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プロレスと音楽

プロレスラーのドリー・ファンク・ジュニアの訃報がありました。
昭和のプロレス界を熱狂させ、弟のテリー・ファンクとともにザ・ファンクスとして愛された名レスラーでした。心よりご冥福をお祈りいたします。


実は私、結構プロレスが好きなんです。
小学生のころ、ジャイアント馬場・アントニオ猪木組(BI砲)の試合をテレビで観た記憶があります。当時は「テレビが一家に一台」の時代。チャンネルの主導権争いは激しく、基本的に年齢順で権限が決まっていました。下から二番目だった私にはほとんどチャンネル権がなく、プロレスが観たくても、祖父が観ている時にかろうじておこぼれで観るくらい。両親はあまり好きではなかったようです。そんな中でも、あの猪木対モハメド・アリ戦をリアルタイムで観たのは良い思い出です。

本格的にプロレスにハマったのは高校に入ってからです。当時は猪木さん率いる「新日本プロレス」と、馬場さん率いる「全日本プロレス」の2大団体時代。どちらも好きでしたが、驚愕の空中殺法の初代タイガーマスク(佐山聡さん)が登場した「新日本プロレス」はあまりの人気にチケット入手が困難で、私はよく全日本プロレスの会場へ足を運んでいました。

特に好きだったのが、ブルーザー・ブロディとジミー・スヌーカのタッグです。後に喧嘩別れしてブロディはスタン・ハンセンと組むようになりますが、私は断然ブロディ&スヌーカ組のほうが好きでした。ほかにもハーリー・レイスやリッキー・スティムボート、日本人でしたらジャンボ鶴田さんといったレスラーたちにも夢中になりました。

その後、団体が乱立するようになってからは一旦熱が冷めてしまい、しばらくプロレスから離れていました。しかし10数年前、たまたまケニー・オメガの試合を観てその面白さに衝撃を受け、それ以来、深夜の「新日本プロレス」を再び観るようになりました。棚橋弘至さんが頑張っていて、今の「新日本プロレス」も、なかなか面白いですよ!

▼『スポーツ行進曲』ジャイアント馬場


■プロレスの入場曲
レスラーの入場曲には、昔から結構こだわりを持って聴いていました。
ジャイアント馬場さんのテーマ曲が日本テレビの『スポーツ行進曲』だったのは、番組や契約上の都合も大きかったとは思いますが、幼心に「ちょっとこれはないんじゃないかな……」と思った記憶があります。坂口征二さんの『燃えよ荒鷲』も然り。あれは完全に演歌ですからね。

しかしその後、各レスラーが工夫を凝らし、多様で魅力的な入場曲を使うようになっていきました。今回は、その中でも特に印象深かった曲をいくつか紹介したいと思います。

●『炎のファイター ~INOKI BOM-BA-YE~』アントニオ猪木
プロレスの登場曲で最も有名なのが、この『炎のファイター ~INOKI BOM-BA-YE~』でしょう。モハメド・アリ戦の後に結ばれた友情の証として、アリ側のテーマ曲を譲り受ける形で日本で再録音されたものです。「アリ・ボンバイエ」というフレーズを「イノキ・ボンバイエ」に変えているのですが、初期のレコード音源などでは確かに「イノキ・ガンバレ」とコールしていた記憶があります。

この日本録音盤のバック演奏には、国内最高峰のセッション・ミュージシャンたちが参加していたことでも知られています。ドラムスに村上“ポンタ”秀一さん、ベースに後藤次利さんといった名プレイヤーたちが手掛けた重厚なリズムトラックだと聞いています。

当時は「期待倒れの世間騒がせな試合」などとも評された猪木対アリ戦ですが、後年になって明かされた裏話によると、アリ側から徹底的なルールの制限が課されていたようです。猪木さんもやむを得ず、あのリングに寝そべってローキックを狙う戦法(いわゆるアリキック)を取らざるを得なかったのですね。そうした背景も含めて、やはりプロレス史・格闘技史に残る歴史的な一戦だったのだと今では実感しています。

▼『炎のファイター ~INOKI BOM-BA-YE~』アントニオ猪木 - アントニオ猪木とザ・ファイターズ

▼Ali Bombaye (Zaire Chant) I - Mandrill · Michael Masser


●『パワーホール』長州力
当時『新日本プロレス』では、初代タイガーマスクがアニメ『タイガーマスク二世』のテーマ曲(初代『タイガーマスク』の「行け!タイガーマスク」ではなく、当時放映されていた『タイガーマスク二世』の主題歌)、ハルク・ホーガンがアメリカのロックバンド・サバイバーの『アイ・オブ・ザ・タイガー』(映画『ロッキー3』の主題歌)などを入場曲として使用していました。その数ある名曲の中でも、特に強烈な印象を残しているのが、長州力さんの登場曲『パワーホール』でしょう。

この曲を作曲したのは、日本のテクノ/ニュー・ウェイヴシーンを牽引したバンド「P-MODEL」の平沢進さんです。1980年にテーマ曲の制作依頼を受けて書き下ろされました。当時、平沢さんは特別プロレスに興味があった訳ではなく、「プロレスの曲を作った」ことで自身のニュー・ウェイヴ/パンクとしてのマイナス・イメージがつくのを避けるため、「異母犯抄(いぼはんしょう)」というペンネームを使って納品したという有名な逸話があります。

