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あのときは婉曲な書き方をしましたけれども

 この記事を最初に書き始めたのは去年の4月1日だと書いてある。12月の時点では、問題は解消され、無に期したかのようだった。冬でぱちこは無敵だったからだ。


 さて、4月になった。
 ハッキリ言っていいですか。

 キモいです。
 無理です。
 論外です。


 先月、お前はストレスにさらされている、と診断されたとき、真っ先に考えたのがこの件だった。しかし、体調を崩したときには、気になっていなかったため、関係なかろう、と思っていた。
 気温が上がるにつれ、耐えられなくなってきた。これ以上のストレスはない。

 ここしばらく、肩が凝って仕方がない。だから、背筋を伸ばしたいのだが、背筋を伸ばすと、ディスプレイの向こう側の彼から見えてしまう。
 これがものすごく嫌な話なのだが、わたしが背筋を伸ばすと、彼は自分が「見られている」「気にかけてもらえている」と感じるらしく、さらにこちらを見てくるようになる。
 いいかい。人のことをキモいなんて言っちゃあ、いけないんだよ。そう思っていても、キモいものはキモい。
 背筋を伸ばせないことと、見られているという不快感で、一日が終わるとぐったりする。キモいのはキモいのだが、キモいのとは別に、人に行動を見られているというのが嫌だ。ねこに見られるのなら嬉しいから、人が嫌なのだろう。視線を感じるのが嫌だ。見られているという気配を感じるのが嫌だ。
 背筋を伸ばせないから、肩が異様に凝るようになってしまった。元々、肩は凝った状態なのだが、夜になると痺れてくるくらいに痛い。ときどき、針で刺されているように感じることもある。

 ずっと、試したくてできなかったことがある。それは、自分の机にパーテーションを置くこと。机に乗るやつでもいい。
 入社したときから、前の机の存在には悩まされていて、というか、彼が実際にこっちを見ているかどうかはさておき、目の前で人が動いていると気が散って仕方がない。
 わたしは視野が広い。一般的な視力という意味ではあまり良くはないのに、かなりの範囲のいらない情報まで全部集めてしまう。これは、耳も同じことで、かなり遠くの小さな音まで全部拾ってしまう。集中してしまえば、何もかもただ見えていてただ聞こえているだけの存在になるからいいのだが、一度、間違って集中が途切れると全てがなだれ込んできて、何もかものわけがわからなくなる。
 だから、ただ目の前で人が動いているというだけでも、すべての情報が脳内に蓄積されていくから、しんどい。パソコンの画面だけに集中すればいいだろう、と人は言うけれど、違うんだ。パソコンの画面に集中しているけれども、それ以外の部分が全部見えているんだ。
 ときどき、視野の中の真ん中にあるものしか見えていない人がいる。ちょっと離れたところにある情報は見えていなくて、注意喚起をしても気が付かないこともある。不便ではないのだろうか、と思うけど、多分ちょうどいいのだ。自分が知りたいことだけを知れるから。知らなくてもいいことを知ってしまうって、なんて面倒くさいんだろう。

 この前、百均に行ったときに、穴の空いたボードが置いてあった。前にネットで見たことがある。等間隔に穴が空いていて、好きなところにフックをかけたり、小物を置く台を置いたりできる、アレだ。なんだ、百均にもあるのか。
 ぱちこは部屋を片付けられないくせに、というか、片付けられないからこそか、こういう物が好きだ。こういうしょうもないインテリアグッズを置いて、机の上を飾ったら楽しいかもしれない、などと考える。ただし、ひどい飽き性だから、買ったはいいが飾らないだろうから、買っては帰らない。本当は、本物の植物が好きなのだが、百均やニトリにあるようなエセグリーンを見ると、買って帰ってそこかしこに飾りたくなる。特に意味はない。だから部屋は片付かない。
 が。
 これ、使えるんじゃないだろうか。

 ぱちこは、ノートパソコンだ。机の真ん中にノートパソコンを置いて、その両脇にディスプレイを配置している。よって、真ん中だけ高さが低い。
 彼は二台のディスプレイを置いているのだが、最初はその継ぎ目がちょうどわたしの真ん前にあった。真ん前にあって、もっとちらちらと見られていた。それが、いつからか、ディスプレイの配置がちょっと変わって、継ぎ目はわたしから見て、少し左にズレた位置になった。このとき、心底ほっとしたのだが、その分、彼は上から出てくるようになったのだ。

 違う。
 今書いていて思い出した。
 真ん中に継ぎ目があったとき、わたしが何かのタイミングで右側のディスプレイで仕事をすると、どうしても角度で彼から見えてしまう部分があった。
 それが去年までは心底気持ち悪くて嫌だった。嫌だったから、なるべくそっちでは仕事をしないようにしたり、そのときは小さくなって彼の視界に入らないようにしていた。
 それで、いつのことだったか、配置が変わったのだ。配置が変わって、上から出てくるようになったのだ。

