絵本・白峰アカネの冒険(改)/4. 門出、そして、まさかのビックリ
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1.門 出
禁じられた結界破りで魔獣たちを助けてから4日後、アカネは白峰山からふもとのヤマスソノ市に通じる山道を下っていた。ヤマスソノ市で個人営業の「魔獣退治屋」を始めるため白峰山を下りるのだ。
アカネはビジネス・スーツに身を包みヒールのある靴を履いている。今日は開業認可証を受け取りにヤマスソノ市の市役所に出向くので、一応フォーマルっぽく装ってみた。慣れないいでたちの身体に、身の回り品一式を詰めたバックパックがズシリと重い。
人が走って追ってくる足音に振りむくと、サチだった。

サチ:先輩、お見送りに来ました。
アカネ:ありがとう。でも、今日は、結界の見回りはしなくていいの?
サチ:アオイ先輩のお許しをもらってきました。アオイ先輩が、先輩によろしくって言ってました。
アオイ先輩というのは、アカネの後任としてサチの世話役になった白峰アオイのことだ。苗字が同じだからといって、姉妹ではない。白峰というのは、魔払いの巫女のグレードごとに割り振られている屋号のようなものだ。
アカネ:そっか。アオイに私がありがとうと言ってたと伝えて。
二人はあれこれ話しながら、岩肌の間をうねうね続く山道を下って行った。笑顔で冗談まじりに話していたサチが、急に真面目な顔になった。
サチ:(心配そうな顔で)でも、先輩、大丈夫なんですか?
アカネ:大丈夫って、何が?
サチ:「魔獣退治屋」って、ヤマスソノ市に下りて来た魔獣を捕らえて、「鎮守社」に永劫封印するんですよ。それ、先輩に出来ます?
アカネ:「出来ます?」って、失礼なことを言うわね。
サチ:だって、先輩、魔獣に優しいじゃないですか。永劫封印ですよ。未来永劫、絶対に封印を解かないんです。実質、殺しちゃうのと同じです。そんな過激なこと、先輩に出来ます?
アカネ:え......(少し考えてから)人間に危害を加えようという悪意がある魔獣だから、ヤマスソノ市まで下りてくるのよ。つまり、凶悪なの。結界のほころびにつまずいて出てくる魔獣とはわけが違うわ。凶悪な魔獣は、永劫封印されて当然でしょう。
サチ:なるほど。でも、どうして、そういう凶悪な魔獣が現れるんでしょう?
アカネ:知らないわよ。向こうの都合なんだから。
サチ;確かに。じゃ、私はここで失礼します。「頑張って」なんて言いません。先輩は頑張って成功するに違いないですから。儲かったら、ご馳走してくださいね。
サチが手を振り、去っていった。
アカネ:(心の中で)永劫封印のこと、実は、あまり真剣に考えてなかったかも……ま、その時になれば、なんとかなるでしょう。

2.まさかのビックリ(その1)/申請却下
3時間歩き通して、ヤマスソノ市にたどり着いた。アカネがヤマスソノ市を訪れるのは、巫女養成学校小学部の修学旅行以来だから、かれこれ10年になる。当時と街の様子が変わって、新しいキラキラした建物が増えているのに驚き、心が弾んだ。

アカネは、さっそく市の中心部にある市役所に足を運び、「魔獣退治屋開業申請」窓口に立った。
アカネ:「魔獣退治屋」の開業認可証をいただきにあがりました。
開業認可証は、店や事務所の正面玄関に掲げるもので、市から公認された事業主であることを顧客に伝える大事な商売道具だ。
係の男性:認可済の申請書は持っていますか?
アカネ:はい、こちらです(ヤシマ国巫女庁の認可印が押された申請書を差し出す)
係の男性:これは、国あての申請書だね。ヤマスソノ市の認可を受けた申請書はないの?
アカネ:え? 国の認可で、ダメなんですか?
係の男性:ヤマスソノ市は国から認められた特別地方自治体だから、市の認定制度が国のとは別にある。知らなかったの?
アカネ:「巫女の郷」のキャリアセンターでは、そんなこと、言ってませんでした。
係の男性:それは、おたくの事情で、こっちには関係ない。ともかく、市の認可も受けてから出直してきなさい。
アカネ:そんなぁ~。では、申請書をください。
係の男性:申請書なら、後ろの棚にある。言っておくけど、審査には3ヶ月かかるから、すぐに開業は無理だよ。
アカネ:えぇ、話が違いますぅ~
係の男性:おたくの勝手な話とどう違おうと、ここでの手続きが正だ。ともかく、申請書だけでも、早めに持ってくるんだな。

3.まさかのビックリ(その2)/魔獣と遭遇
アカネが落胆して市役所から出てくると、女性の鋭い悲鳴が聞こえた。声の方向に目を向けると、一頭の魔獣が老人に近づこうとしていた。老人は段ボール箱を大事そうに胸に抱えたまま、足がすくんで動けすにいる。
アカネは老人のもとに駆けつけ、老人と魔獣の間に割って入ると、魔獣に声をかけた。
アカネ:お年寄りを驚かせちゃ、ダメじゃない。おとなしく山にお帰りなさい。
魔獣は、一瞬、ポカンとしてアカネの貌を見た。しかし、その表情はたちまち悪鬼のような形相に変わり、アカネに襲いかかろうとした。

アカネ:えええ! こいつ、凶悪!
アカネは、自分がサチに「ヤマスソノ市まで下りてくる魔獣は凶悪な連中だ」と言っておきながら、肝心な時に自分がそれを忘れていたことに気づいた。

アカネは魔獣から一歩身を引いて、態勢を整えた。腹いっぱいに息を吸い込むと、その息を身体全体で吐き出し、身体の回りの空気を動かした。空気は渦を巻き、一陣の突風となって魔獣に殺到した。

魔獣の身体が風に巻かれて宙を飛び、近くの建物の壁に背中からぶち当たった。グエという悲鳴が聞こえた。
その時、「なにやってる、このボケ!」という甲高い女性の声が後ろから飛んできた。
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