絵本・白峰アカネの冒険(改)/3. 帰還
アカネは岩の間から動かせない子ども魔獣と大人魔獣の間で頭を悩ませ続けていた。
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1.悩 み
子ども魔獣の足に尖った岩の先端が食い込んでいる。その傷口を広げずに抱き上げるのは、まず不可能だ。呪術で「風」を送り岩を浮かせるのがベストと思うのだが、この状況で「風」を起こすと、魔獣たちへの攻撃と誤解される恐れがある。
大人魔獣に「風」を起こすことを説明し納得してもらえればよいいのだが、身ぶり手ぶりで「風」を表現できる自信がない。
それに、仮に大人魔獣が納得してくれたとしても、「風」の使用には予見の難しいリスクが伴う。
岩を浮かせるにはかなりの風力が必要だが、それだけの風を当てると、一部の岩石が細かく砕けて子ども魔獣を傷つける恐れがある。
考えれば考えるほど、アカネの悩みは深まるばかりだった。そうこうしている間に子ど魔獣の「クワォ、クワォ」いう鳴き声はどんどん大きくなり、それがプレッシャーとなってアカネを襲った。

2.ひらめき
突然、アカネの頭にアイディアが閃いた。というより、頭のなかに立ち込めていた靄が一瞬にして消え、視界がぱっと開けた気がした。
――子ども魔獣を助けるのは、私でなくてもイイじゃない!
というより、子ども魔獣を助けて魔獣界に連れ帰るのは、大人魔獣の務めのはずだ。
そう考えると、今まで大人魔獣がなにもせず、まるで様子見しているようなのが不思議に思える。
――こっちに出てきて、私と争いになるのを恐れているのかしら?
大人魔獣は、アカネが見た魔獣のなかで一番大きく、一番狂暴そうに見えた。この魔獣がアカネを恐れているとは思いにくい。
しかし、もし、アカネとの遭遇がこの大人魔獣にとって初めての魔祓いの巫女との出会いだったら、だ大人魔獣がアカネに恐れを抱くこともありそうな気がする。
アカネは、出来る限り穏やかで優しい表情をつくって、大人魔獣を手招きしてみた。

アカネの手招きは大人魔獣に伝わったようだった。大人魔獣は、結界の裂け目から出てこようとした。子ども魔獣の鳴き声がますます大きくなる。
ところが、魔獣は両方の前足を地面につけたところで、動かなくなってしまった。
3.妙 技
アカネは、恐る恐る魔獣に近づいてみた。すると、魔獣の身体は前足の付け根から少し下がったあたりで急に太くなっていて、その部分が、結界の裂け目につかえていた。

次にアカネがとったアクションは巫女社会のルールに反しているのだが、彼女に迷いはなかった。アカネは魔獣に近づき、結界の裂け目に右手をかけ、ぐいと引き開けた。
魔獣が驚いた顔’(と、アカネには見えた)をした。アカネは魔獣に微笑みかけ、子ども魔獣を指さした。魔獣が結界の裂け目を通り抜け人間界に出て来た。
アカネは身を引き、魔獣のために道をあけてやった。魔獣はドドドと地面を揺らして子ども魔獣のもとに駆け付けた。

大人魔獣は子ども魔獣に向けて「風」を吹き出し始めた。子ども魔獣の周りで岩石が細かく砕け舞い上がる。しかし、子ども魔獣にぶつかる砕片はひとつもない。大人魔獣は風力と風向のコントロールが巧みだった。

子ども魔獣が岩場から転がり出て、大人魔獣の足にしがみついた。大人魔獣は風を吹き出すのを止め、赤くおおきな舌で子ども魔獣の身体をペロペロと2、3回なめると、子ども魔獣を自分の足にしがみつかせたまま、結界の破れ目に向き直った。
大人魔獣はアカネを見向きもせず、子ども魔獣を連れて結界の破れ目を抜け魔獣界へ去って行った。
4.後片付け
アカネは「ふぅー」とひとつ、大きくため息をついた。急に全身の力が抜けて、その場に座り込みそうになった。
しかし、アカネには、まだ仕事がある。結界の裂け目を閉じなければならない。それには、後輩のサチの手助けが必要そうだった。アカネは、岩陰に身を潜めているサチに呼びヵけた。
「サッちゃん、魔獣たちは、あちらの世界へ帰ったわよ。出てきて、結界を元に戻すのを手伝ってちょうだい」
岩陰からサチが姿を現した。
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