 書いているうちに、だんだん気持ち悪くなってきた。これは、キモいという意味ではなく、リアルに吐き気がしてきた。
 自意識過剰なのかと思っていたけれど、これはストーカー案件ではなかろうか。
 以前にも書いた通り、女性向けの防犯記事を書いているぱちこは、いつも、こう書いている。

気のせいかも?
と思っても、
変だな?と思うことがあったら、
まずは、警察に報告、相談しましょう。
もし違っていても、
怒られることはありません。
それよりも、身の安全が大事です。

……そうなんぜ。
こんなこと言ったら、
自分が考えすぎだって笑われるかも、
とか、
自惚れすぎだとか、
そうやって言い出せずに、
事態を悪化させちゃうケースは多いんだぜ。


 ……それはさておき、とりあえず、彼が出社する前に、机の下から彼が顔を出すであろうパソコンのディスプレイまでの高さをおおよそ、手で尺をとって測っておく。
 この、ノートパソコンの向こう側に、あのボードを縦に置いたら、視界が遮られるはずだ。
 帰りに百均に行ったら、ジャストミートだった。
 ただ、ちょっと不安になる。もし高さが足りなかったら?穴の隙間から覗いてこられたら?
 併せて、穴に打ち込むダボと、スチレンボードを買っておいた。
 これをボードに置いて、何かかわいい、お菓子とか、お花とか、ようせいさんとかの絵を貼り付けよう。会社の雰囲気に合わないかもしれない?知ったことか。
 ぱちこのストレスのもう一端は、かわいいものが机にないことだ。前の仕事では、かわいいものがないとやる気になれない、という理由で、たくさんかわいいものを並べていた。散々馬鹿にされた。いい年してなんとか、とも言われた。いろんなものにシールを貼るのも馬鹿にされた。それに、もう働くことが嫌だったから、この会社にも長居しないつもりで、荷物は最小限にしてあった。でも。
 かわいいものがないと、やる気になれない。精神が蝕まれていく。だから、病院でお前はストレスが、と言われたあと、パソコンの設定も全部ピンクにした。これも、前の仕事では馬鹿にされたし、同じ理由で長居はしないつもりだったから、設定も変えていなかった。仮のつもりでずっと、面白みのないWindows標準カラーで暮らしていた。
 とにかく、かわいいものがないと精神が蝕まれる。ふわふわときらきらは必須だ。
 もう四十歳なのに?
 そうか?
 よく考えてみよう。会社の一回り以上年上の先輩たちは、架空のモンスターを狩ることに必死だ。前の会社の残念な上司は、三十歳にもなってゲームをするとか馬鹿でしかない、という考えの人だった。ぱちこはこの会社に入って心底安心した。上司は、たまに直接話しかけると、ポケモンを捕まえている。

 なんにせよ、これで、ついに彼の視線から逃れることができる。
 わたしが最も懸念したのは、これを設置している最中に誰かに話しかけられて、何をしているのかどうしてそんなことをしているのか、と聞かれることだった。
 今の職場の人々は、あまり他人に干渉しない。節度があるというよりは、他人への関心が薄いタイプの人が多い。と言って、仲が悪いわけではなく、みんなで飲んだり騒いだりはするのだが、例えば飲み会に行っていても、飲んだり騒いだりしながら、自分のスマホでゲームをしているような人たちだ。要は、ちょっと世間一般の基準からずれている。個人主義の人が多いのだ。みんながこうしているから、合わせなければならない、という風潮がない。なんて楽なんだ!その上、唯一のメス社員だから、多分、あまりわたしに突っ込めない。なんて楽なんだ!
 そう。そういう意味ではすごく楽なのに。
 特に、朝の時間に出社している先輩たちは、わたしが謎のボードを机に立て掛けんと苦戦していても、誰も何も突っ込まなかった。よく考えたら、後ろの席の先輩はもっと謎のことをしていることがあるから、わたしのささやかな模様替えなんて、たいしたことではなかったのかもしれない。

 幸いなことのもう一つは、問題の彼はコアタイムギリギリまで出社してこない、ということだ。もし彼が、朝から存在していたら、わたしはもっと発狂していたかもしれない。
 だから、無事にわたしは彼が出社する前に仕切りの設置を終えた。板は、A3サイズくらい。縦に立てかけただけなのに、穴はぽつぽつ開いているのに、それだけで、わたしは非常にほっとして、気持ちがやすまるのを感じた。
 長い間、ずっとこのことで気を張っていたのだと、この瞬間に気がついた。
 穴はあったが、思ったよりも向こう側は見えなかった。真っ白なボードを買ってしまったから、スチレンボードを立てると、反対に眩しくて気が滅入るかもしれない。そう思って、この日はそのままにすることにした。


