7月32日~ショートストーリー【風まかせ文芸部】
(1035字)
――おはようございます。
――7月32日の『オハヨウニッポン』です。
リビングのテレビから声が聞こえた。
目覚まし代わりに、朝7時に電源が入るようにしている。
「ん?7月32日って言った?」
枕元のスマホを手に取る。待ち受け画面表示は確かに「7月32日」だ。
「まだ7月続いてたか~。ラッキー」
わたしはベッドの上で伸びをした。
7月はわたしの誕生月だ。
お気に入りのショップからバースデークーポンが送られてきた。
10%引きになるから、狙っていたワンピースを買った。
月末に新商品として、カワイイけどちょっとお高めのTシャツが売り出され、買おうかどうかすごく迷っていて、でも昨日は会社の月末処理で残業になってしまったのだ。
7月がまだ続いてるってことは、あのTシャツは買ったほうがいい、買うべきだっていうことよね。
よーし、やっぱり買っちゃおう。
わたしはベッドから降りて、寝室のカーテンを開けた。
窓の外を二度見した。
立ち並んでいるはずの近所の住宅街はなく、砂漠だった。
電柱だけが砂からぬっと飛び出していた。
視線を下ろすと、窓辺まで白い砂に埋もれていた。
わたしの部屋はマンションの3階だ。
「何これ?砂?」
遠くの街も砂に埋もれていて、ビルに飛行船のようなものが突き刺さり、煙が上がっていた。
大事故にちがいない。
それなのに、リビングから聞こえるテレビの音声は、普段と変わらない明るい音楽と、芸能やスポーツのニュースのようだ。
わたしは違和感を覚えた。
リビングにテレビを見に行く。足裏にざらりと砂の感触があった。
――お伝えしていますように、昨日7月31日、私たちの惑星は日本国侵略を目的とし、国内各地に向けてロケットを発射しました。
ロケットが着陸前に投下した砂嵐爆弾によって、人類はほぼ壊滅状態と思われます。
日本国は当惑星の領地となりました。暦は当惑星に合わせるため調整中で、当分の間7月を継続します。
ニュースキャスターは、たぶん……笑っている。
砂でできた埴輪のような顔だった。
わたしはいつのまにか膝まで砂に埋もれていた。
玄関の隙間から、窓の隙間から、砂がさらさらと流れてくる。
カワイイTシャツどころの話じゃなかった。
あのショップも埋もれてしまったのだろう。
ふと思いつき、わたしは砂に足をとられ、よろけながら寝室に戻った。
クローゼットからワンピースを取り出した。
せっかく買ったのに、まだ一度も着ていない。
値札がついたままだったが構わず身につけた。
「来週、推しのライブの時に着るつもりだったけど、もう……」
(終)
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#風まかせ文芸部 に参加しました。
お題「7月32日」を見た時、なんだか懐かしいような、見たこと・聞いたことがあるような気がしました。
実在しない日にち。
よく考えると、それはこの曲でした。
ジューシィ・フルーツが1982年に発表した「27分の恋」というアルバムに入っている「16月の渚」という曲です。
「27分」とは、大陸間弾道ミサイルが発射されてから到達して爆発するまでの時間。このアルバムは反核をコンセプトにしたものでした。
おしゃれでポップで格好いいジューシィ・フルーツの「反核」ということで目を引いたのではないかと思います。
「16月の渚」は、海辺で過ごすカップルを描いた、明るいメロディーのラブソングですが「このままもしもピカリときたら 悲しい別れはないさ」という不穏な歌詞もあり、「16月」と明確には歌われていないものの、どこか異世界のように思えます。
この曲やアルバムを思い出し、終末の物語を書きました。
(余談:ちなみに、ジューシィ・フルーツといえばボーカル&ギターのイリア(奥野敦子)さんの歌声を思い出す方も多いでしょうが、この曲はギターの柴矢俊彦さんがボーカル担当です)
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【今日の画像】みんなのフォトギャラリーから。
「砂漠」で検索。シンプルな「THE砂漠」という感じ。
この物語は、こちらのマガジンに収載しています。
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