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【短編】何のとりえのないおれでしたが、転生したら魔法と好感度がカンストしてました-ガランドウの虚構-

 硬い何かがおれを突き飛ばした。
「ああ、なんという不幸なのでしょう」
 遠くで女の人の声を聞く。
「女神の名に誓い、あなたには次なる世界で――」


#1

 化け物の咆哮を聞き、おれは茂みへ手をかざした。とたんに生成される魔方陣。中から黒い矢が生まれ、茂みから姿をのぞかせた巨大な魔物を射抜く。振り下ろされようとした爪はおれに届く前に地に落ちた。
「目覚めてすぐに喰われるところだった……。いきなり実践だったけど、どうなってんだ、おれの能力」
 ステータス画面を開き、能力を確認する。
「力64、魔法99、知性……。魔法、99!?」
 全てに目を通すのもままならないうちに、悲鳴が上がった。その方を見れば、緑の髪をした少女が魔物に襲われている。
「た、助けて、誰か……!」
「くそっ」
 おれは魔法を即座に放った。魔物が消し飛び、少女が唖然とその様を見る。
 安堵とともに、おれの意識は沈んだ。

「エメル、その人は?」
「魔物に襲われたところを助けてくれたの」
 少女たちの話し声。
 おれ、あの後どうなったんだ?
「ヘンな服着てるけど、何者?」
「行き倒れた勇者だったり?」
「うそ、勇者様!」
 そうだ、魔力切れとかいうやつで倒れたんだった。
 しかしそれはともかく、頭を支える柔らかな感触が異常に気になる。そして鼻をくすぐる甘い匂い。
 ゆっくりと瞼を開くと、そこには何人もの少女がおれを覗き込んでいた。
「あんたが大きな声上げるから、勇者様が起きちゃったじゃない!」
「ササラが勇者様だって言うからでしょ!」
「ほらほら、勇者様困ってるじゃない」
 青髪の少女と緑髪の少女の間を割って入る赤髪の少女。
 ここがどこか、彼女たちが何者なのかなど今はどうでもいい。
 おれの髪を優しくなでる、しなやかで細い指。
 何より、今おれが後頭部を預けているこれは……。
「あんた、いつまで膝枕してるつもり?」
「あたしにもさせてよ」
 わらわらとさらに集まってくる美少女たち。
 苦しゅうない。苦しいはずがない。なんだこの状況は。
「やだ。わたしが見つけたんだもん」
「ね、勇者様。わたしと一緒が一番ですよね」
「あ、あの……」
「わたしはエメル。こっちの青いのがササラ。勇者様は?」
「青いのってなによ!」
 困惑するおれにささやくように尋ねる膝枕の君、もといエメル。
「テオ……。おれの名前はテオ」
「テオ様、なんて素敵な名前」
 起き上がろうとするおれを、エメルはそっと太ももへ押し戻す。
「すぐに動いちゃダメですよ、テオ様」
「ずるい、次はあたしだって言ったじゃない!」
 抗議の声を上げるササラにかまわず、エメルはおれの頬に触れた。

#2

 これが異世界転生の本番だと理解したのは、エメルの家に運ばれてからだった。
「ここがテオ様の家だと思ってくださいね。遠慮はいりません、なんでもお申し付けください、テオ様」
どうやら彼女が、この世界における案内人のようだが……。
 ベッドにおれを寝かせるや否や、エメルはまたおれの髪をといた。
 案内人から、すでに心臓に悪い。まだステータスとか能力すらちゃんと見れてないというのに。
「世界に歓迎されすぎてて怖い」
「どうしました、テオ様。わたし、何かお気にさわることをしてしまいましたか? 何でも言ってください。テオ様はわたしの命の恩人。わたしの生きがいはテオ様にあるのですから!」
「い、いや、大丈夫!」
 焦ったような彼女におれはあわてて弁解する。
 そして、あらためてステータスを見る。
「力64、魔法99、知性50、俊敏性68、好感度99……」
 はい?
 魔法と好感度だけ、バグってね?
「テオ様の国のこと、もっと教えてください。わたし、もっとテオ様を知りたいんです!」
「おれなんか知ったって……」
「いいえ、もっとたくさん教えてください。テオ様のこと、よく知っておかないと、恩返しできないから……。お願い、しちゃだめ……ですか?」
 悲しそうにしつつ、おれの手をとり、エメルは自分の胸にあてる。心からの願い、というようにして。
実際、谷間に直接おれの手が、しかも彼女の意思に基づいて……。
「柔らかい……」
「やわらかい?」
「あ、いや、おれの国の猫のこと」
 猫なんか触ったことないけど。
 しかし、くすくすと笑うエメルを見るところ誤魔化せたようだ。
「恩返しはいいよ。おれが勝手にやったことだし」
 なんせ、今のおれは魔法99だからな。生前と違って何でもできる。