 さて。

 どうなったとお思いでしょうか。

 少なくとも、わたしが背筋を伸ばしても、彼から覗き込まれることはなくなった。心置きなく、楽な姿勢で仕事ができるようになって、本当に安心して、のびのび過ごすことができた。
 彼が故意にわたしを見ていたかどうか、は別にして、人の気配を感じながら仕事をするのがいかに苦痛だったかが、今になってやっと分かった。それにどれだけ耐えていたかも分かった。つまりは、ストレスの大半はこれだったのじゃないか、とすら思う。

 だが。
 確定したことがある。
 わたしは気がついてしまった。彼が、ボードの上にさらに頭を伸ばしていることに。しかしどうやら、座った姿勢のままでは、こちらを見ることはできないようで、わたしの目論見は成功したと言える。言えるのだが、わたしが自意識過剰でも自惚れ屋でもないことがわかってしまった。
 彼は、確実にこっちを見ている。

 キモい。

 もう一つのボードも早急に設置して、さらに高さを稼いでおこうと思う。
 姉は、ボードの裏に推しの写真(マクロン)を貼ればいいという。相手への牽制という意味らしいのだが、推しの写真を向こう側に貼ったらわたしが見れないじゃないか、というか、推しじゃない!だんだん、毎回推しって言われてきて、好きな気がしてきたじゃないか!好きじゃない!推してもない!
 それに、たぶんだけど、この彼の場合にはなんの意味もないと思う。人を見ちゃいけないってことも分かってないと思うし、もしかしたら自分でも無意識にやってるかもしれない。たとえ、推しの鼻が全ての日本人より高くても、いかに推しが俺かっこいいと思った角度で写真に写ってても、あのなんとも言えないサングラスの写真を貼っておいても、なんの影響もないと思う。それどころか、誰かもわかんないかも。


 姉曰く、この話を上司なりに報告しておくべきなのだそうだ。もしかしたら事態が悪化するかもしれないからだ、と言われたときには、そんなことないよう、これで一件落着だよう、と思った。思っていたけれど、さっき思い出してしまった、隙間から見えないようにしたら上から覗いてきた件のことを考えると、もしかしたらもしかするかもしれない。
 ストーカー被害を訴えるのに、大事なのは、いつ、どんなことがあったか、メモをとっておくことだという。手書きのメモでもいいらしい。何しろ、警察に報告するときに証拠の一つに数えてもらえるからだそうだ。
 手書きのメモだと、捏造できるんじゃないか?とわたしなんかは思う。とにかく、全てを妄想にしたがる傾向があるから、手書きのメモを時系列に沿って熱心に作成して訴える、サイコパスを主人公にした話が四つくらい出来上がってしまう。いや、そうなるとサイコパスはもうお前だろうという話なのだが、それをいうなら、世界中のミステリー作家と脚本家は全員サイコパスだ。まあ、そうかもしれない。
 それはさておき、ぱちこ本人は、嫌なことは全て忘れるという残念な脳みその造りをしているから、また忘れるかもしれないので、書き記しておく。

2026年4月16日(木)
 百均で穴あきボードとスチレンボードを買ってくる

2026年4月17日(金)
 穴あきボードを設置
 ボードの上から覗こうとしている現場を目撃してしまう

 もし、ぱちこが職場で刺されることがあったらこれを提出してほしい。


#なんのはなしですか


 でもさ、人の好意って難しいよね?
 彼にもさ、悪気があるわけじゃないと思うの。そう、悪気はないのよ。嫌がらせをしてるんじゃないのよ。そこが難しいのよ。
 好みじゃないからキモいって思うだけなんだよ。好みの人だったら、気は散るけど衝立はしなかったと思うのよ。
 一方ではさ、ぱちこも「妄想劇場〜前から来る人〜」とかやってるわけじゃん。だからさ、悪くは言えないんだよ、でも耐えられないの。

耐えられないの

 結局、自分が話す前に、シゴデキ上司があれは何?って聞いてくれたから、さらっとお伝えできた。どうしても無理だったら、席替えするから言ってねとも言ってくださったので、安心した。こういうとき、お前の勘違いだろとか、思われてたとしても言われないのは心が休まるよね。

ちょっと安心

 このあと、スチレンボードも置いたんだけど、そしたら、ぱちこ小さいから、立ち上がっても向こうから見えなくなった!
 いつもは、立って帰る準備してたら、覗かれてすごく嫌だったのね……今日、気付いたんだけど、彼、背筋を伸ばすことなく仕事してた……やっぱり見てたんだ………………

はぁ……



なやめるぱちこの
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