見出し画像

【JASP実践・物語編】「応力は測れない、でも原因は知りたい」—— 迷宮入りの不良品問題を、統計学(判別分析・ロジスティック回帰)で突破する逆転劇

📚 はじめに:専門書の事例を、現代の無料ツールで再考する


製造現場において、新製品の開発終盤で発覚する「不具合」は、プロジェクトの根幹を揺るがす重大な壁です。原因究明のためにデータを集めようにも、物理的な制約で「知りたい数値が直接測れない」というジレンマに陥ることは珍しくありません。

本記事では、品質管理・多変量解析の専門書の中で紹介されている「試作試験における不良要因の分析」の事例を題材にします。

当時のプロフェッショナルたちが苦労して導き出した「真実」を、現代の無料統計ソフト「JASP」の直感的な操作でいかに鮮やかに、そして瞬時に可視化できるか。そのプロセスを「物語」として追体験してみましょう。



💥 1-1. 現場を襲った突然の「部品割れ」と、測定不能の壁


舞台は、自動販売機用の冷熱ヒートポンプに用いられる重要部品の開発プロジェクトです。
設計チームの尽力により、コスト低減を目的とした「小型化・軽量化」を実現すると同時に、騒音レベルを飛躍的に向上させた新製品が形になろうとしていました。

しかし、いざ量産試作を行い、連続運転による耐久試験を実施したところ、壁面摩擦による「部品割れ」という致命的な機能不具合が発生してしまいます。

原因を特定するためには、割れが発生する部分の「応力(ストレス)」を直接測定するのが王道です。ところが、ここに大きな壁が立ちはだかります。応力を測定するために部品表面にパッチを取り付けようとすると、「パッチの貼り方」そのものが応力値に影響を与え、値が変化してしまうことが判明したのです。

「知りたいものが、物理的に正しく測れない」。
現場は、原因究明の決定打を失い、行き詰まってしまいました。


💡 2-1. 発想の転換:「結果」から境界線を逆算する


エンジニアたちは、発想の転換を図ります。
手元にあるのは、4つの設計パラメータ($${x_1, x_2, x_3, x_4}$$)の設定値と、耐久試験の結果である「良品:20個」か「不良品:15個」かという、合計35個のデータのみ。

「応力が測れないなら、良品と不良品を分ける『境界線』を統計的にあぶり出せばいいのではないか?」

ここで登場するのが、グループの分類を予測モデル化する「判別分析」や「ロジスティック回帰分析」です。

【数式1:ロジスティック回帰のモデル】

$${L(x) = \beta_0 + \beta_1x_1 + \beta_2x_2 + \dots + \beta_px_p}$$

(※この数式の値がプラスなら良品、マイナスなら不良品と判別する「境界線」を数式で作る、という説明を添える)


👁️ 3-1. 視覚的な直感:JASPが描き出した「真実の境界線」


まずはデータを俯瞰するため、JASPの機械学習モジュールに搭載されている「線形判別分類」を用いて、グラフィカルに結果を可視化してみます。

出力された「決定境界行列(Decision Boundary Matrix)」のプロットを見ると、衝撃的な事実が浮かび上がりました。


JASPで作成した線形判別の結果

$${x_1}$$ や $${x_4}$$ が絡む散布図では、良品(ピンク)と不良品(緑)が入り乱れています。しかし、「$${x_2}$$ と $${x_3}$$」の組み合わせのプロットだけは、ピンクと緑のエリアを隔てる境界線が非常にくっきりと引かれ、2つのグループが見事に分断されていたのです。

「犯人は、おそらく $${x_2}$$ と $${x_3}$$ だ」
視覚的な直感が、解決の糸口を捉えた瞬間でした。


🎯 4-1. 定量化による証明:ロジスティック回帰が弾き出した100%の的中率


グラフィカルな分析で得られた「$${x_2}$$ と $${x_3}$$ が有効である」というアタリを、今度は統計的な数値として定量化(数式化)し、裏付けを取ります。ここでバトンタッチするのが「ロジスティック回帰分析」です。

JASPの「変数増減法(ステップワイズ法)」を使い、本当に影響を与えている変数を自動的にふるいにかけてみます。


JASPの解析結果(ロジステック回帰分析)

結果は、見事なものでした。
視覚的な直感の通り、$${x_1}$$ と $${x_4}$$ はモデルから自動的に脱落し、真の要因として「$${x_2}$$ と $${x_3}$$」の2つだけが生き残りました。

さらに、このモデルは、35個の試作品の良否をこのデータ上では、「100%の的中率(誤判別ゼロ)」で正確に言い当てたのです。応力という「直接見えない力」は、実は $${x_2}$$ と $${x_3}$$ という2つの設計パラメータのバランスとして、データの中にくっきりと痕跡を残していました。


🏁 結論:専門書の知恵を、現代の武器で使いこなす


今回の事例は、「物理的な測定が不可能な課題」に対して、統計的アプローチがいかにブレイクスルーをもたらすかを教えてくれます。

「機械学習のグラフィカルなプロットで視覚的にアタリをつけ、古典的な回帰分析でカッチリと定量化する」。
かつては高度な数式の理解と複雑な計算が必要だった多変量解析も、今や手元のPCで、直感的な操作のみで実践できる時代です。

先人の知恵(専門書の事例)と、現代の武器(JASP)。この2つを組み合わせることで、現場の課題解決力は飛躍的に向上します。

次回、【操作編】では、実際にJASPを使ってこの「線形判別分類のプロット作成」から「ロジスティック回帰」を行う手順を、ステップ・バイ・ステップで解説します。
JASP特有のエラーを回避し、鮮やかに100%の的中率を導き出すための実践的なテクニックも公開しますので、ぜひお楽しみに!


📗 参考文献


※この記事にはAmazonアソシエイトリンクが含まれています


(1) 猪原 正守 (著):問題解決のためのQC手法の組合せ活用 日科技連出版社 2016

(2) 清水 優菜 (著)、山本 光 (著):JASPで今すぐはじめる統計解析入門 心理・教育・看護・社会系のために (KS専門書)  講談社 2022

(3) 清水 優菜 (著)、山本 光 (著):研究に役立つ JASPによる多変量解析 - 因子分析から構造方程式モデリングまで - コロナ社 2021


🎁 おまけ


本記事を動画にしたものは、以下のリンクで視聴できます。よろしければ、ご視聴ください。


いいなと思ったら応援しよう!