思うけど。
「……馬鹿だなぁ」
そう言って、千影さんがぎゅっと少年を抱きしめた。
おぉ、ちゃんとBLしてる!
年齢的に事案だけど、これはBLだ!
少年の外見が幼いから犯罪臭がすごい!
ちなみに設定では9歳差だし、教師と生徒だし、色々ヤバいけど、空気が甘い。耽美だ!
いや、耽美か?
耽美っつーか、何だこれ。
うーん……耽美だな。耽美ってことにしておこう。
なんかキラキラしたエフェクトとか見えるし、花とか画面に咲いてそうだし。
少年の表情は見えないけど、千影さんはめっちゃ良い笑顔をしている。
王子様スマイルだ。
とにかくビジュが良い。
小説だからお見せできないのが残念だが、読者の皆様は想像してくれ。
パタリロとかの花とか蝶が舞ってる画面で。
やっぱりこの作者の中の耽美ってパタリロなんだな。
良かった、耽美のお題消化がさっきの雑な書籍名だけじゃなくて。
「大人にならなくてもいいんだよ。音無くんが子どもでも大人でも、先生一緒にいるよ。そんなに信用ない?」
「うん」
「「「「……え?」」」」
即答だった。
その場にいた少年以外の全員がぽかんとしている。
マジかよ少年。
ここ、絆されて仲直りする場面じゃないのかよ。
その場が凍り付いた。
さっきまでフォローしていた久我先生も、もう完璧に「これは無理」って顔をしている。
千影さんもショック受けて固まってるし!
「2度あることは3度あるの」
ぷいっと少年は顔を背けた。
めっちゃ怒ってる。もしかして、抱きしめられた時も拗ねた顔してたんかい。
っていうか、このお見合い騒動2度目なのかよ!
(作者の声:2度目です)
やっぱ2回目か!
これは3回目があると疑われても仕方ない。
「千影先生、誠意を見せてあげなきゃ」
久我先生がしょうもないアドバイスをしていた。
「誠意ですか……」
千影さんは少し悩み、やがて決心がついたようだ。
少年の肩に手を置き、体が動かないように固定して、じっと見つめた。
まさか。
「あの、そういうのは家帰ってからにしてもらえますかね……」
何をするのか予想してしまった俺は、一応忠告をした。
遥夏がツッコミとしての役割を放棄した今、俺しか口を出せる人間はいない。
「音無くん、ずっと食べたがってたケーキあるでしょ? 1日限定10食で、朝の5時くらいから並ばないと買えないやつ」
千影さんの言葉に、少年の体がぴくっと動いた。
「……ん?」
俺が想像していたのと違う。ホッとしたけど、BL的には良くないのか。でも、俺の家で何か始まっても困るし。
「今日のケーキはクリスマス限定の苺タルトで、普段よりも倍率が高かったみたい」
千影さんはケーキの説明を続ける。おい、胃袋を掴む作戦か。そうなのか。
「先生、一緒に食べようと思って買っておいたんだよ。賞味期限、今日までらしいけどどうしようかな。音無くんが帰って来ないと、先生が1人で食べるしかないなぁ」
「食べる!」
めちゃくちゃ良い笑顔で少年が答えた。
マジか。
BLはどこへ行った。
そして少年の怒りはどこへ消えたんだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「うん!」
茶番かよ。
そう思わなくもないが、無事に解決したようで良かった。
子どもは笑ってる方がいい。
あと、千影さんの無表情はめちゃくちゃ怖いから笑っててほしい。
「よく買えましたね。音無くんに見つからないように買うの難しいんじゃないですか」
「ああ、金の力で何とか」
大人2人の会話が耳に入ってきたが、俺は無視した。
俺は知らない。まだ大人じゃない。
「お騒がせしました」
「本当にな……」
ニコニコ笑顔の少年と千影さんを玄関まで見送る。
本当に疲れた。
「そうだ、市媛くんは明日居残り授業があるのでそのつもりで」