ちなみに、この曲は当時「著作権買い取り」の契約で引き受けたため、その後長州さんが大ブレイクし、テレビや会場で幾度となく流れても、平沢さんには一切印税が入らなかったそうです。「およげ!たいやきくん」の子門真人さんと一緒です。

しかし、プロレスファンの間でこの曲は大人気となりました。私の高校時代の同級生にも『パワーホール』が大好きで、長州さんに強烈に憧れるあまり、彼の母校である専修大学に進学した奴がいたほどです。今聴いても文句なしに格好良く、テンションが上がります。この曲を聴くだけで、長州さんと藤波辰爾さんとの死闘や、鋭く決まる「サソリ固め」の光景が鮮明に蘇ってきます。

▼『パワーホール』長州力 - 異母犯抄(平沢進)


●『移民の歌』ブルーザー・ブロディ
ロックを入場曲に使うレスラーも多くいました。 例えばアブドーラ・ザ・ブッチャーはピンク・フロイドの『吹けよ風、呼べよ嵐(One of These Days)』、ミル・マスカラスはジグソーの『スカイ・ハイ』。そういえば、かみさんが中学生の頃、ブラスバンドでよく『スカイ・ハイ』を演奏していたという話をしていました。

私はブルーザー・ブロディの『移民の歌(Immigrant Song)』がとりわけ印象に残っています。ブロディ&スヌーカのタッグが好きだったこともありますが、何と言ってもあの叫び声のようなハイトーンをバックに、チェーンを振り回して入場してくる姿が最高に格好良かったです。

実はこの曲、全日本プロレスのテレビ中継を手掛けていた日本テレビの制作スタッフが選曲したもので、ブロディ本人が選んだわけではなかったそうです。当時アメリカでは固定の入場曲を使う習慣があまりなかったため、日本の演出で自分の威圧的なキャラクターと見事にはまっていると感じたブロディ自身も、とても気に入っていたのだとか。

ちなみにマスカラスの『スカイ・ハイ』やブッチャーの『吹けよ風、呼べよ嵐』も日本スタッフによる選曲だと聞きます。ずっとレスラー本人が選曲していると思っていました。さらにブロディの入場に使った『移民の歌』は日本でオケを独自に作り、メロディをホーン・セクションで演奏していました。

しかしケチで有名なジミー・ページにちゃんと許可取ったのですかね?

▼『移民の歌(Immigrant Song)』ブルーザー・ブロディ - Led Zeppelin

▼ブルーザー・ブロディのテーマ(移民の歌)

▼『吹けよ風、呼べよ嵐(One of These Day)』アブドーラ・ザ・ブッチャー - Pink Floyd


●『スピニング・トー・ホールド』ザ・ファンクス(ドリー・ファンク・ジュニア & テリー・ファンク)
ということは、ザ・ファンクスの『スピニング・トー・ホールド』も日本のスタッフによる企画・選曲だったということになりますね。

しかし、この曲は本当に素晴らしい名曲だと思います。演奏を担当したのは、日本のロック/ブルーズ界の第一人者・竹田和夫さん(ギター)率いる「クリエイション」です。ザ・ファンクスはテキサス州育ち(出身はインディアナ州)の兄弟レスラーでしたから、この曲が持つテキサス・ブルースならではの泥臭いフィーリングが最高にマッチしています。竹田さんが二人の姿や雰囲気を強く意識して書き下ろしたであろう熱量が、ひしひしと伝わってきます。

竹田さんは高校生のころから天才ギタリストとしてプロで活躍しており、私たちの世代でもエリック・クラプトンなどの本格派ブルーズ・ロックを愛する層から圧倒的な支持を集めていました。愛機ギブソン・レスポールから繰り出されるブルージーなギタープレイに魅了されたギターキッズも多かったはずです。

「クリエイション」の楽曲としては、テレビドラマ「ムー一族」のテーマ曲『暗闇のレオ』(1978年)や、スマッシュヒットした『ロンリー・ハート』(1981年)なども有名ですね。

この曲は、まさにザ・ファンクスのために存在するような楽曲であり、彼らの代名詞である決め技「スピニング・トーホールド」がそのまま曲名になっていることからも、『パワーホール』と並ぶ至高のオーダーメイド・テーマ曲だったのだと改めて実感します。

▼『スピニング・トーホールド』ファンクス - クリエイション

そのほか天龍源一郎さんの『サンダーストーム』(※別書込参照)などありますが、長くなりましたので、曲紹介はこのへんで。

プロレスはショーとも言われ、時に筋書きが存在すると語られることもあります。しかし、あの極限まで鍛え上げられた肉体同士の激しいぶつかり合いは、間違いなく常に死と隣り合わせの真剣勝負です。現に、三沢光晴さんのように試合中の事故で帰らぬ人となったレスラーもいます。そうした命がけの覚悟があるからこそ、プロレスは究極のエンターテインメント・スポーツとして、今もなお多くのファンを熱狂させるのだと思います。

最近のレスラーでは、鷹木信悟さんや辻陽太さんが好きですね。また、柔道オリンピック金メダリストのウルフ・アロンさんもプロレスに転向して頑張っています。まだプロレス特有の身体づくり(プロレス体型)へと変化している途上のように見えますが、これからさらに鍛え上げて場数を踏んでいけば、間違いなく凄まじく強いプロレスラーになるはずです。

その時、彼がどんなテーマ曲を背負ってリングに入場してくるのか、今から楽しみでなりません!

▼『スカイハイ』ミル・マスカラス - British Jigsaw


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