へマムシ入道昔話④~野晒悟助はお初、徳兵衛を助けてさらに
江戸時代の庶民の楽しみは、芝居に相撲に読書。
町人は「ひらがな」が読めたので、ルビつきの本をよく読んだ。本もたくさん出版された。読書も、短い話から、ストーリーが複雑に展開する長編へと進んでいく。
合巻「へマムシ入道昔話」(1813刊)、山東京伝(1761~1816)作、歌川国直(1793~1854)画は、和泉屋市兵衛から刊行された。
上中下三編六巻の現代語訳(意訳)を六回に分けて紹介する四回目。
登場人物
○天竺徳兵衛 実は足利義教に殺された相模次郎時行の息子大日丸。へマムシ入道に蝦蟇の術を授けられる。術を完成させるために大苫さが次郎の名刀波切丸と名鏡満月を奪う。
○天満由利右衛門 大苫さが次郎の家臣。
○お初 天満由利右衛門の娘。平尾屋徳兵衛と恋仲。
○藻の花 お初の腰元。泥九郎に殺され、魂魄が池の鼈にとりつき、泥九郎を追う。
○油井駄平次 さが次郎の家臣。お初に横恋慕する。
○泥九郎 駄平次の命令でお初の手紙を奪おうとして藻の花を殺す。
○粂野平内兵衛 さが次郎の家臣。お初との縁談の話がおこる。
天竺徳兵衛に家宝の刀と鏡を奪われた大苫さが次郎はどうなるか。
第四回
十三

よみはじめ さるほどに、天満由利右衛門の娘お初は、平尾屋徳兵衛へ送った手紙を、途中で人に奪われたと聞くと、いてもたってもいられなく、
「もしもあの手紙が、粂野平内兵衛方へ伝われば、父上にどんな難儀がふりかかるかわからない。思うままにならぬ世ならば、わたし一人がいなくなれば、父上の難儀もなくなるだろう」
と、女心の愚かさで、後先も考えず、
「徳兵衛に一目会って自害しよう」
と、覚悟を決め、ある夜、我が家を抜け出し、平尾村へ急ぎ行く。
挿絵はその場面
ここにまた、平尾屋徳兵衛の家に代々伝わる正宗の名刀あり。この刀がなくては家相続ができない大切な刀なので、大事に保管していたが、少しサビが出たので、研ぎ屋へ持って行き、サビを落として、持って帰る途中で、悪者に橋の上でケンカをしかけられ、争っている間に、この刀を奪い取られ、徳兵衛はびっくりし、きちがいのようになって後を追いかけたが、あたりは夜で暗く、ついに行方が知られず、もとの場所に帰り、
「あの刀を奪われては、家相続もできない。面目なくこのままではいられない」
と、覚悟を決めて、橋の下にあった舟に飛び乗り、脇差しで自害しようとするときに、天満のお初がただ一人、平尾村へと急ぎ、この橋の上を通りしが、 次へつづく
十四

前のつづき 月の光に見えるのは、たしかに舟の中には平尾屋徳兵衛、まさに切腹しようとする様子なので、肝をつぶして舟に飛び乗り、
「こりゃまあ、どうしてなにゆえの切腹ぞ」
と、腕に取りつきとどむれば、徳兵衛は振り放し、
「やあ、お初様、拙者の自殺のその理由は、つまんで言えば、かようかよう。正宗の刀を奪われては、家相続もできないので、先祖への言い訳の切腹。そこを放してくだされ」
と、またふりきるのを、お初はなおもしがみつき、 次へつづく
挿絵
土手の上の絵、橋の上の絵は、次回の予告となっている。さあ、どう展開するか。
十五

前のつづき
「いや、殺さぬ」
「いや、放した」
と争うそのとき、難波の男伊達、野晒悟助、提灯を持った旅姿、ここへ来かかり、それと見るより早く、舟に飛び乗り、徳兵衛の自殺をとどめ、
「どういうことだ」
と尋ねけり。
そもそもこの野晒の悟助は、もとはお初の父、天満由利右衛門の家臣で、今は摂州難波に住んでいるが、久しく主人に会っていないので、由利右衛門の家をめざしてここを通ったものなり。野晒の親は、平尾屋徳兵衛の親の代に平尾屋に奉公していたので、野晒にとっては、徳兵衛、お初二人とも主筋なり。そのため野晒は、
「危ういところへ、よくやって来たものだ」
と喜び、まず徳兵衛の切腹のことを聞けば、
「正宗の刀を奪われたため」
と語り、次いで、
「さて、お初様は、夜中に一人、なぜここまでやって来たのですか」
と尋ねれば、お初は、
「その不審はもっとも。そのわけは、かようかよう」
と、文を奪われたわけを詳しく語り、
「それゆえに、わらわも自害する覚悟」
と言えば、野晒は二人の言うことをしっかり聞き、
「それならば、お初様は自宅には 次へつづく
挿絵は次々回十七場面の予告となっている。さあ、この場面はいかに。
十六

