見出し画像

なりきり音読 第2回|真似る前に、聴け――ディクテーションという武器

あなたの音読は、順番が逆かもしれない

第1回で書いた。英語は、好きな声を真似ることで身体に入る、と。
読んだ人の中には、さっそく声に出して真似してみた人もいるかもしれない。

でも、ちょっと待ってほしい。
真似るには、順番がある。いきなり声に出しても、耳が音をまだ正確に捉えていなければ、自分の思い込みを繰り返すだけになる。何十回真似ても、ずれたまま固まる。

真似る前に、やることがある。
観察だ。




社内サークルで起きたこと

以前、私が運営していた社内英語サークルで、ディクテーションを試みたことがある。

素材はネイティブの英語だった。

全員、完全にお手上げだった。
音が速い。音がつながる。音が消える。どこで単語が切れているのかさえわからない。書き起こすどころか、何を言っているのか皆目見当もつかない、という状態だった。

聞き取れなくて当然だ。ディクテーションとは聞き取ることではない。自分の耳で音の輪郭をつかみ、脳内のデータベースに蓄積する作業なのだ。

とはいえ、300点台の社会人に、いきなりネイティブの音は早すぎた。それが分かった瞬間だった。

入口が必要だと感じた。その入口として行き着いたのが、日本人俳優の英語だ。



なぜディクテーションが武器になるのか

ディクテーションとは、聴いた英語をそのまま文字に書き起こす作業だ。
ただ聴くのではない。聴いて、書く。書けなければ、もう一度聴く。それを繰り返す。

このプロセスで何が起きるか。
「なんとなく聴こえる」が、「この音はこの単語だ」に変わる。曖昧だった音の輪郭が、くっきりしてくる。音と文字が、はじめて結びつく。

真似るためには、まず音を正確に把握しなければならない。ディクテーションは、その精度を上げるための作業だ。言い換えれば、ディクテーションは「模倣の前の観察」だ。失敗すればするほど、自分が聴けていない音がどこかを知ることができる。失敗そのものが、学習データになる。




渡辺謙という正解

男性に勧めたいのは、渡辺謙の英語だ。
映画『ラスト サムライ』あの映画の中で渡辺謙が話す英語を、一度じっくり聴いてほしい。

明らかにネイティブの発音ではない。でも、カタカナ英語でもない。英語のリズムがある。流れがある。プロソディが生きている。

私はこれを、日本人が目指すべき英語発音の一つの到達点だと思っている。あの自信と威厳に満ちた話し方。まさにサムライ・イングリッシュだ。

おそらく私が実際に話す英語も、渡辺謙に近い。
そうあってほしいと思っているだけだが。

ネイティブ発音に憧れ、何年も真似し続けてきた。映画を見ながら真似するときは、かなりネイティブに近い音が出る。しかし、実際に英語を話す場面では、細かい音へのこだわりは消える。こだわっていたら言葉が出てこないからだ。

残るのはプロソディだけだ。長年体に染み込んだ英語のリズムだけが残る。それが日本語のリズムと混ざって、ちょうどいい具合になっている。渡辺謙に近い何かに。

その発音で、聞き返されたことは一度もない。聞き返されるのは発音ではなく、内容についてだけだ。渡辺謙の英語は、完全に通用する。



菊地凜子という証明

女性に勧めたいのは、菊地凜子だ。
『パシフィック・リム』での英語は素晴らしかった。日本人というよりネイティブに近い。商業映画である以上、観客が聞き取れなければ成立しない。しかも俳優だから、演技もしている。気持ちも込めている。

日本人の英語が英語圏で完全に通用するという、これ以上ない証明だ。
他にも好きな日本人俳優が海外映画で英語を話しているものがあれば、それを使えばいい。自分で探してほしい。好きな声を自分で見つけることが、なりきり音読の出発点でもあるから。




素材の条件は、たった二つ

映画に限る必要はない。TEDトークでもいい。YouTubeでもいい。
ただし、条件が二つある。これは絶対に外せない。

一つ目。好きな声であること。

真似したいと思える声でなければ、続かない。没入できない。好きだから何度でも聴ける。好きだから細かい音まで耳が拾う。好きであることが、すべての前提だ。

二つ目。正確なスクリプトがあること。

ディクテーションは音と文字を照合する作業だ。正確なスクリプトがなければ成立しない。映画なら英語字幕が必須だ。YouTubeの自動文字起こしは信用できない。本人が作成した字幕か、公式字幕かを確認してほしい。TEDトークは公式の英語字幕があるので信頼できる。

好きな声で、スクリプトがある。この二つさえ満たせば、素材は何でもいい。




今日やること

渡辺謙でも、菊地凜子でも、自分が「かっこいい」と思う声を一つ決める。
その音源の1分を、英語字幕付きで用意する。

まだ声に出さなくていい。ただ聴いて、聴こえた通りに書いてみる。書けない部分が出てくるはずだ。そこがあなたの耳の死角だ。
その死角を知ることが、第2回の目的だ。



次回は、具体的なディクテーションのやり方に入る。どこから始めて、どう繰り返すか。手順を一つずつ書く。


◀ 前の話:[なりきり音読|第1回 俳優になりきれ]


いいなと思ったら応援しよう!