【JASP実践・操作編】「応力は測れない、でも原因は知りたい」—— 迷宮入りの不良品問題を、統計学(判別分析・ロジスティック回帰)で突破する逆転劇
▶️ はじめに:なぜ「判別分析・ロジスティック回帰」が必要なのか
前回の【物語編】では、直接測定できない「応力」が原因で起きた部品割れトラブルを、手元にある設計パラメータと「良品・不良品」の結果データから、統計的アプローチで解決するストーリーをご紹介しました。
今回は、その続編となる【操作編】です。
無料の統計ソフト「JASP」を使い、実際にどのようにして「良品と不良品を分ける境界線」を視覚化し、真の要因(重要なパラメータ)を特定するのか。その具体的な手順をステップ・バイ・ステップで解説します。
製造現場や研究開発において、「結果はわかっているが、何が原因でそう分かれたのかが直接測定できない」という壁にぶつかることは珍しくありません。
そんな時、諦める前に試していただきたいのが、JASPの強みを最大限に活かす「2段階アプローチ(視覚的探索 + 定量化)」です。特定のモジュール特有のエラーを回避しつつ、現場で使える超実践的なテクニックを公開します。
🚧 第1章:データの準備とJASPの「お作法」
まずは、現場から上がってきたデータをJASPに読み込ませましょう。
用意するデータは、35個の試作品に関する「4つの設計パラメータ($${X_1, X_2, X_3, X_4}$$)」と、耐久試験の結果である「良否判定(Good / No good)」の計5列です。

💡 実務のワンポイント:データ型の確認
読み込んだら、良否判定の列(ここでは `Judgment` とします)のアイコンを確認してください。これが定規のアイコン(スケール)になっていると分類分析ができません。アイコンをクリックして、3つの玉が並んだ「名義尺度(Nominal)」に変更しておきましょう。
👁️ 第2章:【視覚的探索】線形判別分類で「境界線」を可視化する
いきなり数式をこねくり回すのではなく、まずはデータをグラフィカルに俯瞰し、「どのパラメータが怪しいのか」を視覚的にアタリをつけます。
ここで使うのが、JASPの「機械学習(Machine Learning)」モジュールです。
上部メニューの `Machine Learning` > `分類(Classification)` > `線形判別分類(Linear Discriminant Analysis)` を選択します。
ターゲットに `Judgment` を入れます。
**特徴量(Predictors)**に $${X_1, X_2, X_3, X_4}$$ をすべて入れます。
右下の「プロット」メニューを展開し、「決定境界行列(Decision Boundary Matrix)」にチェックを入れます。

右側にカラフルな散布図が表示されます。$$X_1$$ や $$X_4$$ が絡む図では良品と不良品が入り乱れていますが、「$${X_2}$$ と $${X_3}$$」の図だけは、2つのグループが境界線で綺麗に分断されています。 これで、「要因は $${X_2}$$ と $${X_3}$$ だ」という強力なアタリがつきました。
⚠️ JASPのエラーを回避する「5%の裏ワザ」
機械学習モジュールは厳密な予測モデルを作る仕様のため、手元のデータを全数(100%)使って解析しようとすると「テスト用のデータがない!」とエラーを出して止まってしまうクセがあります。
これを回避するには、設定の「データ分割設定」>「ホールドアウトテストデータ」のサンプルを「5%」に設定してください。これでJASPがエラーを吐かず、美しいプロットを描いてくれます。
🎯 第3章:【定量化】ロジスティック回帰で真因を証明する
アタリがついたところで、今度はエラーの心配がない「ロジスティック回帰」を使って、しっかりと数式化(定量化)していきましょう。
上部メニューの `回帰(Regression)` > `ロジスティック回帰(Logistic Regression)` を選択します。
従属変数に `Judgment` を入れます。
共変量に $${X_1, X_2, X_3, X_4}$$ をすべて入れます。
ここからが、重要なテクニックです。
このままだと4つすべての変数で計算されてしまうので、設定パネルの「方法(Method)」を「入力(Enter)」から「ステップワイズ(Stepwise:変数増減法)」に変更してください。

JASPが自動的に影響度の低い $${X_1}$$ と $${X_4}$$ を切り捨て、結果表(Model 2)には見事に $${X_2}$$ と $${X_3}$$ だけが残りました。 先ほどのプロットでの視覚的な直感が、統計的に正しかったことが証明された瞬間です。
🔧 第4章:プロの仕上げ —— 符号の調整と的中率の確認
最後に、出力された数値を解釈しやすくするための「仕上げ」を行います。
① 符号を合わせる(参照レベルの変更)
デフォルトのままだと、「不良品(No good)になる確率」を計算してしまい、係数のプラスマイナスが想定と逆になることがあります。
これを直すには、設定画面の一番上、「従属変数」の枠の中にある `Judgment` をクリックし、下に現れる 「参照レベル(Reference Level)」を `No good` に変更します。これで「良品になる確率」の計算に切り替わります。
② 標準化係数で比較する
設定パネルの「統計量」から「標準化係数」にチェックを入れます。これで変数の単位が揃い、フェアな影響力の比較ができるようになります。
③ 100%の的中率を証明する
同じく「統計量」> パフォーマンス診断の中にある 「混同行列(Confusion Matrix)」 にチェックを入れます。

結果パネルの表を見ると、良品と不良品の予測が見事に現実と一致し、誤判別が「0」——つまり【100%の的中率】であることが証明されました。
今回の解析結果のファイルを添付します。参考にしてください。
🏁 結論:ツールに振り回されず、使いこなす
いかがだったでしょうか。
今回は、あえて「機械学習モジュールのプロット」と「ロジスティック回帰の定量化」という2つの機能を横断して使いました。
ひとつの機能にこだわってエラーと格闘するのではなく、「グラフで視覚的に捉え、別のモジュールで正確な数値を出す」という柔軟なアプローチこそが、現代のデータ分析ツールを現場で使いこなす最大のコツです。
皆さんの現場でも、「結果しかわからないけれど、何が原因か知りたい!」という課題があれば、ぜひ今回のJASPのテクニックを試してみてください。
📗 参考文献
※この記事にはAmazonアソシエイトリンクが含まれています
(1) 猪原 正守 (著):問題解決のためのQC手法の組合せ活用 日科技連出版社 2016
(2) 清水 優菜 (著)、山本 光 (著):JASPで今すぐはじめる統計解析入門 心理・教育・看護・社会系のために (KS専門書) 講談社 2022
(3) 清水 優菜 (著)、山本 光 (著):研究に役立つ JASPによる多変量解析 - 因子分析から構造方程式モデリングまで - コロナ社 2021
🎁 おまけ
本記事を動画にしたものは、以下のリンクで視聴できます。よろしければ、ご視聴ください。