前のつづき 帰られないでしょう。とはいうものの、死ぬとは悪い料簡。恩をうけた主人の娘のあなたなれば、拙者が命にかけて、双方無事におさまるように、とっくりと考えてあげましょう。拙者がお供しますので、まずは難波にいらっしゃいませ。徳兵衛様も、自殺なぞすれば、かえってご先祖様への不孝となりますぞ。命を長らえて正宗の刀を探しだし、無事にお家を相続なさるのが孝行と申すもの。お前様も、お初様と一緒に難波へ連れて行きたいけれど、それでは二人が言い合わせて駆け落ちしたと思われ、粂野平内兵衛様が聞かれると、かえって憎しみを増すことにもなるので、ひとまず家へお帰りなさいませ。拙者はお初様のお供をして難波へ帰り、様子をみてお迎えにまいりましょう。刀の捜索は、私が命にかけてもしてあげましょう。必ず心配なさいますな」
と言いければ、徳兵衛はおおいに力を得て、その言葉に従いければ、お初は別れを惜しみながら、野晒とともに つぎへ
挿絵はまたまた予告となり、なんと十八場面と十九場面の内容となっている。いったいどういうストーリー展開になるのかと思わせる。
十七

前のつづき 難波へ行く気になれば、徳兵衛は別れを告げ、
「野晒よ、そなたを頼りにしているぞ」
と、心残して立ち上がり、我が家めざして帰りけり。
野晒悟助は、お初を連れてここを去るに、かねて油井駄平次に頼まれ、お初を誘拐しようとチャンスを待っていた悪者ども、野晒を取り囲み、
「お初を渡せ」
と叫んだり。野晒は、まずお初を物陰へ隠し、水車を後ろにして、大勢を相手に、あたるを幸い人つぶて、はらりはらりと投げつければ、あるいは水車にはね飛ばされて水に落ち、または杵に頭をつぶされ、野晒一人の働きに、水車も加わって、めぐる因果の水車、悪者どもはかなわずに、ちりじりばらばら逃げ行きて、野晒は、お初を連れて難波めざして急ぎ行く。
それはさておき、粂野平内兵衛は、波切丸の剣と満月の鏡の二品の宝の詮議のため難波に向かい、わざと浪人姿になり、天王寺村に宿をとり、おりおり人の多い場所へ行き、二品の宝の行方と天竺徳兵衛のありかを尋ねけり。
さて、油井駄平次は、「お初が駆け落ちして難波へ行った」というウワサを聞き、主君に他の理由でしばしの暇を乞い、難波に上り、住吉の連歌茶屋にて平内兵衛に対面し、一別以来のあいさつがすんで言うことは、
「あなたが縁組みなさった天満由利右衛門の娘お初は、出入りの町人、平尾屋徳兵衛と不義をしてござるぞや」
と言えば、平内兵衛、眉をひそめ、
「ほお、それにはなんぞ証拠でもござるか」
「おお、証拠もないことを言うわけがない。これはお初自筆の徳兵衛へ送った艶書、訳あって手に入りました。これを見られよ」
と平内兵衛へ渡し、
「なんとまちがいないでしょう。そのうえお初が家を出て、この難波に隠れているとのこと、あれといいこれといい、世間の口はふさがれず、貴殿の武士が立ちますまい」
と、かねて思いし意趣晴らし、言葉たくみにたきつければ、平内兵衛は手紙を収め、
「してまた、お初は、この難波で何者にかくまわれていますのか」
「おお、この難波の堂島で、その名も高き男伊達、野晒悟助というものが、お初をかくまっているとのこと、町人でも野晒は手ごわいやつじゃそうにござる」
「むむ、その野晒は聞いたことがある。衣服に白骨を染めて着ているとのこと、近づきになって、よくよく話を聞いてみよう」
と話す隣座敷に、たまたま来たる野晒悟助。それを知ると、平内兵衛、店員を使いに出し、近づきになりたいと伝えければ、野晒は、
「かしこまりました」
と、襖を開けて、こちらに来、手をついて 次へつづく
挿絵は次回の予告となっている。
十八

前のつづき 礼儀を述べれば、粂野平内兵衛、
「話に聞いていた野晒悟助に初めて会うた。見知っておくれ」
「して、あなた様は」
「おお、豊前の国、大苫さが次郎の家来、粂野平内兵衛という者」
「ええっ、そうすりゃあなた様が、お初様と許嫁の平内兵衛様ですか」
「いかにもいかにも。これを見よ、これはお初が平尾屋徳兵衛へ送った艶書。いまだ式はあげずとも許嫁、ならば武士の女房。聞けば、この難波へ逃げてきて、そのほうがかくまっているとの噂。かようの不義ある花嫁を容赦はしない。明日の晩、天王寺村のわが宿にて祝言を取り結ぶ。そのとき、そちもお初を連れて、必ず宿へ」
「いやもう、それはかねてからの覚悟、こっちから参ります」
「しかと言葉を伝えたぞ。今日の近づきの印に、おお、それそれ」
と、刀をずらりと抜き放し、そばにつんであった饅頭を刀の先に刺して、目の前にぐっと差し出せば、野晒は、びくともせず、口を差し出し食べてみる。平内兵衛は刀を納め、
「さすがは野晒、いい根性だ。町人ながら相手にとって不足なし。いよいよ明晩、待っているぞ」
と問い詰める。油井駄平次も進み出て、
「野晒が来るというなら、私も接待に参ろう」
平内「いよいよ明晩、お初の嫁入り」
野晒「とりしきるのは、この野晒」
駄平次「接待するのは、この駄平次」
平内「かならず言葉を伝えた」
と、男と男の約束。平内は、駄平次を連れて、野晒と別れ、帰りけり。 次の巻へつづく
挿絵は次回の予告となっている。
CM
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本文は次回につづく、
作品中に自分のCMを入れたりする山東京伝については、こんな記事も書いている、