「誰が何を好み求めようと個人の勝手だけれど、ニンゲンってホントみんな一緒」
 黒いローブをまとった少女は、荒廃した箱庭の壁から降りた。砂埃に軽くせき込んで、一人不敵に笑む。黄土色の視界から突き破ってくる砂でできた人形に、肩に担ぐ大きな鎌を振りかざす。
「死ねば、何でも叶うってね」
 口元に指を当て、瞳を上に動かす少女。
 また、砂の人形が地面から生成された。そして、少女の背後に忍び寄り、砂のつるぎを振りかざす。
 少女は身をひるがえし、人にない跳躍力を持って砂人形の背を取り、刃を薙いだ。
 胴と足とが分断され、土へ帰る人形。
「生きてるときは、何でもするから殺さないで、って言うくせに」
 また、土が形成するヒトガタ。斬っても斬ってもキリがないというのに、少女は楽し気に鎌を振り続ける。
「けど、こういうことなのかも。サイコーの快楽って」
 黒衣が迷惑気に彼女につきあう。
「ずっとずっとずっとずっと、ずぅっと、このままでいたいよね!」
 何時間だっただろう。
 無尽蔵の体力を持って、砂人形を寸断していた少女はふいに動きをとめた。
 最後に残った、砂人形でない生き物。
 少女は武器を下ろし友好的な笑みを浮かべた。
「君を探してたんだ。ボクはレーク。よろしくね」