「え!? 何で!?」
「君、この前のロングホームルームをサボったでしょう。提出物があるからね。残って終わらせるんだよ」
千影さんが遥夏に説教している横で、久我先生は少年に声をかけていた。
あ、俺だけ孤独だ。
「響くん、響くん」
「なあに?」
「早く大人になれる方法教えてあげるよ」
「ほんと?」
「うん、教えてあげるから試してみたら?」
……これは聞かなくて良いというか、聞きたくなかった会話なのだが、俺の耳にはバッチリ聞こえてしまっていた。
久我先生が少年に変なことを吹き込んでいる。
内容はろくでもないことなのだが、素直な少年は真面目に聞いていた。
もし言われた通りに少年が実行したとしても、周囲に害はないだろう。
ちーちゃんがびっくりするだけで。
そんなたわいもない、ちょっとした悪戯程度の話だ。
俺は聞かなかったフリをした。
……いや、一応忠告しておくか。
「少年、久我先生の言う通りにしたら、ちーちゃん困るかもしれないぞ。やる時は覚悟してやるんだぞ」
少年は考え込んでいる。まさか、やるつもりだったのか。
「あのね、ひめちゃんのお兄さん」
「ん?」
手招きされたので、少年の顔の高さに合わせてしゃがんだ。
俺にしか聞こえない音量で、少年が耳打ちする。
「ボクね、ちーちゃんがボクのために困ってるの、ちょっと好きなの」
内緒だよ、と笑う少年の顔はいつもとはどこか違っていて。
妖艶という言葉が頭に浮かんだ。
だが、それも一瞬のこと。
「ばいばーい」
と、軽く手を振る少年はいつも通りの幼い笑顔で、そのまま千影さんに手を引かれて帰って行った。
2人のシルエットは身長差といい年齢差といい、どう見ても事案なのだが、やけにお似合いというか、しっくりくる並びだった。
が、俺の頭からは先程の少年の言葉が離れない。
仄暗い独占欲を感じた。
……最後の最後で仄暗のお題まで回収してくるとは。
怖っ!!
そういえば、千影さんも変なことを言っていた。
遥夏からのメッセージを読み、家に戻る時までの道中のことだ。「少年のこと、大事にしてるんですね」と俺が適当な相槌を打った時の返答が印象に残っている。
「大事、ですか。そうですね、僕なりに大切にはしていますよ。泣いてるのも可愛いんですけど、やっぱり笑っていて欲しいですから。あの子に依存されていると安心しますし。……内緒ですけどね」
歪んだ愛情。
独占欲。
共依存。
「まぁ、お似合いだよな」
色んな意味で。
あと、俺が主人公だからかもしれないけど、内緒の話を俺にするのやめて欲しい。
そんな年末の夜だった。
☆**‥…★…‥**☆◆☆**‥…★…‥**☆◆☆**‥…★…‥*
ほんとのほんとに2025年ラストの信夫!
耽美でコメディできないかな? って考えながら書いてたんですけど、ちょっとお題の趣旨から外れちゃいそうだったので番外編ってことで😂
楽しんで書きました✨
お見合い騒動の1回目は三条が間に入ってくれたという設定です。
そういうゴタゴタがあって、トドメとなる事件があって、最終的に響&千影は一緒に住むようになりました。
noteでBL企画の投稿に関しては、年内はこれで終わりかな。
皆さん、2025年も素敵な作品を読ませて頂き、私の作品を読んでくださった上にありがたい感想までくださって……皆様のおかげで楽しいnoteでBL生活を送れました。
noteでBL生活って何……?
皆さんの不穏小説はゆっくり読みたいと思います。
ではでは、お時間ある方は、なみさんとの振り返りスペースでお会いしましょう♪
(後日なみさんから日時の発表があるはず!)
2026年もよろしくお願いします🙇♀️
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