#3

 この世界に来てどれぐらいたっただろう。この世界の人のこと、町のこと、いろんなことをエメルに教わった。
「テオ様、今日こそあたしとデートしてよね!」
 膝枕の君もといエメルの家に押し掛けるササラ。エメルが口を開くより先におれの腕を取り家から、半ば強引につれだした。好感度99はバグじゃないらしい。
「まぁ、まだこんなにいい男がいたなんて!」
 町に出るや否や、往来の女性たちが一斉におれを見る。今に始まったことでない。毎回、外に出れば必ずおれを巡って争奪戦が始まる。
「ほら、散った散った!」
 ササラが犬を追い払うように手で払うが、群がりはそう簡単には引いてはくれない。
 そうして戸惑っていると、パシャリというシャッター音が届いた。一回や二回でない。連射だ。もはや動画と言っていいだろう。
「音の方を見ると、小型カメラらしきものを手にした女性が、この世界におけるカメラ技術で写真を複製している。
「美男子のプロマイドが欲しい人、1,000,000から!」
 そして、オークションを始めた。
「買った!」
 即座に手を上げるササラ。
「そんなのどうすんだよ」
 本物を目の前にしながら写真を手にする彼女に、ややむっとすると、ササラはいたずらっぽく笑った。
「もちろん、見せびらかす!」
 つまり、マウントか。
「あと、お守りにするんだ」
 今度は目を伏せ写真を抱くササラ。
「お守り?」
「テオ様がずっと幸せでいられますようにって」
「ササラ……」
 勝気さとのギャップ。ずるいぞ!
 おれは、顔に出ないように努めながら咳ばらいを一つしてみせる。
「幸せだよ、おれ。お前がいて」
「テオ様……」
 許せエメル。これには勝てん。
「テオ様、大好き!」
 ササラはふいにおれの胸に飛び込んだ。
 エメルとは、また違う花の匂い。
 幸せというのは本心だ。エメルの家にいるだけでも、毎日入れ代わり立ち代わり異なる美少女たちがおれを一目見ようと訪ねてきては世話を焼いてくれる。
 じゃなくて、魔法で魔物を退治して世界に貢献している。そして、世界もおれのこの力を求めている。
「仕切り直して、どこかいこうぜ!」
 どこに行けばいいかなんて知らない。しかし、女子といえば買い物だ。幸いポケットには財布が入っている。
 そして、いざ服でも、と一歩進んだところ、また悲鳴が上がった。
「にしても、えぐい……」
 好感度99の威力は。
「い、行こう」
 黄色い悲鳴と、おれの噂話。こちらを見ては、頬に手を当て視線を外す。そして、羨望の目をササラに向ける。
 心を鬼にして周りの声を無視して歩いていると、通り過ぎたはずの場所から悲鳴が上がった。恍惚としたものでない。緊迫感のある、本物の悲鳴。
「なんだ!」
「黒衣の……」
「え?」
「黒衣の、アクマだ……」
 わななくササラ。
「黒衣の悪魔? どんなやつ……」
 ササラが答える前に、そいつは姿を現した。黒いローブに身を包んだ少女。彼女の背後に広がるのは凄惨な光景。
「なんだ、お前は……!」
 黒衣の悪魔、とササラが呼んだ少女を分析にかける。
 能力、特になし。力99、魔法50、知性80、俊敏性90……。
「中ボスってか」
 パワータイプで速さがあるのは強敵だ。
「でも、魔法はこっちが上だ」
 黒衣の悪魔が動くより先に、おれは手をかざした。とたん、複雑な魔方陣が宙に描かれ、巨大な炎が黒衣の少女を貫く。
「すごい……」
 驚くササラ。
「すごいよ、テオ様。本当に勇者様だったなら、なんで言ってくれなかったの!」
「い、いやぁ。まぁ……」
 悪魔といえ美少女だったことに、残念感を抱く。
 しかし、それらを打ち消す歓声。
「お兄さん、すごいよ!」
「わたしたち、ずっとあいつに苦しめられてたんだ」
「兄ちゃん、勇者様だって?」
「美男子、名前はなんての!」
 沸き立つ人々。ササラとこの場にいるせめてもの人たちを守れた。
「やっぱ、誰かを守ってこその転生だよな……」
 おれは手のひらに視線を落とし、微笑する。
「君を探してたんだ。ボクはレーク。よろしくね」
 倒したはずの声が背から聞こえ、おれは慌てて飛びのいた。
「みんな逃げろ! 注意はおれが引く! ササラもエメルの家に逃げろ」
「……死なないでね」
「もちろん」
 おれに従い避難するササラたちに安心し、もう一度黒衣の悪魔と対峙する。
 しかし、黒衣の悪魔はおれに対し、どこか友好的な笑みを向けている。
「どういう意味だ……」
「あれ、わかんない? というか、怒ってる?」
「当たり前だ……。町を、みんなを殺して何がしたい!」
「君、今と同じ気持ちで生前の人たちを想ったことが一度でもある?」
「生前……?」
 テオは前世に出会った顔を思い出す。毎日のように職場で評価されず、怒鳴られては恥さらしにされてきた。しかし、それを挽回する特別な力はなく、平凡中の平凡な人間として生きるしかなかった。凡人がどれだけ頑張ったとしても、結局は凡人でとどまるのだ。
「そんなもの……!」
「あ、言わなくていいよ。自分語りとか興味ないから」
 レークと名乗った悪魔は、おれの横を通り抜け、逃げる人々に大鎌を振った。四肢が切断されていく町人たち。そして、ササラの首が転がった。
「あ……ああ……!」
 周囲が血の海と化し、おれは感情のままレークに魔法を打つ。先ほどよりさらに大きな、それでいて溶岩のように沸き立つ炎の塊。それを黒衣の悪魔に投げつけた。建物はもちろん、地面をたやすく溶かす灼熱の炎が悪魔を飲み込む。
肩を上下させながら、町に目を凝らす。人影らしきものはさすがにない。
「終わった……」
 全身から力が抜け、その場に倒れ込む。
 立ち上がることもままならないおれを、ふいに温かな光が包んだ。
 ――安心してください、テオ――
 この声は知っている。姿は知らないが、声だけは知っている。
「女神、さま……?」
 ――よく頑張りましたね。今のは試練です。少しの幻覚をあなたに見せました――
「試練……幻覚……?」
 ――覚醒のための試練――
「じゃあ、みんなは……? レークは……」
 ――あの悪魔が襲ってきたのは本当です。しかし、皆は生きていますよ――
 その言葉に、おれは即座に立ち上がった。
「生きてる? 本当に!」
 ――ええ。全員生きています。あなたがあの悪魔から守り抜きました――
「――だから、人を勝手に殺さないでくださいよ、テオ様」
 そこにいたのは、エメルだった。
「エメル? なんで、エメルがここに? まさか、エメルが……」
「案内人兼女神エメルです。あらためまして、よろしくお願いしますね、テオ様」
 案内人と兼任の女神て。いや、何はともかく。
「よかった……! みんな、本当にみんな無事なんだよな!」
「無事ですよ。安心してください。あなたは、わたしだけでなく町のみんなの命の恩人です」
 おれは、気づけばエメルを抱きしめていた。

#4

「テオ様、ケガしたんだって?」
「ちょっと待って、そんなの聞いてない! 大丈夫?」
「へーき、へーき」
「美男子、生きてるか?」
「生きてるよ、おおげさだな」
 今日も今日とてわらわらと集まる美少女たち。

 レークは箱庭の壁に刃を立てた。
 あっさりと破壊され、風に散る瓦礫。同時に消えていく黄土色の世界。
「悪趣味な女神に弄ばれた可哀そーなニンゲン。せっかく助けてあげようと思ったのに」

 じゃれあっていた少女たちが突如消えた。
「え……?」

「次の箱庭壊さないと。魂の案内は……。ま、後回しでいいか。死神も楽じゃないね」
 黒衣を風になびかせながら、レークは楽しそうに場を後にした。

「ああ、なんという不幸なのでしょう。女神の名に誓い、あなたには次なる世界でおもちゃになりますことを」


【次の物語】



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